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「明日」を生きる理由だった人へ。

どうしても同じ苗字になりたかった。『服部 藍良』私のペンネームの苗字は、貴方から拝借したもの。私が中学2年生だった頃の、深く優しい思い出話である。


はんぞうくん

クラスメイトの男子に「服部半蔵だな!かっこいい」と言われているのを見ていた。私と彼とクラスメイトの3人だけの放課後の教室。夕日が差し込む窓を見ながら「そうか?」とはにかんだ笑顔を向ける彼をよく覚えている。私はその日を境に彼を『はんぞうくん』と呼ぶようになった。私だけが呼ぶ、彼の名前だった。


恋の意味さえ遠のくような

その頃の私はクラスの女の子たちとあまり馴染めず、家庭環境も劣悪だった為か酷く病んでいた。「学校にも家にも、この世界には私の居場所なんてない」と悲観した考えをずっと口にしていた。赤いボールペンでノートにびっしりと暗い言葉を吐くように書いていたのは、明らかに精神が正常ではなかった。

そんな時に席替えで彼と隣の席になった。右腕にシャーペンの先で傷を作った日の翌日だった。
「隣じゃん笑よろしくな」と爽やかに笑いかけてきて、冷たかった世界の温度が少し上がったような感覚に落ちた。私は学校に行くのが楽しみになった。すぐ隣に彼がいるだけで幸せだった。
恋なんて分からない年頃だったが、初めて「ずっと一緒にいたい」と心から願った人だ。


連絡帳の日記

学校で配布されている連絡帳には、50文字程度の日記が書けるスペースがあった。これは毎日担任へ提出するものだったが、書くのは任意だったので真面目に書いてる人なんてほとんどいなかった。

でも彼は毎日必ず、ホームルームが終わると書いていた。席が隣になってから、それを読んで帰るという習慣が出来た。次の席替えで席が離れてしまい酷く落ち込んだが、「別に読みたいなら読んでいいよ」と言ってくれたのが救いだった。

家には相変わらず居場所がない。クラスでは彼がいたけど、思春期の女の子たちは男子と仲良くするのが気に入らないのか、最初の頃よりも私の立場は悪くなっていた。

それでもよかった。私の世界は、彼の文章で満たされて何よりも美しかった。
行いっぱいに、大きく角張った小学生のような文字を書いているのがとても好きだった。
私はそれを読む為に生きていたようなものだった。
学校に行く理由だった。
いつも彼に明日を貰っていた。
幼く死にたかった私が「明日」に希望を持たせてくれる唯一の存在だった。


大人になった貴方へ

20歳の誕生日おめでとう。卒業して以来一度も交流がないので、記憶に住む14歳の貴方を想っています。貴方は今何をしているのでしょうか。私にしてくれた様に、誰かにとっての明日を生きる理由になっていたらいいな。

私は今でも、辛い時に貴方の名前を口ずさんでいます。そうすると記憶の中で貴方がいた日々が私に微笑んでくる。大丈夫だよって。貴方は凄いなぁ、離れていてもまだ私を助けてくれる。それはきっと生きている限りずっと。

だから貴方と同じ苗字になりたかった。当時の私は現実でそうなれたらいいなとか、告白すらしてないのに甘いこと考えたこともあったなぁ。
ねぇ、こんな美しい思い出をくれてありがとう。あの時も、今も、これからも、私を生かしてくれてありがとう。

貴方が今日という日を誇らしく、愛に溢れた人生を歩めますように。


ここまで読んで頂きありがとうございました。

貴方が明日を共に歩む人と、美しい日を過ごせますように。

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