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#02_3歳の男の子を里子に迎えた、「さき」の話

ある日、家の前に
赤ちゃんが捨ててあったらいいのに


「子ども自体はすごく欲しかったの?」

なぜそんなに苦労してまで子どもが欲しいのか。
自分自身にも問い続けた疑問を投げてみた。

「いや、子どもに対して正直そこまで興味はなかった。むしろちょっと怖いって思ってた。大人のように、空気を読むって感じがないでしょ、子どもって。公園とかでたまに子どもに触れることがあっても、怖くて。はっきり言って苦手。」

「わかる。私も同じ!」

「子どもと2人っきりにされたらさぁ、慣れてもないし、どうしたらいいかわからないし。そわそわしちゃう。そんな感じだった。でもまあ、一応長女だし、夫も長男だし、もし授かれるならできれば欲しいよねって。」

ここは私も激しく共感できた。だからこそ私は、我が子じゃないの子どもを育てるだなんて、信じられないのだけど。

「気持ちに変化が出始めたのが、38歳の時。妹に第一子が生まれて甥っ子ができたの。それがさ、もう、かわいくて、面白くて。友達の赤ちゃんとかもたくさん見てきたけど、成長をじっくりと見守れるわけじゃないじゃない?だから、子どもが欲しい欲しいと言いながら、実は実態はなかったんだよね。」

さきは、甥っ子ができるまでの妊娠への憧れは、幼少期に無理だとわかっていながら、おにいちゃんやおねえちゃんが欲しい!って思っていた感情に似ていると言った。実態がないものへの欲というのは、そういうことらしい。

「一度でも流産してたら全然違うと思うんだけど、私はそれすらもなかったから。この頃はもう、子どもがいないという状態に関しては、そこまで悲しむってこともなく。ちょっとぼんやりとしていたかな。」

確かに……私は流産した時、随分と塞ぎ込んだ。次の妊娠は、この時に最後まで行けなかった「あの子」がお腹に帰ってくるんだと信じてやり続けていた。流産の経験は、ストイックな不妊治療の原動力になっていたかもしれない。

「でも、甥っ子が赤ちゃんから幼児になっていく様子を間近で見られて、本当に面白い!って思えて。犬と猫とは全然違う!!ってなったの(笑)」

そう、さきは犬1匹、猫2匹と、ずっと暮らしている。

「このあと姪っ子も生まれるんだけど、この子達の存在が大きいかな。あっ、私、自分で産まなくてもいいやって思ったんだよね。元々私、自分のことがそんなに好きじゃないし、自分の遺伝子を残したいとか全っ然思わないし。」

子どもが怖いと思っていたさきが、「人間(ヒト)の子」の面白さに気づいたという話だったのだけど、そこから「だから、自分の子をなんとしても産みたい!」となるのではなく、「これなら自分の子じゃなくても、欲しいかも。」になったという、私にとっては驚きのエピソードであった。自分は、遺伝子を残したい派だったので(はい、自分が大好き。)、真逆の心の動きが興味深かった。

「ある日家の前に、赤ちゃんが捨ててあったらいいのにって。ぽこって、かごに入ってさ。ほんとにそう思ってた。」

転院を繰り返しながら、やめたり再開したりと迷いつつ、10年近く不妊治療をやってきたさきだからこその言葉だと思った。

「間違いなくかわいがって育てる。
そこには確信めいたものみたいなのがあったね。」

そんな時、特別養子縁組や里親制度のドキュメンタリー番組をテレビで見たのがきっかけで、こういう道もあるのかもと、こそこそと一人で調べ始めたのだそうだ。(不妊治療は細々と続けながら。)ある程度知識が入ったところで、白田さんに話をした。

いつもさきの意向を尊重していた白田さんは、「考えたこともなかった。」と、最初は驚きはしたものの、そのうち……

「そもそも、僕らも血は繋がっていないんだし、全員血が繋がってない家族も面白いかもしれないね。」と同意してくれたそう。

42歳になった2019年、さきは児童相談所で里親登録を行った。


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