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必ず痩せるレストラン【ショートショート】

N氏は裕福な資産家だった。日々の生活に何一つ不自由はなく、食べたいものを好きなだけ食べ、飲みたいものを惜しみなく飲んでいた。しかし年齢を重なるにつれ、体型が変わり始めた。鏡に映る自分の姿に驚く。腹回りが目に見えて太くなり、顎も二重だ。

「このままじゃまずいな…」

だが、地道な運動や食事制限なんてまっぴらごめん。裕福なN氏にとって、そんな「労働」は無縁であるべきものだ。そこで彼が聞きつけたのが「どんなに食べても太らない」という噂のVIP専用レストラン。しかも3日3晩のフルコース付きという。これは楽に痩せられるチャンスだと、N氏は早速予約を入れた。

当日、リムジンがN氏を迎えに来た。豪華な乗り心地にN氏は上機嫌だ。

「これだよ、やっぱりダイエットだって贅沢に限る。」

しかし、リムジンは山の麓で停車し、運転手が言った。

「ここからは山を登っていただきます。」

運転手の一言にN氏は戸惑った。

「山を登る?レストランじゃないのか?」

「はい、レストランは山頂にございます。道中には食事と宿泊もご用意しておりますので。」

N氏は面倒くさいと思いつつも、楽に痩せられるならと渋々山を登り始めた。最初にたどり着いたのは山中腹の質素な山小屋。そこで出された食事は、薄いスープと硬いパンだけ。これが「太らないフルコース」なのか?とN氏は首をかしげたが、ガイドはこう言った。

「これで体内をクリーンにし、無駄な脂肪を燃焼させるんです。」

その説明に、N氏は不本意ながらも納得することにした。食事を終えると宿泊部屋に案内された。山小屋にも関わらず個室があり、室内は清潔であったためN氏はゆったり眠ることができた。

翌日は、さらに険しい山道を登ることに。今度は崖に垂らされた一本の紐を登らねばならないという。VIP専用サービスだとは思えないが、仕方なく挑むN氏。途中、何度か落ちかけながらも、なんとか登り切った。

山小屋で待っていたのは、ジビエ肉のカレー。肉の香ばしさが漂い、疲れた体には絶品だった。

「これなら、少しは満足だな…」

そう思ったN氏だが、翌朝は全身が筋肉痛に襲われた。さらに、三日目は果てしなく続くなだらかな山道を、日が暮れる前に山頂へ着かなければならない。N氏は汗だくになりながら早歩きを強いられた。

ようやく山頂のレストランにたどり着いたとき、そこには豪華なバイキングが広がっていた。肉料理、魚料理、デザート――どれも好きなだけ食べられる。N氏はそれまでの苦労を忘れ、思う存分に食べた。

温泉付きの豪華ホテルで体を癒し、ついに「楽に痩せる方法」にたどり着いたと思ったN氏。翌朝、再び山を下るとリムジンが待っていた。運転手は言った。

「おめでとうございます、N様。3日間で3キロの減量に成功されました。」

N氏は喜んだが、ふと考えた。

「これって、ただの山登りと質素な食事の効果じゃないか?」

結局のところ、豪華な食事に囲まれたとはいえ、ここでの体験はただの地道な運動と食事制限だった。しかも、山道を登るのは本当にしんどかった。

N氏は苦笑するものの、その確かな効果に対して文句は言えなかった。もう一度経験しないように生活に気を付けようという気持ちが芽生えた時点で確かに良かったといえた。

しばらくして、自制した生活を送ることでダイエットに成功したN氏に友人から減量の相談があったため、電話越しに教えてあげることにした。

「実は、どんなに食べても太らないVIP専用のレストランがあってね…」


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