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民泊規制への提言ーハワイの民泊と経済へのインパクト#5

 このシリーズでは、ハワイの住宅問題/家賃高騰問題に関して取組む団体、Hawaii Apple Seedによる、バケーションレンタルの家賃及び地域経済に関するレポート(2018年3月22日公開)を紹介している。
 シリーズの途中から読んでいる方は、以下のリンクより、最初の記事から順に読むことをおすすめする。
▶その1:民泊の増加は家賃上昇、地域経済の衰退を引き起こす?
▶その2:旅する楽園、住む地獄
▶その3:民泊と住宅価格の現状
▶その4:各地の民泊規制状況

 ここまで、民泊物件が増えることによる地域経済への影響や、他都市における規制状況などについてざっと紹介した。最後に、レポートを作成したHawaii Appleseedによる提言を読んでみよう。内容は以下のようなシンプルなものである。

Hawaii Appleseed による提言

■まずは現在の営業数を減らすこと
・無登録のホストに罰金を課すこと。
・Airbnbなどのインターネット上のサービスプラットフォームの透明性を増すこと(承認済ホストの可視化、サービス提供者によるホストのダータ収集と公的機関との連携)。
・ADU*(Additional Dwelling Unit/Ohana Unit)の例にならった厳しい制限を課すこと。
*ADUとは、一般住宅の庭などに独立した離れのような家のこと。住宅不足や家賃上昇を受けて、このような簡易住宅の追加とそこに人を住まわせることを許可している。ハワイでは、オハナ(Ohana)=家族にちなんでオハナ・ユニットと呼ばれることもある。ADUについては、6ヶ月未満のレンタルの禁止と、母屋でオーナーが生活していることが義務付けられている。

■慎重に数を増やすこと
・届出があれば、その物件の近隣住民に知らせがいくようにすること。
・ある特定の地域にVRU物件が集中しないようにすること。
・VRU物件の広告には、許可番号とオーナーの住所、土地利用区分についての情報を示すこと。
・ゲストの滞在時にはホストも常駐すること。
・罰金は低額を課すことからはじめるが、段階的に増額すること。

■規制機関の権限を増すこと。
■地域の参加を促すこと。

これ以上ひどくなるまえにどうにかせよ。

 これ以上ひどくなる前にどうにかせよ。つまりはこの一言につきる。
カジュアルなバケーションレンタル、あるいは民泊については、ルールを作る前にすでにマーケットができあがってしまっている。この手のつけられていない現状を整理することが先決である。まずは状態を落ち着けてから、よりよい共存方法を考えていくことが、現在やるべきことなのだ。当レポートにおける論調も、提言の内容も、方向性としては概ねこのような方針だ。VRUにしろ、日本の「民泊」にしろ、グレーゾーンが影響力を増してきた結果、後付けでルールを足している状態である。ルールができることについて反発したい気持ちもわかるが、このまま野放しにしているわけにはいかない。一度きちんとした規制を設けて、事態をクールダウンすることが現在求められている。

 VRUのネガティブな影響は、アメリカでは主に都市部における家賃上昇/住宅不足という問題とともに立ち現れてきた。文脈が少し違うと思われるかもしれないが、日本でも都市部において同じ事態が起こることは避けられないだろう。過疎が進む地域においては、家賃上昇などは起こりにくいのかもしれないが、それでも民泊で安く、サービスの低いレンタルが増えることで、逆に地域が稼ぐ(地域の価値を提供する)機会を失っているとなれば、それは地方にとって望ましくない結果となるだろう。日本では「地域の安心安全」や「迷惑防止」といった観点から民泊への規制について説明される部分が多いが、地域経済への影響についても、もう少し考慮されてほしい。

 私はけして民泊物件はなくなるべきだと言っているのではないし、Appleseedのレポートも、それを意図して作成されているのではない。私もAirbnbユーザーである。だからこそ、本来のAirbnbが挙げる価値観に、現状の民泊形態は沿っていないであろうことも感じる。最近では、本来目的とされていたはずの、人と人が出会い、交流するための手段としての民泊から商業的手段としての民泊がはびこっている印象を受けるのである。レンタル住宅市場から物件を奪い、地域住民や将来の住民、地域の受けることのできるはずの利益を奪っているのは、そういった商業的民泊ではないかと思うのである。これらは規制されるべきであるし、もし本当に商業的に成功したいのであれば、きちんとした宿泊施設として運営されるべきものであろう。「民泊」というグレーゾーンを見極めるためには、そもそも「民泊」の価値は何だったのかを確かめる必要がある。

 Hawaii Appleseedのレポートは、民泊の地域経済への影響をわかりやすく伝えてくれた。また、同じ島嶼地域である沖縄にとっても、似たような事態が起こりうるという良い参考事例になる。2018年6月15日からは、那覇市においても住宅宿泊事業法が施行される。県内の各事業者からは不満の声もあるというが、彼らの言い分にも、那覇市の説明にも、地域の経済への責任という視点がまだ足りていないように思う。この規制の内容についても紹介していきたいが、ひとまずこの記事でHawaii Appleseedのレポートの紹介はシリーズは終了としたい。


写真は現在大規模な開発が進むオアフ島のカカアコ地区・ワードエリアの開発後イメージ模型(Howard Hughes のWard Village)。高級コンドミニアムが立ち並ぶが、ここを買う/住むのは誰なのか、彼らの生活スタイルに合わせてまちの経済がどう変わっていくのか、隣地の別の大規模開発との連続性や相互の関係はどうなっていくのか…注視したいエリアである。


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