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人手不足倒産続出?空想移民読本第1章「もし、コンビニから移民が消えたら」

日本で生活する中で、移民の存在はすでに非常に身近なものとなっており、特に都市部では移民が極めて重要な労働力として活躍しています。

空想移民読本の序章では、データや試算を元に、日本で働く移民がどれくらい私たちの生活を支えているかを見てきました。本章以降は移民が活躍する業界別に更に詳しく考察していきます。

「空想移民読本」第一章!移民が消えた世界の「コンビニ」を考察


第一章のテーマは「もし、コンビニから移民が消えたら」です。

私たちの生活になくてはならない「コンビニ」は移民が最も活躍している業態といっても過言ではありません。特に都市部における深夜など人が集まりにくい時間帯では、移民の活躍なくして成り立たないのが現状です。

一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会によると、日本全国のコンビニで働く移民の数は7.6万人(2020年2月度)です。同資料によればコンビニ業界全体の労働者数が84万人ですので、移民の比率は約9%になります。これは全国の平均値なので、都内で生活している人の体感値はもっと高く感じられるのではないでしょうか。

正確な統計データはないのですが、東京23区内の店舗では移民が従業員の3割を占めていると言われています。ここまで依存度が高いコンビニから移民が消えてしまうと一体どうなってしまうのでしょうか?

3万人の労働者が都内のコンビニから消えると、、、??

全国で働く7.6万人の移民のうち、移民依存度が高い東京都のコンビニでは約3万人の移民が働いていると試算しました。

試算の根拠としては、コンビニで働いている移民の85%が大学や日本語学校に通う留学生であり、日本語学校が集中している都心に偏っていると考えられるからです。

「外国人雇用状況」の届出状況まとめによると、2022年10月末時点で留学の在留資格を持ち資格外活動をしている移民258,636人のうち、約4割の102,232人が東京都に集中しています。

コンビニで働く移民の都道府県別分布は、留学×資格外活動の分布とほぼ一致すると仮定すると、全国7.6万人のコンビニで働く移民の約4割が都内で働いているのではないかと考えられます。

移民が消えると、人件費が高騰し「人手不足倒産」を誘発する

それでは、特に移民への依存度が深刻で、コンビニの密集度が高い都内のコンビニから3万人の労働者がいなくなると、一体どうなるのでしょうか?

おそらく時給相場が大幅に高騰し、各店舗が時給を上げても人が集まらず「人手不足倒産」が発生する、と考えます。

ただでさえ人手不足な上に、コンビニだけでなく全ての業種から移民がいなくなると、人手不足は深刻な状況に陥るでしょう。

それでも売上が多く利益に余裕がある店舗では、時給を引き上げてでも人材の採用に乗り出すでしょう。しかし、実はフランチャイズ店舗の大半は、時給を引き上げられるほどの利益体質ではありません。

以下は2012年にコンビニ大手3社のうち1社の加盟店ユニオンが、本部を相手に団体交渉の是非に関して争った事件で提出されたデータです。古いデータですが、加盟店の利益の分布が見れるデータとしては貴重です。

こちらを見ていただくと、約4割の店舗の利益が400万円以下で、日本の平均年収の443万円を下回る結果となっていることが分かります。

内訳を独自に試算したものがこちらです。これらはコンビニ各社によって若干の差はあるため、試算では業界最大手のセブンイレブンのIR情報をベースにしています。

フランチャイズオーナーは、売り上げ総利益の内一定金額を本部に対してロイヤリティーとして支払う必要があります。

ロイヤリティーの比率は店舗に使う物件を本部が用意するか、オーナーが自身で用意するかによって異なりますが、ここでは各社で主流となっている、本部が店舗を用意するパターンを検討しています。

例としてセブンイレブンのこのプランでは売上に応じてロイヤリティ比率が変動します。月間の売上が550万円を超える場合は総利益の76%をロイヤリティとして本部に収める必要があります。

セブンイレブンは平均日販が業界最高の68万円ですが、日販が平均程度の店舗では十分な利益をだすためにはオーナーが店頭に立つ必要があると考えられます。

日販が平均程度の店舗では終日1名体制で店舗をまわすとして、1日のうち8時間はオーナーが店頭に立つと仮定します。するとアルバイトの月間総労働時間は480時間になるため、アルバイトの時給が1,270円を超えるとオーナーの利益は20万円を割ってしまいます。

自身も店頭に立ちながら、利益が20万円を割ってしまうようであれば、自分よりもアルバイトの方が時給が高い状況です。

しかし実際には利用者が多い都内の店舗であれば日販は平均を上回る事が予想されます。そのため、1.5倍の102万円の日販があると仮定してみましょう。

仮に24時間を3交代で深夜帯は1人、その他の時間は2人ずつのシフトを組んで回すとすると、アルバイトの総労働時間は960時間となりますので、1610円以上の時給を設定すると店舗は赤字になってしまいます。オーナーが店頭に立つとしても時給1,870円以上では店舗利益が20万円を割ってしまいます。

ここから言えることは、移民がいなくなることで人手不足が加速して時給が引き上がっても、どこかのポイントで経営が立ち行かなくなり倒産してしまうため、際限なく時給を引き上げて人を集めることは出来ません。

その上、飲食店など他の移民依存度が高い業界でも人手不足が深刻化しているため、時給を引き上げても人は集まらなくなっているはずです。

人手不足で都内の1500店舗が倒産?!

すると、少なくない店舗が人手不足倒産に追い込まれ、都内のコンビニの店舗は統廃合が進み、今よりも大幅な店舗数の減少が予想されます。

コンビニ1店舗で働くスタッフの数は約20名と言われており、都内のコンビニで働く移民3万人というのは、コンビニ1,500店舗分に相当します。

2023年3月末時点で東京都にはコンビニが7649店舗あるので、少なくともその約20%が「人手不足倒産」に直面する可能性があります。

都内で24時間営業の店舗が消滅する?

コンビニといえば24時間開いていることが大きなメリットですが、移民が消えてしまうと夜間営業の継続は困難を極めることでしょう。

理由の一つは人件費です。実は殆どの店舗では夜間の営業は営業効率が悪いのです。

しかし、24時間営業を実施することで本部に対して支払うロイヤリティが減額されるプログラムを各社用意しているので、営業の効率が悪くなっても24時間営業を続けることが出来ているというのが実態でしょう。

しかし、人件費が高騰した上に、深夜手当まで発生する時間帯の営業を継続することは困難だと思われます。

もう一つの理由は「夜間は人が集まらない」ということです。ただでさえ人気のない深夜の時間帯のシフトを外国人なしで埋めることは出来ない店舗が多いことでしょう。オーナーが自身で担当するか、24時間営業を諦める店舗が増えるはずです。

人手不足によりコンビニ→郊外型店舗への回帰が発生するか?

移民が活躍して支えている業界はコンビニだけではありません。そのため移民が日本から消えてしまうと、市場全体が極度の人手不足に陥ります。更に少子高齢化は不可逆な流れなので、人手不足が将来的に解消されることはなく、深刻度を増していく一方でしょう。

コンビニという業態は人手不足との相性が良くないといえます。

経済産業省が公表している商業統計によると、小売店における従業員一人当たりの売り上げを比較すると、コンビニは最も低く1,285万円。最も高いのは百貨店で5,722万円、ついで総合スーパーが3,291万円、専門スーパーが2,500万円となっています。

考えてみれば、コンビニは便利な分狭い敷地で少額の買い物を基本としており、売り上げに対する人員が多くなりやすい構造となっています。

人手不足が深刻さを増すことにより、人件費の比重が高まるコンビニは数を減らし、一回で大量にものを買うような郊外型のショッピングセンターが広がっていくのではないでしょうか。

もしくは、テクノロジーの進化により無人店舗の増加や、ドローンの普及による安価なデリバリー型の小売業は広がりを見せていくのではないでしょうか。

米国ではAmazonが試験的にドローンによる配送にチャレンジしており、2020年代末までに年間5億個の荷物をドローンで配送することを目標としています。すでにAmazonは非常に便利なサービスですが、無人配送が実現できれば物流コストも大幅に低減できるでしょうし、人手不足にも強いです。

次回テーマは「もし、農家から移民が消えたら」

今回は身近なコンビニから移民がいなくなったら、というテーマで考察してきましたが、次回は一次産業の「農業」から移民がいなくなったら、日本はどうなってしまうのか考察していきます。実は農業は特に若い世代の移民依存率が最も高い産業です。次回もご期待ください。