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終わりさえ美しい、兄と結婚したい。

仲間と呼ぶには軽すぎて、友達と呼ぶにはあまりにも近く、恋人と呼ぶには遅過ぎる。血が繋がるほど濃く交わり、全てを預けられる家族のような人。
※安心してほしいのだが血縁関係はなく、戸籍も別であり「兄」はあだ名である。


結婚なんて

「生涯結婚なんてしてやるものか!!!!!」
本気でそう思っていた。これまで色んな人と付き合ってきたが、誰に対しても結婚したいとは思えなかった。「ずっと一緒にいようね」という嘘も合わせて流してきた。ずっとが存在しないことは、痛いほど分かっている。その時に楽しくて幸せで、漠然とした不安が紛れたらそれでよかった。先なんて求めなかった。いい加減でだらしない最低な自分。

誰とも寄り添わず、こっそり幸せになりたかった。離婚した母へのささやかな復讐心だった。幸せの形を男に求めたくなかった。私の家庭環境を「可哀想だね」と揶揄するような、生ぬるい感情で守られたくなかった。本当に幸せで特別な心は誰にも共有したくなかった。


お皿洗い

肌寒く曇りがちな天気が続く今年の2月。その認識が崩れる言葉があった。
私は仕事を退職し、一時的に引きこもり生活を送っていた。予定のないカレンダーを眺めながら兄に電話した。

買い物袋を抱えて彼はやってきた。「今日は何作るの〜」と冷蔵庫に物を突っ込んでいる。そんな姿を横目に昼食を作った。

同じものを食べて、美味しいと時間と場所を共有している。一度だけ、という名目で言えば何人かいたが、彼は時間があれば何日でも家にいるようになった。1人に慣れていた私にとっては不思議な感覚だった。
でも何を作っても彼に「美味しい」と笑顔で言われることが心地良かった。たわいもない事を話していたら、あっという間に食べ終えてしまった。

洗い物か…めんどくさいなぁ…と心の中で思っていた。家事の中で苦手な作業のひとつだ。手は荒れるし、冷たいし、お皿を割りそうで怖い。
勝手に憂鬱になっていたら彼はスッと立ち上がって
「私が洗い物するから、貴方は座って休んでいていいよ」と笑った。

甘えようかと思ったが、何もせず座っているのはもどかしいので、洗い終わったお皿を拭こうと隣に立っていた。洗剤でもこもこになった泡をお皿に滑らせながら彼は「私、洗い物好きなんだ。上手く家事を分担しようね」と楽しそうに私の目を見た。


美しくて、儚くて、尊い

その言葉に胸が締め付けられるようだった。
彼の話す未来には、いつも私がいる。そして私が誰かと一緒にいる未来が想像出来た唯一の人。
たったそれだけの言葉なのに、彼と結婚したいと本気で思った。
親は選べない、でも家族を選ぶことはできる。なら彼と家族になりたい。
終わりは必ず平等に訪れる。ずっとも永遠も御伽噺。でも彼となら、この儚さを大切にしていける気がした。


別れの時まで ひと時だって愛しそびれないように

最近、兄と2人でよく聴いている。
こんな最期だったら、終わる事さえ美しく愛しく、尊い人生だったね。

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