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【藍染】型糊置き体験2

というわけで、型付け/型糊置きについて。
濡らした生地に付ける手法と乾いた生地につけて裏から水を入れる手法その他色々あるのですが、ここでは濡らした生地につける手法でやっています。
ちなみに、順番はともかくなぜ濡らすのかですが、生地にしっかり糊が食い込んでいないと裏側から染まった色が表に出てしまいやすくなるからです。他に、乾いた生地から空気が上がってきて糊に穴が空いてしまうということもあります。濡らしていても両面付けすると間に挟まれた空気は逃げ場を求めて糊に穴を開けてしまうことはあるのですが…ともかく、糊場をできるだけ白く染め抜こうと思ったら生地に糊をしっかり食い込ませることが必要になります。ただ、濡らしすぎると糊を弾いてしまったり、糊が水分奪って柔らかくなりすぎてきれいに下りなかったりするので、充分に濡らして、しっかり水を切るのが大切です。霧吹きなどで濡らしてもいいのですが、そのときも表面がびしょびしょにならないように気をつけましょう。やりすぎたらちゃんと拭き取ってから糊を置くようにします。

生地をセットしたら、そこに型紙を置きます。
型紙は、抜いたところに糊が下りて、糊の下りたところが白く染め上がります。(捺染/シルクスクリーンなどとは逆になります。)染まる場所が飛び飛びになっている図案(例えば、ドット柄のドットが染まり)の場合、紗(シャ、糸)を張る必要があります。逆に、白く染め抜く場所だけが飛び飛びになっている(例えばドット柄のドットが白の)場合必ずしも紗を張る必要がないこともあります。このあたりは言葉ではわかりにくいかもしれませんが、実際にちょっと型を彫って糊置きしてみるとわかりやすいと思います。
なお、以前この博物館で二週間連続という日程で型彫り~染までの体験もやったことがあります。うちの職人全員が出張るので、二週間連続はなかなかハードなのもあって記憶にあるのは一回だけですが。
ともかく、出来上がりをイメージして糊を置く場所を決めます。柄が生地からはみ出す場合、そのまま置いてもいいのですがマスキングテープなどで伏せておくと台を汚さずに済みます。また、つけにくい柄や柄の一部をこのときだけつけない、みたいな選択もマスキングテープで出来るので、マスキングテープも用意していると色々便利なこともあります。
また、型の端と端を同じ柄にすることで、柄をつないでつけることも出来ます。これ(送り)は江戸小紋などで行われている手法で、商業的にやるには型彫り、糊置きとそれぞれ専門の職人さんがいるくらいにはちょっと難易度が高いのですが、失敗込みで趣味で楽しむ範囲であれば出来ないものではないので、型作りから挑戦してみるのも面白いと思います。

置く場所を決めたら、木べらで糊を置きます。
へらは大きいほどコントロールが難しく、小さいと広い柄をつけるのに時間がかかってしまいます。趣味でやるのであれば、適度に小さいものを使うのがおそらくやりやすいでしょう。
糊を型に置く、糊を広げる、型からへらを上げる時に気をつけないと型紙が動いてしまうことがあります。どの方向に力がかかるか考え、型紙を押さえる手の位置に気をつけて、うっかり押さえてる手を離さないように気をつけてください。
慣れてないと意外と難しいのは、木べらに糊を取る、木べらから糊を置く、型から余分な糊を回収する(最後のは必須ではありませんが)という木べらの扱い方ですが、まぁ、これは言葉では説明しにくいので動画撮れることがあったら撮ってみます。別に、手際の問題を別にすればこの方法でないと駄目みたいなものはないので、型のない生地の上に糊を落とさないように気をつけてやれば大丈夫です。

そして型糊置き、つまり糊を型紙の上に広げる作業ですが、ポイントをいくつか挙げると
・型紙は予め湿らせて、よく水分を拭き取って使う。
紗の糸、紙質にもよりますが、水分を含んだ時に多少の伸び縮があったりします。また、糸が乾きすぎている状態だと紗目といって、糊が糸に持っていかれて穴があきやすくなります。特に古い渋紙に絹糸張ってある昔ながらの型紙を使う場合にはしっかりと水に湿しておくのは必須。
・糊の厚み
どれくらいが適度かというのを具体的に示すのは難しいのですが、薄いと細かい柄はきれいに出やすいが広く白くしたい場所では糊が削れてしまって色が入ってしまいやすく、厚いと型紙を上げた時に糊を引っ張ってしまって柄の線がぼやけてしまったり、細い染まりの線が潰れてしまいやすくなってしまったりします。ケースバイケースでやや厚めの方がいい、薄めのほうがいいということはあり、型紙に使う紙の厚さや天候、糊の硬さ・状態なども影響しますので、総合的に出来上がりを考えて決めます。
・均一に、平らに置く。
乾く時に均一でないと境目に割れができやすく、一部だけ盛られすぎた部分があると型を引き上げた時にそこから糊を引っ張って生地を汚しやすいので、均一におけるようにするのが大切です。特に、糊が降りる場所に糊が溜まっている場所を作らないように気をつけましょう。へらの往復の間で高さの差が出やすいので気をつけてください。
・へらは寝かせて、しっかり力を入れて広げる。
ある程度力を入れておくことで、糊の食い込みを良くします。生地を濡らしてあるので時間をおけばある程度は食い込むのですが、食い込んでない状態で型を上げると、特に紗張りをしてある型の場合、者に引っ張られて糊が生地にちゃんと下りずに持っていかれてしまうこともあります。また、力を入れるのではなく、回数や時間で降りるのを待ってから型紙を上げるようにすると、糊のアルカリ分が抜けて(生地の水分や空気と混ざることで灰抜け/酸化する)柔らかくなりすぎてしまいやすいので、できるだけ少ない回数、時間で決めるのがベストになります。ただし、力を入れすぎて型紙が動いてしまったり、ガタツキが出て平らに置けないという方にも気をつけないといけないので、全力を出すのはやめましょう。コントロールできる力加減というのが大切です。これは、馬にもつながる話なので、それもそのうち書いてみようかな?
・型を引き上げるときは生地を押さえる。
糊の状態と、紗のきめ細かさでも程度は変わりますが、型紙を剥がす時に防染糊が生地と型をつないでいるので、ちゃんと生地を押さえておかないと生地がくっついてきてしまってきれいに剥がれません。せっかくきれいに置けてもはがす時にズレてしまうと糊が広がってズレてしまうので、型を上げ終わる時まで気をつけましょう。

主な注意点はこんなところですが、結果として失敗にならなければいいので、例えば生地を押さえる代わりに生地を台にしっかり固定するような工夫で生地を押さえ損ねる失敗を減らしたり、型紙の外側に木枠などをつけて重みを出し、変形しにくくすることで押さえやすくすることも出来ます。
その手の工夫で乗り切るのが難しいのが、均一に糊を置く木べらの使い方テクニックになりますが、これは力加減、へらの角度の固定、そのための身体の使い方などなどがあるので、別途記事に書いてみます。まぁ、自分より上手い人はいるはずだけど、多分無意識にやってる人が多くて、こういうテクニック・身体操作を言語化して解説するみたいなのを好きでやれる人が同じようなことしてる人にいないと思うのでやる意味はあるかな…と。ジャンルとしては馬術のほうが需要は多そうだけど、馬の方でそういうのやる人はたくさんいるし、このあたりは同業者でも必要があれば教え合う(やってみせる)くらいにうちの業界に秘密はあまりないので怒られもしないと思う。

型紙を引き上げたら、糊におがくずをかけます。
ただし、前述のように、糊に紗の目がたったり空気の穴があいたりして、ポツッと小さな穴が出来ることがあるのですが、これが最初パット見は泡のようになって表面が糊で覆われていて気づきにくいことがあります。そこで、道具の時に書いたほうきを使って、糊の表面を優しく撫でることでその泡を潰します。使うほうきが硬すぎたり、粗過ぎたりすると糊を削ってしまったり、周りを汚してしまったりするので、柔らかい製図用ブラシがおすすめです。ただし、コシが弱すぎるとそれはそれで使いにくいので注意してください。なお、うちの仕事場でも買い換える時に前のブラシが取り扱われてなくて、毎回都合のいいものを色々探して苦労することになったりします。
で、おがくずですが、役割としては主に、周りについてよごしたり、糊場に穴が空いたりしてしまわないようにするためになります。他におがくずが糊から水分を奪って、おがくずによって表面積が増えることで糊の乾きを早くする効果もあるので、目の細かいものが使いやすいです。ただし、細かすぎると舞って目に入る事があるので注意してください。
これは特に一つの型紙で糊を置いたあとに別の型紙でさらに柄をつけるとか、つないでつける時に前に付けた部分に触れてしまうとかいう時に必須になりますが、そうではなく、また生地がはためくような風もない場所で静かに乾かせるのであれば、おがくずなしでも染めることは出来ます。とはいえ、おがくずをかけたほうがやりやすい場面は多いので、基本的には使うことを推奨します。
また、おがくずの代わりに砂などを用いることも出来ます。染場や洗い場などで水に沈みやすいかどうか(流しやすいかどうか)が違ったりするので環境と都合によって染屋さんでも使っているものはいろいろになっています。

糊置きを終えたら、干して乾かします。
乾かすのに時間がかかりすぎると、糊際がぼやけてしまったりするので、できるだけすぐに乾く環境が望ましいですが、例えばハンカチ程度の薄い生地を使い少ない回数でちゃちゃっと染めてしまう場合には、糊が生乾きであっても染めることは出来ます。後日染めるからしばらく置いておくという場合には、湿気にやられてしまうと糊が傷んでしまうことがあるので、きちんと乾かしきって、風呂敷などに包んで、湿度が上がりすぎない安定した環境に置いておくのを推奨します。

なお、仕事で干すときは張り手や伸子といった道具があるのですが、ハンカチ程度のものであれば洗濯バサミなどでも大丈夫です。ただし、生地耳にまで目一杯糊が入るような柄の場合には糊を潰してしまわないような工夫が必要です。例えば、予め生地耳に糸を通して輪っかを作っておいて、それを使って干せる場所を作っておくとか。専門の道具であれば、伸子(シンシ/生地を張る道具)だけでもあると便利です。

講習会では、この糊置き~干しまでの作業を午前で行い、昼休憩を挟んで天気が悪いと生乾きの状態ではありますが、おおよそ固まってはいるという状態で、午後に染める工程を行っています。

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