交換と男女関係-フェミニズムの失敗
①生産より流通
経済学者の宇野弘蔵は、資本は、本来、商人資本だと考えていた。宇野はマルクス経済学者だったので、正統派マルクス経済学における生産様式の議論に依拠してはいたのだが、流通の視点からも考察していた。
正統派マルクス経済学では、生産様式に注目し、歴史は原始共産制から古代奴隷制、中世封建制、近代資本制へと変遷していくと考えるわけだが、これは生産力中心主義として批判を浴びた。そこで流通を交換様式として捉え、その観点から考察する議論も登場した。
②交換
この書によると、狩猟採集時代は遊動性に富んだ平等社会(これはモースと同じ)だったが、この時代のあと、氏族社会が成立すると、平等性は、共同体内部で贈与を行ない、それに対して返礼するという互酬性のある関係によって維持されるようになった。これを交換様式Aとする。
次の段階は国家が成立した後、支配者に服従することで、保護を受けるという略取と分配の時代である。この段階の関係を交換様式Bとする。
そして資本制の商品交換の時代が到来する。この商品と貨幣の交換を交換様式Cとする。
③時代との対応関係
交換様式A(互酬性のある関係、贈与交換)は、弥生時代までの無文字社会に特徴的で、交換様式B(支配と服従)は古代、中世を経て近世まで主流だった。交換様式C(商品と貨幣の交換)は近代以降、主流となり現代に到っている。
④共存
交換様式A〜Cまでは共存しており、例えば、現代においても国家に服従すること(納税)で福祉サービスを受ける(交換様式B=服従と保護)ことがある一方、民間のサービスを有料で受ける(交換様式C=貨幣交換)こともある。
⑤フェミニズム
フェミニズムは女性優位の主張という説もあり、実際、そう見えるのであるが、一応、男女平等を追求する思想と考えておく。
ある種のフェミニズムは、平等な関係(交換様式A)だけにしてしまうことができると考える。交換様式B(服従と保護)は、男女間の場合、女性が男性の支配を受け入れ、その代わり保護してもらうというパターナリズムであり、この関係を望む男女はまだいるであろう。
交換様式C(貨幣交換)は、男女間の場合、商品化された男女関係や資産目当ての婚姻などであり、この関係は道徳的な批判を受けるものの、廃絶することは我々の時代には困難であろう。
男女間を交換様式A(互酬性のある関係、贈与交換)だけにしてしまうことはできないのであり、この点がフェミニズムの失敗だったと見ることもできる
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