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【藍染】藍染、型付、馬ーあるいは不思議な縁


タイトルの流れになんか見覚えがあるという方は多分、ダグラス・R. ホフスタッターをご存知なのでしょう。いや、ふと思い出しただけで内容は『ゲーデル、エッシャー、バッハ―あるいは不思議の環』とは関係ありません、あしからず。エッシャーだけちょっと関係あります。エッシャー好きなので。

さて『染色技法』と『印染』についてちょっと書いたので、柄をつける『型付』関連の話題を。
うちでやっているような『浸染』『引染』(あるいは家ではやっていないけど注染)では、防染糊というものを生地に置いて染まらない場所を作ることで柄をつけます。

糊の置き方として、ざっくり分けて『型糊/型糊置き』と『筒引き(筒糊/筒糊置き)』があります。
型置きとは、型紙を彫ってヘラで糊を平らに置くもの、筒引きとは筒で糊を置いて柄を描くもの(ケーキホイップを置く絞りをイメージしていただければ)になります。ざっくりいうとなるべく同一に近いものを複数作る時は型紙に利があり、少枚数、単一のものを作るときは型紙制作/保管しなくて良い分、筒引きに利があります。
現在、筒の道具も一通り揃ってはいますが、うちでは筒引きに長けた職人さんはいないのでほとんどを型で行っています。→「型」について

型は水に強い紙(かつては渋紙といわれる和紙を丈夫にしたものを使っていましたが、現在制作する時は手に入りにくくなったのと他にも色んな種類の紙が出てきたことから、水に強い洋紙を使っています。)を使い、デザインカッターなどで柄を彫り、離れた部品が落ちないように糸掛け/紗を貼って繰り返し使っても壊れないように補強して作成しています。
ときに柄によっては糸/紗をかけずとも使えるものもありますが、部品がつながっていても柄に角のあるものなどはそのままでは破損しやすいので基本的には殆どの場合は糸をかけます。使用頻度などにもよりますが、概ね10年以上は保管して再利用されています。

さて、で、タイトルがなんでこうなったかの話題を。
随分前の話ですが馬術部の後輩が馬柄の紋をデザインしてくれたので、許可もらってそれをアレンジしてつなぎ柄にして、型を彫って卒業生/関係者へのプレゼント用に制作している柄があります。
もとが紋の形だったので、その円形をきれいにとってつなげて配置したもので、日本では昔からいろんな柄を語呂合わせだとかで縁起をかついでいたのに合わせて【馬の縁(円)がどこまでもつながるように】との意味を込めています。そんな意味を込めてるので一応、反物などでもエンドレスにつなげて型付できるようなデザインにはしてあります。四方どっち方向にも。ちょっとつなぎ目が難しいのであまりやりませんが。
藍は愛と同じ音なので、さらにそれも込めやすいんですよね。【愛に染める】とか【愛で染める】とか。この場合は【あいでできた馬のえん】としています。

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柄や手法に意味を込めるのは昔から言われていたこと以外でも自由にできるものなので、プラスの意味でどんどん使っていくといいと思います。マイナスの意味をわざわざ付けてマナー違反みたいなやり方する人もいますけど(ハンカチ→手巾→てぎれ→手切れなど)そういうのはオススメしません。思いを乗せるのは人の自由なので楽しくなるように言葉で遊ぶといいと思います。
ちなみにタイトルの元ネタにあったエッシャーは無限を有限に閉じ込める作品を作っている好きな作家で、手法も版画で無限と有限の狭間にあって、また騎馬の作品も作っていたりするので、それを思い出してふと乗っかりたくなったのが記事のタイトルです。版画の手法と型糊置きや捺染の主流であるシルクスクリーンの技法は似てる所あるしね。まぁ、記事が書きたかったというよりタイトル思いついたから書かざるを得なかったというわけですね、はい。芸術家とかそんなに詳しくはないけど、エッシャー、いいよね。無限と有限とか中学生くらいからずっとみんな好きでしょ?

っと、閑話休題。そんなわけで、多くの染物屋では図案があれば自由に型紙制作からできます。図案の時点で相談に乗ってくれるところもあります。筒引きメインのところは図案の下書きからそのまま筒引きで書いてくれます。ただし、技法の選択と糊置きと色差しの特性(例えば色を変えるときには間に白場/糊置きで分けるのが必要など)を考えに入れる必要があったりするので、どんなデザインでも…というわけにはいきません。似た感じを出せるようにどういう工夫ができるなどの相談/提案はやってくれるところは多いと思います。

費用は…デザインによって結構変わってしまうので、実際に作って欲しいという場合には問い合わせが必要です。
うちでは主に手彫りですが、PC、機械で制作している工場もあります。PC/機械制作のところは必要な形式のデータにしてそのデータで保管し、使用の都度型は壊してしまう(管理保管の手間を省くため)ところもあります。手彫りで型保管のところは別の染工場で制作するときに貸し出してくれるところもあります。(ただし、『捺染』では白く抜くところと色を付けるところが他の染の糊置きと反転するので使い回しはできません。注染も糊置きが独特なので使える場合と使えない場合があります。事前に他の染色法も検討しているときはその旨伝えて相談すれば詳しく教えてくれるところもあるかもしれません。)工場によってそういった違いもあるので、一旦制作すれば型が壊れるまでは型の費用がかからないところと再制作の際に費用がかかるところと、費用は取らないけど一度の最低ロット数が決まっているところなどいろんな料金設定があります。
また、ご自分で型を彫って持ち込みで染めることができる場合もあります。その場合にも、工場によって扱いやすい型の規格があったりするのでデザインを確定して彫り進める前に一度相談しておくほうがいいと思います。結構、彫るのは大変なので実際に彫ってしまってからその形式だとちょっと取り扱えないと断られてしまったら辛いと思いますので…

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