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【藍染】へら使い/スキージングと身体操作テクニック

【藍染】型糊置き体験2で書いた、糊置きのへら使いに関して。
おまけとして、シルクスクリーン捺染のスキージングの話も合わせて書こうかな?
共通項もあれば、違うところもあるし、かといって趣味の人が学ぶ本ってのはあんまりないから、捺染を趣味の独学でやろうとするとちょっとむずかしいし、体験ではあんまり細かいこと教えてもらえないし、仕事では現場の人がどれだけ教える能力あるかに左右される世界でもあるし。見て覚えられる系の人はいいんだけどね。なお、うちで捺染をやってるわけではありません。
出かけられないから家で趣味で染めやる人もいるかもしれないしね!え?いない?
そして、意外と馬術の経験は役に立ってたりするの。まぁ、他のものでも似たような感覚の応用はあると思うので、馬術である必要はないけどそれはそれ。

さて前の記事で書いた要素のうち、へら使いに関するものは
・糊の厚み
・均一に、平らに置く。
・へらは寝かせて、しっかり力を入れて広げる。
あたり。

そして、道具のへらに関して言うと、記事TOPの写真がうちの型付けで使われているタイプの木べら。これが注染だと、型=生地幅サイズになってその幅いっぱいのヘラを使うので、もっと大きな(付け幅が手拭生地の幅並み)ものになって持ち手もしっかり握れるようになってる。使う糊も海藻糊でもっと柔らかいなどの違いがある。
捺染で使われるものは、スキージ(へらの意味)、あるいはスキージ シルクスクリーンあたりで検索すると見れると思う。(他の関連用語としては、捺染、プリント)持ち手などは木の素材だったりするけど、大きな違いは型/紗にふれるところがゴムであること。手のひらサイズの小さなものから、1mくらいの大きなものまである。これも注染と同じく型の幅いっぱいで使う事が多い。差し色みたいな小さなものはこの限りではなく、それで小さいものから大きなモノまで様々。また、ゴムは四角くなっていて、角が尖っているものと丸めてあるものがある。

といったところで、まずは糊置きの基本の共通点に関して。とはいえ、注染はちょっと見学しただけで実際にやってみたことはないのでほとんどわからないから、そこのところはご承知おきを。
基本的に、染まらない場所を作る防染糊置きも、染料の入った糊を置いて直接染める捺染も『平らに置く』のが基本になります。
へらで糊を平らに置く時に重要なのは『へらの角度を一定に保つこと』『かける力を一定に保つこと』の2点。また、角度にしろ力にしろ、自分の体に近い方から遠い方までおおよそ同じ加減にするようにならないと厚みに差が出てしまうのでそれのコントロールが必要です。
へらの角度は、寝かせると糊を『残して置く』ようになりやすく、立てると『掻き取り』やすくなる。薄く置きたい時や、型から糊を回収したい時はやや角度を立てて取ると残しにくいが、糊を置くのに立てすぎるときれいに掻き取り過ぎてしまって、特に粘りの強い防染糊の場合は柄のフチが薄くなってしまうことがある。寝かせすぎると力が必要になって型紙がずれやすくなったり、防染糊でへらの上の方やへらを握っている手を汚しやすくなり、手を汚してしまうと生地も汚してしまいやすくなるので注意が必要。
ちゃんと測ったことはないけど目安としては、およそ45度プラスマイナス15度といったところ。ただ、プラスマイナスとは書いたけど殆どの場合は30~45度といったところになるかな?寝かせ目、伏せ目にして糊を置くのが基本で、どちらかというと立てすぎによる失敗をしやすいです。
特に、捺染のスキージは行きと帰りで違う角のあるゴムであるため、90度近くに立てると角が当たらなくなってしまうので、45度というのは大事な感覚で、そこからどれくらいの加減で押し付けるかというのがテクニックの一つになります。
また、ゴムは木べらと違って力の入れすぎで曲がりやすいので、染料の掻き取り残しを力でなんとかしようとするとうまく行かないケースがあります。(特にゴムが曲がりやすく、力加減に歪みが出やすいスキージの両端)そのため、力加減以上に、力加減のためにも角度の安定がへら使いの基本として重要になってきます。

さてそこで、じゃあどうやって角度と力加減を一定に保てるようにするかが問題ですね。そう、ここで馬術が役に立ったのです!
まぁ、馬術の話は馬術の話で書くとして、どういうコツだったかと言うと関節を固定する身体の使い方です。実は、馬術では多くの場合逆に固定させずに柔軟にするように使うことのほうが多いので逆の発想で使っているという話なのですが、根本は同じなので。

簡単に言えば、『手先でやらないこと』がコツです。
さて、具体的に試してもらうとわかるのですが、人の身体はヒネると固くなり、中間で柔らかく使えるようになります。まぁ、関節を曲げるには縮める筋肉と伸ばす筋肉の両方が必要なので捻転でリキむと固くなるのは道理なのですが。同様に、親指を押し付けながら親指側を上に上げる方に手首を曲げようとするなどいくつか関節をロックしやすくする使い方というものがあります。
これを利用して、適切な角度にセットしたら手首までを固めます。そして、二の腕~肩、あるいは身体~足の動きでへらを動かすようにすることで、へらの角度を安定させたまま大きい筋肉を使って動かすことが出来ます。
またへらの進行で若干どちらかの端を先行させることで余った糊を片方に寄せることが出来ます。特に、柄の面より小さいヘラで防染糊を平らに置く際にはこれを利用してどちらかに寄せながら糊溜まりを柄の外へ持っていく必要があります。このときの微妙な角度の固定もこのコツでやりやすくなります。
実際、体験でもうまく置けない人は手首~肘を使って動かしがちですね。なかなか体験講習会でそこまで細かく教えるのは難しいのでココで書いてみたので、興味持って体験行く人はちょっと思い出しながらやってみてください。
なお、読みを外して角度つけすぎて糊を切らせそうになってしまった場合、へらを止めてしまうとそこが線になってしまうため、スピードを緩めながらも動かして少しづつ調整する必要があります。手先での調整が必要な際はゆっくりと動かすこと。ただゆっくりにしすぎるとガタツキが起きやすいので、『等加速度運動』をイメージして緩急つけると境目が目立ちにくくなります。(特に捺染で重要)まぁ、ごまかしが必要ないようにするのが一番なのでギリギリを狙いすぎないようにしましょう。防染糊置きの場合は、型さえ上げなければ一度や二度ならやり直しはききますし。
ちなみに、固定を目的に近いところで、細かい調整は遠くで行うという使い方はライフル射撃で狙いの微調整するのに、手先ではなく足元など遠くを動かすという話を聞いて、馬術のときの身体操作の考えに応用してみました。こういうのは割と役立つこと多い発想かも?

他に、へらの進行方向と反対側にたっぷり糊がついていると、返す時にそれを引っ張ってしまってポツポツと残してしまうことがあります。
これは、返す前にそこを型紙になすりつけたり、きちんと切ったりすると防げます。できるだけこれが必要ないようにするとスピードが上がるのですが、まぁ、趣味でやるならそこまで必要ないのできちんと切ってやるのが安定すると思います。
また、防染糊を置く場合には、へらを返さず(往復せず)一方向でやる手もあります。ただし、この場合にはより立てすぎによるフチのかすれが出やすくなりますのでご注意ください。ポイントは、へらの角度がちゃんと寝ているか、へらを動かすスピードが早すぎないかで、糊を薄く置くときほど気をつける必要があります。

ちなみに、上でもちらっと書いたけど防染糊を置くときには、型の引き上げまでにそれなりにやり直せるので、例えばちょっとだけ段差が残ってしまったらあまり力を入れずに、でもしっかり角度は固定する感じで『撫でて』段差を潰すみたいなことが出来ます。やり直せるからといって完璧になるまで何度も何度もやっていると糊が傷んでしまって柄の細かさや染に問題が出ることがあるので、適度なところで見切りをつけるのも大切です。
一方で、捺染の場合は往復数、スピード、糊の柔らかさによって生地への浸透度などが変わるため、それに合わせて色の濃さ、柄の細かさ(にじみが大きくなる)などに影響が出ますので、やり直しには防染糊以上に気をつける必要があります。にもかかわらず手作業であっても捺染の方が安い事が多いのは、作業工程にかかる時間が短く大量生産しやすいからであって、捺染には捺染の難しさがあります。捺染にも色々あるので捺染だからといって一概にどうといえるものでもないですけど。

最後にもう一つ、書こうと思ってて途中に入れ込むのを忘れてた力加減について。
これも馬術で学んだことですが、『全力』でやってしまうと得意な、使いやすい方がどうしても強くなってしまいますし、余計なところにも力が入ってしまいます。なので、調整するためには、弱い、苦手な方をそれなりに自由に使える程度を限界として合わせるのが基本になります。そのうえで、その限界では足りなければそこの限界を上げるように鍛える必要があります。また、特別意識して鍛えなくても、そういう意味での限界できちんと使っていれば充分にそこに関する筋力もついてきます。
一方で、無理に力を入れてしまうと、神経系の問題(ざっくりいうと命令がよりよく通る神経が強くなり使われない神経が弱くなる)でほかの筋肉が連動して使われてしまう癖がついてしまい自由度が失われやすくなります。独立した動きを覚えさせるためには、無意識の連動(もちろんプラスになる連動=連携は良くて、目的の動きの邪魔になる連動が問題)が起きないギリギリのラインで使い続けるほうが有効です。
特に捺染ではへらの両端の力加減が一致していないと、ゴムが折れ曲がって染料を取り残します。大きなへらを使っている場合には余計に起きやすいので、力が足りないと思ってメインの染め手から遠い方をすこし助けてもらうことで二人で染めることも多いのですが、実は身体に近い方に力を入れすぎているだけというケースが有って、角度の固定とあわせてこの加減をうまく使うと一人でも染められるケースがあったりします。とはいえ、それくらい大きいサイズになると基本的に生地を引き上げるのに基本的には最低二人必要なのであえてサポートを外す必要はないのですが、逆にサポートの人が力を入れすぎるとそれはそれで同様のことが起きてしまうので、『力を入れているはずなのに取り残す』というので悩んでる染め手の方は、『角度』と『力加減』の2点に気をつけてみてください。案外、力を緩めたほうがうまくいくこともありかもしれません。
何事も過剰はダメということですね。

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