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月夜のうさぎ【ショートショート小説】

N氏は都会での忙しい仕事と日々の喧騒に疲れ果てていた。高層ビルが立ち並び、夜も街の明かりが消えることはない。更にN氏の住むマンションの隣の部屋では、毎晩のようにパーティーが開かれ、その明るさと騒音が彼の唯一の休息時間を妨げていた。

ある満月の夜、N氏はバルコニーで夜空を見上げていると、突然一筋の光が月から降りてきた。その光の道を通って、一羽のうさぎが現れた。うさぎは優しく話しかけてきた。「こんばんは、私は月のうさぎです。街の光を集めたいのですが、手伝っていただけませんか?」

N氏は驚きながらも、その奇妙な状況に好奇心を抱いた。「隣の部屋が毎晩パーティーをしていてうるさいんです。あそこの光を消してくれるのはどうですか?」
うさぎは微笑んで頷き、その家に向かって杖を振ると、突然その部屋の明かりが消え、騒音もピタリと止んだ。停電になった感覚にちかいのか少し経つとまた光はついたが、場が白けたのかその日はパーティが解散になったようだ。N氏は驚きつつも、その静けさにほっとした。

翌朝、うさぎはN氏に「昨日手伝ってくれたお礼に、欲しいものを一つあげましょう」と言った。N氏は半信半疑で「良いネクタイが欲しい」と頼んだ。手元のネクタイがくたびれていたからだ。すると、うさぎは品の良いネクタイを出し、「どうぞ、お使いください」と差し出した。N氏はその奇跡に感激し、新しいネクタイを受け取り出社した。

その後も、N氏は毎晩うさぎと共に街の光を集めるようになった。ネオンサインの輝き、ビルの照明、車のヘッドライト。それらを集めるたびに、N氏の生活は次第に裕福になっていった。欲しいものが次々と手に入り、生活が劇的に変わっていくのを感じた。
数週間が過ぎ、街の夜は次第に暗くなっていった。特に住宅街は暗闇に包まれることが多くなり、その分N氏はさらに裕福になっていった。豪華な家具、高級な服、そして限定ワインや絵画等も手に入れた。N氏はその変化を楽しんでいた。
ある夜、うさぎが「これで最後です」と言いながらいつものように欲しいものを差し出した。「遂に十分な量の光が集まりました。」
N氏は驚き、「どういうことですか?」と尋ねた。うさぎは微笑みながら、「実は街の光を通じて幸福エネルギーを集めていました。Nさんにはそこから少しおすそ分けしてたんです。これで私たちの国も幸せになれます」とだけ言った。そして止める間もなくバルコニーから月に帰って行った。
残されたN氏は、一瞬の静寂の中で恐る恐る隣の家を見た。かつては明るく賑やかだった家が、今では真っ暗で静まり返っていた…

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