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犬は吠えるし、人も吠えるので。【アパート番外編】

笑い話。あるいは本当にあった怖い話。

事件に際しての情報提供。

私が昔住んでいたアパートは動物飼育可。
まだ数年しか住んでないうちに周りで数回引越しがあり、私の入居1年でだいぶ顔ぶれは変わった。

私が入居する時、管理会社から引っ越しの挨拶周りなどはしないように言われた。防犯上の理由と隣人トラブルを回避するためとのこと。

このアパートで顔ぶれが変わる中、
引っ越しの挨拶は一度もない。
でも、生活の上ですれ違ったりだのして、
どんな人が隣人なのかは分かってきた。


そして、
入居当時は隣人トラブルも無かったが、
顔ぶれが変わると意外な悩みができたりした。

一つ、お隣さんがとても無愛想で挨拶しても知らんぷりされる事。これはどうでもいい。人見知りとかいろんな人がいるからね。

二つ、もう一つ隣の人が犬を飼いだしたけど躾が出来ずベランダで吠え放題にさせてる事。これがちょっと困っている。

ペット可なのでクレームのつけようがないが、アパートの下で人が通るたび吠える。その度に驚く。

何度か下を通った小学生が、怖くて泣いてしまったのを見た。あれから登校ルートを変えたのか我慢したのかは分からない。

その部屋の前の住人さんも犬飼いだった。
その住人さんも他の犬飼さんも部屋飼いで躾もしっかりされていたので、困ったことがなかった。
一度他階の猫がベランダから降りてきてしまった時はもう大謝罪会になった。こちらが気まずいくらいだった。

そんな感じで、躾のできていない飼い犬を見たことがなかった。というか、躾ができてなくても対処しないことに驚いてしまった。

階段のプリっ!も放置。少しでも目を離すと猛ダッシュで他階の人の部屋に入ってしまいドッグファイトしてたし。
流石に管理会社にクレームがいったのか、プリっ!は片付けられるようになったがその後もドッグファイトしていた。


うーん、ペット可物件の悩ましいところだなぁ。

隣人にアレルギーが出たりハウスダストの問題、排泄物などの臭いの問題がある。
昔なら良かったかも。当時は平成から令和に変わる話し合い中。やはりそういうトラブルを回避する意味ではペット可の物件を選ぶしかない。

とほほん。

事件前日。

ウチの周りでは当時、市議選で選挙カーが大はしゃぎしていた。皆さんの周りでも同じだと思うが、選挙カーに近所が迷惑してたりする。

私のうさぎは小さいうちに掃除機の騒音には慣れさせているので、1日一回必ず掃除機をかけている。
なるべく私の思う、みんな起きて活動しているだろう時間に掃除は済ませているつもりだ。

一度、選挙カーが演説をしていたときに掃除機をかけた。一通り掃除し終えてスイッチを切ったとき…

(掃除機を切る)ぶぅん……
……をお約束します。ご静聴ありがとうございます。

みたいな事になってしまった。
選挙カーの演説に被り、演説が全く聞こえなかった。
スイッチを切ってから気づいたので仕方ないが、なんとなく嫌味に思われそうなタイミングだった。
なんとなく、やだな、と思った。

その日夕方買い物に出ようとしたら悩み1の無愛想なお隣さんもタイミングよく出かけるところだった。
とことんタイミングが…

返事がないのはわかるが、一応は挨拶していた。
「こんにちはー」

「…こんにちはー」
なんと初めて挨拶を返された。スマイル付きで。


「こんにちは、今日のあれ、掃除のタイミング良かったねー!選挙カーうるさくて!俺も真似しようと思って」
挨拶どころか初めて会話をした。が、内容に気まずいものがある。

嫌味を言われたと思って、
「掃除機うるさいですか?時間とかなるべく気にしてるつもりなんですけどすいません」と返したら、

「あー違う違う!掃除はしないと!選挙よー。あれはうるさい。あれは誰も求めてないだろ」と語られた。
結局階段を降りて別れるまでずっとその話をしていた。



その日、真意は分からないままだった。

事件同日。

この日もお隣のわんちゃんはお元気だ。道行く人やゴミ捨てに出た住居者に吠えている。

私は掃除機をかけるか、少し迷った。
でも換毛期ですごい…。
お隣さんが仕事に行った後に掃除機をかけた。

そして事件?が起きた。

夕方お隣さんが帰ってきたらしい。
ストーカーみたいで嫌だが、どうしても生活音は聞こえてしまい、なんとなく把握できてしまう。

いつも通りの変わらない時間があった。


ところがお隣さん2のワンちゃんが唸る、ぐるぅ…という声がした。
どうやら誰か通ったらしい。見てはないけど、臨戦態勢に入ったワンちゃんの気配がする…。


3、2、1…

「わんわん!うぐぅー!!わんわん!!」


始まったー。
私は換気のため開けていた窓をそっと閉めようとした。


すると、どう考えてももう反対側。例の無愛想なお隣さんのベランダから声がした。

「ああああ!!
わんわんわんわんわん!!!」


嘘だろ。もう一つ吠え声がした。
したけど、犬じゃない。

どう考えても人間のわんわんだった。


犬のような可愛らしさとネイティブ感のない、ハキハキとしたわんわんだった。
どう考えても一人暮らしで唯一ペットを飼ってない、あの無愛想なお隣さんの吠える声だった。

頭をよぎったのは、昨日のやりとり。
選挙カーに威嚇吠えた、私の掃除機のタイミングを彼は褒めていた。

まさかそんな…。嘘だろ…。
私を模倣してるつもりなのか?
騒音には騒音を?吠えたら吠え返すの?

ともかく、溜まり溜まった不満が爆発したことだけはよくわかった。


笑える気もするが、不気味でもある。
なんだか変な緊張を感じ取ってしまって
気持ちを堪えながら窓を閉めた。鍵まで閉めた。

そろりそろり音を立てずに、玄関の鍵も確かめに行った。なんかやばい予感がしたから。

案の定というのか、悪い予感はあたるもので。

玄関から、無愛想なお隣さんが勢いよく出てきて、
お隣のわんちゃんの家の玄関をピンポンピンポン、どんどんどんどんしてるのが聞こえてきた。
廊下から人間同士の喧嘩の声が聞こえてきた。
ワンちゃん側の住人は男女のカップルだ。

男性側が応答?喧嘩してた?
そして犬も吠えている。

……え、やだ。怖い。


え?どうする?今通報したら早いよな?
でも様子を見に出る訳にはいかない。巻き込まれる。
誰かがどうにかしてくれるの待つ?誰かって誰?

「きゃうん!」

犬が一声吠え、それから喧騒が止んだ。
話し声は続くが、ボソボソしたものだった。
犬側の隣人が部屋に戻るようだった。

私も、気配を殺しながら玄関で聞き耳を立てていたので、ゆっくり部屋に戻ろうとした。


…ピンポーン

私の家の玄関が鳴った。
聞き耳を立ててたのがわかるのだろうか。
え?嘘。女ですよ一応。私も怒鳴られるのだろうか。

チェーン越しに「あ、はい」と答えた私に覇気はなかった。

無愛想なお隣さんが立ってた。
「びっくりさせてごめんね!注意しといたからさ」
「あ、はい」

「でも、お宅のお家も何か動物飼ってるよね?静かにね」


スタスタ、ガチャ。
それだけ言って彼は部屋に戻ったようだった。
嘘のように廊下もベランダも静かになった。


私が、ワンちゃん側の様子を見る勇気が出たのは2時間後の事だった。
玄関に特に変わった様子はなかったが、
その日のワンちゃんは、いつもより早い時間に散歩に行って、長いこと散歩から帰ってこなかったように思う。 

私も静かに暮らすようにしようと思った。


事件後。

あれから数日後、ワンちゃんはベランダにいる時間が減ったように思う。

何せ生活音が聞こえるので、
無愛想なお隣さんのガチャンという出かけたらしいドアの音の後に、もうお隣からベランダの窓のガラガラという音が聞こえる。そして犬の気配がする。

夕方もおおむねそんな感じだ。

ワンちゃんが静かになったかというと車や他の犬には吠えるが、人間相手にはあまり吠えなくなったなという印象。何か躾の成果がでたのだと思いたい。


更に数日後、久々にワンちゃんの散歩とかち合った。
男性とワンちゃんだった。

気まずかったけど、特に蒸し返す必要もないと思い
「こんにちはー」とだけ言ってすぐにドアを閉めた。
このワンちゃん部屋に入ろうとするので。

その咄嗟にドアを閉めたのが気に食わなかったのか
通りざまに
「アンタもうるさいと思ってるんだ」
というボソッとした声に何も返すことが出来なかった。

ワンちゃんが私のスカートの裾を噛んで引っ張ったのにも反応できなかった。
咄嗟の緊張に声が出なかった。

彼らが一階まで降りるのを待ってから降りた。


一階に降りてもまだ散歩組の後ろ姿が見えた。
こえー。と思い、もう少し距離が離れるのを待った。
何となく上を見上げるとベランダが見えるのだが、
ギョッとした。


無愛想なお隣さんが
ベランダからこちらを睨みつけていた。


やはり咄嗟のことに声が出なかった。
会釈したかどうかも意識にない。



そうして私は別の街に引っ越してきた。

この話を思い出したきっかけは、
衆院選の選挙カーと隣で飼い始めた犬の遠吠え。
そしてまだ見たことのないもう片方のお隣さんの生活音である。

幽霊よりも動物よりも、
生きている人間の方がいつでも厄介だ。

集団住宅での設計段階での防音、遮音の基準設定。

地区、ブロック単位でのペット居住区の設営など、
住宅一戸単位でなく小さな地区での規則づくり。
ペットに優しい、ペットに苦手意識のある方への配慮を含めた街づくりを提案する次第です😭

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