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【藍染】染物屋の話

あまりにも仕事の話をしないので、割と身近な知り合いにもなんとなく藍染というのをやってる程度にしか知られてない(何作ってるのか知らない→そもそもどんなの作れるの?)ので、たまにはちょっと仕事の話を。長くなるのでnote使ってみた。どうやら大学で会った後輩がピースオブケイクの方で働いてるっぽい?ので
うちだけじゃなく業界としてCOVID-19感染症のおかげで仕事量が半減なんてものじゃないみたいだし、一般によくは知られてない仕事なのでそれならもしかしてこういうのも注文できるかなっていう話が入ってきてくれたら嬉しいというのもある。
ちなみに、この業界は創業100年以上の企業はザラで、うちも例に漏れないけど、年々縮小傾向にある中で今回のこれは果たしてどれだけ生き残れるのか少々怖い。多分、一度減らしたら新規参入は殆どないので、今後お祭りなどの需要が何らかの要因で上がったとしてもこれまでのようなものを作るキャパは減ってしまうことになる。それはちょっともったいないから、一時的にでも飲食店みたいにこう、ちょっと補助してもらえると助かるんだけど、あんまりこっち見てくれてないよね。

さて染め物にもいろんなジャンル、技法があるわけだけど、うちでやっているのは主に合成藍化学建て糊置き浸染による印染で、製品としては祭半纏がメイン。技法に合えば他の製品(暖簾など)もできるしやってる。でかし、江戸染と言われる呉汁(大豆の絞り汁)を接着剤/バインダーにした色物の顔料引染めもやってる。まとめると染料は藍と顔料、柄つけの技法は型糊置きで、染色技法は浸染と引染、ジャンルは印染。
というわけで、長くなるのでまずは合成藍化学建てそれなんぞという話。とはいえ藍染の話は色んな所で色んな人が書いてる気がするけど。そのうちに他の染色技法の話とかも書くかな?(日本の印染Ⅱ

まずは合成藍の話から。
藍染といえば植物の藍で認識されてるけど、青を生む成分であるインディゴ色素は1800年代の終わりに人工合成されていて、うちではそれを使ってる。もちろん、今でも植物に含まれるインディゴ色素を使っているところもごく一部にはあって、いくらかの特徴の違いは(おそらく不純物の関係などで)あるようだけど、メインになる色素自体は由来が違うだけで同じもの。植物でもいくつもその色素が含まれている植物があって、インディゴ含有量が多いタデ科やマメ科の植物が染色用に栽培されてる。日本では主に蓼藍というものが栽培されていてこれは比較的含有量が少ないので濃縮させるため発酵させて加工してすくもという状態にして染料として用いる。有名な産地は徳島。他には琉球藍やインド藍などがあって、こちらは泥藍(沈殿藍)のかたちで用いられることが多いよう。

じゃあ化学建てとは、ということで、まず藍を建てるという説明をば。
藍染の特徴はそのままではインディゴは水に溶けないというのを利用する。なお、同じインディゴ色素を使った染め方でもインディゴを顔料として接着剤(バインダー)で貼り付けるようにして染める方法もある。一方で建てるというのは、インディゴ色素を水に溶ける状態にして溶かすということ。
生きた植物の藍の状態ではインジカンという状態でこれは水に溶ける。ただし酸化して即座にインディゴになってしまうため保管が効かない。(生葉染といって詰んですぐの植物で染めることはできる。)植物藍でも合成藍でも保管された状態ではインディゴになっているのでこれを水に溶かす必要がある。
このインディゴを何らかの手段で還元させるとロイコインディゴ(インディゴホワイト)と呼ばれる状態になり、アルカリ性の水に溶ける状態になる。(酸性の水では酸化してまたインディゴに戻ってしまうためアルカリ性で安定する。)この還元・溶解させる手段として、大きく分けて化学建てと発酵建ての2種類がある。
還元に使われるものとしては、ハイドロサルファイトナトリウム、亜鉛、ブドウ糖等がある。(本人は発酵建ての細菌への栄養素としてブドウ糖などの糖質を入れてるつもりで無自覚に化学建てにしてしまっているところもあるらしい。)発酵建てではこのような物質を使わずにバクテリアを用いてインジゴホワイトに還元する。アルカリにするために使われるのは石灰、木灰、貝灰などが主で、どうもカルシウムは必要な模様。(イオンの関係?ここはちょっと詳しくない。)
アルカリにするため染液表面にはアクができ、還元する際には気体が発生するので液表面に泡の塊ができることがある。これは『藍の華』と呼ばれてちゃんと建っている証の一つではあるのだけど、染にあたっては邪魔になる(アクの塊がつくと染めムラの原因になる)ので染にあたってはないほうがいい。藍がちゃんと建っているかの参考になるのは藍の華だけではないので例えばアクの量を必要最低限にしたりして藍の華がほぼ残らないような加減になっていても染める前にある程度判断をつけることはできる。先程書いたように、水に溶ける状態ではロイコインディゴになっていて、これは青ではなく茶褐色になる。(体験で小学生が見ると驚く所)なので上澄み液は茶褐色をしていて、石灰を巻き上げると白と混ざるので黄色がかった色になり、もし還元しきれていないインディゴも混じっていると青が混ざって緑に見える。これが染まる状態の染液。きれいな茶褐色で落ち着いているのが望ましい。

というわけでとりあえず藍染の説明だけになったけど、付け加えると合成藍も天然藍も化学建ても発酵建ても、基礎になる原理は一緒で過程が違うということ。合成藍を使うのはインディゴ染だっていう人もいるし、合成藍以前の日本古来の染め方が藍染だっていう人もいるし、世界様々にあるインディゴ色素を含む植物を使った染(もともと様々にある藍の植物も大昔に人の手で広まってきたものなので世界各地にその土地ならではの染がある)を藍染という人もいるし、海外のはインディゴ染と呼ぶという人もいる。なので、この手の話は良くも悪くも表面的な呼び名に振り回されないほうがいいかな?
違いが出るのはおそらく『不純物』と『還元力の強さ』の要素。不純物については合成藍はほぼ100%が色素なのに対して植物藍は元の植物の成分や加工過程で入り込む成分がある。(もとの植物の種類でも違うしすくもか泥藍かでも違う。)還元力の強さについては、同じ化学建てでも使う還元剤によって違うし、ものによっては発酵建て寄りのこともある。なお、還元力が違うと何が変わるかというのは、インジゴは分子会合するので分子の大きさが変わりそれによって拡散係数が変わるという話がある。(天然藍で染めた色と合成藍で染めた色の比較

また、ここに書いたように藍は通常水に溶けないので、原理的には藍は色移りしない。溶ける状態にして染み込ませて溶けない状態にすることで移らないようにする染め方になる。糸の表面に乗っかっているだけで化学的に結合しているわけではないのでそういう意味では耐久性は低いのだが、色素自体の耐久性は強いので安定性は充分に高く、また経年変化の見た目も受け入れやすいため長い期間使う事ができるのが利点。
ただ、実際には色移りの注意が強く言われることが多いのには理由があって、特に合成藍の場合染液が濃いので過剰に色素が乗ってしまいその分が摩擦などで剥がれてくること、なんらかの原因で再還元が起きてしまうと染まってしまうことなどがある。摩擦によって移ったものは染まらない状態でくっついたものなので洗うことで簡単に落ちるはず。時間経過や洗いなどでそれらの要素は安定性を増してくるが濃い色、厚い生地ほどそうなりやすいので逆に言うと薄い生地であれば特に気遣いなく使用して、洗うことができる。また下地に顔料などで別の色を付けた上で藍染めをしている場合はその顔料の耐久性にも依存する。
そんなわけで、ハンカチ手ぬぐい小物程度なら色移り全く気にせずに使えるものはあるので、管理がめんどくさそうだからって理由で遠ざけてる人がいたらそういう心配のなさそうなのを使ってみてください。手間暇かけて余分な色が乗らないように(回数を重ねて)藍だけで染め上げたものに関しては濃い色でも色移りしないと思いますが、見極めは難しいので、とりあえず最初は気をつけて様子見つつ大丈夫そうなら普通に使いまわして大丈夫。

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