異次元の少子化対策について、政治学を専門とする妊婦の私が今思うこと

この頃岸田首相は「異次元の少子化対策」をキャッチフレーズに少子化対策を自身の目玉政策にするアピールに余念がない。

実際、1月23日の施政方針演説においても、①児童手当など経済支援の拡充、②子育てサービスの充実、③働き方改革の3本柱で進めることを表明し、子ども・子育て政策は最重要政策である旨強調し、「子どもファーストの経済社会を作り上げ、出生率を反転させなければならない」などと述べていた。

(しかし不思議なことに、首相官邸HPの「主要政策」は「01.新型コロナ対応」「02.新しい資本主義」「03.外交・安全保障」「04.災害対応」の4つのみであり、「子ども・子育て」の文字は見当たらない)

首相官邸HPスクショ
岸田総理、なぜ最重要政策が「主要政策」の中にないのですか・・・?


首相官邸HPの謎はさておき、国会などメディアに露出する場面では、岸田政権は少子化対策、子ども・子育て政策に対するやる気を示し続けている。

1月25日には、自民党の茂木幹事長も衆院本会議で「児童手当は『すべての子どもの育ちを支える』との観点から、所得制限を撤廃するべきだ」と提起し、これまでの自民党の方針を転換する姿勢を示した。

さらに1月27日には、岸田首相が参院本会議の代表質問において、子ども・子育て支援について「0~2歳児へのきめ細やかな支援を含め、充実する内容を具体化していく」「各種の社会保険の関係、国と地方の役割、高等教育の支援のあり方などさまざまな工夫をしながら、社会全体でどのように安定的に支えていくのか考えていく」などと述べたという。

コロナ対策、旧統一教会問題、インフレやエネルギー価格高騰、緊張の続く国際情勢など各種問題が山積する中で、ここまで政権が声高に少子化対策への意欲をアピールする背景には、昨年の出生数がはじめて80万人を割る見通し予測より速いペースで出生数減少が進んでいることへの危機感ー或いは事実そのものではなく、この問題をメディアが大々的に報じており、耳目を集めているという事態に対する危機感かもしれないがーがあるだろう。

厚労省機関である国立社会保障・人口問題研究所が2017年に発表した『日本の将来推計人口』によれば、日本で出生数が80万人を下回るのは2030年以降のことだと予測されていた。ところが2022年時点でほぼ確実に80万人を下回ることがわかってしまったのである。

深刻な少子高齢化及びそれに伴う人口減少の問題に、自民党もようやく重たい腰を上げざるを得ない事態に追い込まれたといえる。荒療治的ではあるが、少子化対策や子ども・子育て支援政策を加速させるのはいい傾向である。

なにしろ少子高齢化問題は叫ばれてから早30年。
その間、児童手当の創設や待機児童の解消、高校の実質無償化など全くの無策だったわけではない。

※ちなみに児童手当の創設は民主党政権の施策。みんな知ってた?まあ「児童手当があるなら」って言って子どもの扶養控除が廃止されたからどっちがいいんだかって感じですが・・・。

とはいえ、30年間ずっと指摘され続けた問題なのに、こんなにも悪化するまで実効性のある政策をしてこなかった政府の責任は重いと言わざるを得ない。

だって若者人口の減少って国力に直結する問題よ?あんたら自民党のおじいちゃんおじさんたちだって、現役世代の納税で支えられてるのよ?ってゆーね。

図 少子化高齢化による日本の社会構造

さて、冒頭引用の繰り返しとなるのだけど、岸田政権は今少子化対策/子ども・子育て政策を最重要政策に位置づけ、今後ますます具体化していくという。
(まずは当事者の話に耳を傾けるところから、とも言っていて「それ遅すぎじゃね?具体化されるの一体いつになるの?」というモヤモヤは残るが・・・)

これらに先駆けてすでに走り出した政策として①10万円クーポン、②出産一時金を42万円から50万円に8万円増額などがある。

このうち前者は、2022年度以降に妊娠した人を対象に妊娠届提出時に5万円、出生届提出時に5万円給付とされるが、2022年9月に妊娠届を出した私はまだ受け取っていない。

住民票のある大阪市のHPをみると、「出産・子育て応援交付金事業」という名称で案内がある。「事業開始日未定」でありつつも、令和4年4月1日以降に妊娠の届出を出した者は支給対象者とされている。ただし、「実施スケジュールは詳細が決まり次第お知らせします」だそうで、要するにもらえる対象者であることは確定しているものの、いつもらえるのかまだ全くわからないのが現状なようだ。

なおこの支援金を巡っては、クーポン券配布か現金給付かで岸田首相の答弁が二転三転した経緯もあるが、この際どっちでもらえるかはいったん目をつむることにしたい。(ちなみに大阪市は、「子育て世帯への臨時特別給付金に関してクーポン発行もしくは現金給付を自治体裁量とすることを求める意見書」を国に出している。)

それから後者の出産一時金については、昨年末12月上旬時点で2023年度から50万円に引き上げることで最終調整に入ったなどの報道がされている。

4月4日が出産予定日の私としては、赤ちゃんが2022年度(今年度)に生まれるのか、2023年度(次年度)に生まれるのか、なかなかしびれる展開となっている。(出産日についていえば、4月1日生まれなら2023年度になるから50万円もらえるかもしれないけれど、早生まれ扱いのため1学年上の子どもになるから保活で不利になるという別要素の不安も…)

ただしこの点については、出産一時金の増額に伴って、少なからぬ病院が分娩料金の引き上げを予定していることから、もらえる額が42万円だろうが50万円だろうが自己負担に大差生じない、赤ちゃんが出てきたい日に出てくる日を縁と信じ、運命に身を任せようと悟りの境地でいこうと思っている。

さて、このように岸田政権はこの分野の問題に対する取り組みに意欲を見せているものの、一言でいって「どこが異次元?????????????」というのが私がずっと感じている感想だ。

岸田政権の現金給付型少子化対策が的外れであるー「もちろん、お金のかかる時期にもらえることはありがたいことだけど、少子化対策や子育て支援という観点で変えてほしいのはそこじゃない」ーといういろんな所で指摘されている批判は永田町にも霞が関にも届かないのだろうか。届いても馬耳東風なのだろうか。

この違和感はなんなのだろう。

一つには、政府の視野が妊娠出産から2歳くらいの乳幼児までにしか向いていないことがある。出産はあくまで子育てのスタートである。親になった人は、そこから少なく見ても18年、できれば大学卒業までの長期的な視点でものを考えているのではないだろうか。

出産時に42万円もらっても自己負担10万円くらいする現実に補助をくれるのもありがたいけど、育休復帰後の保育園料とか、時短勤務による所得減少とか、小学校低学年のうちの勤務形態どうするんだろうとか、大学の学費を考えてると気が遠くなるとか、私はまだ我が子の顔も見ぬ妊娠中の今からそんなことが不安である。
そしてこれは私だけではないはずだ。

各種現金給付による経済支援は確かにありがたい。でもその施策だけで少子化を食い止めたり、子育てしやすい社会を作り上げるかと言ったら、答えはNO。

例えば「少子化を克服した」とも評価されるフランスは、一連の施策を「少子化対策」や「子育て支援」と位置付けるのではなく、「家族政策」という概念で議題設定を行なっている。

泉・近藤・濱野(2017)「フランスの家族政策ー人口減少と家族の尊重、両立支援・選択の自由」『調査と情報 Issue Brief』No.941によれば、フランスの家族政策は経済支援から始まったものの、現在では男女両性に対する仕事と家庭の両立支援や家族による選択の自由の保障にこそ政策目標が置かれているという。

そして、家族政策のもとに展開されるさまざまな具体的政策の中に子育て支援なども盛り込まれている。例えばN乗/N分方式による累進課税制度はその1つだ。これは、課税対象を個人ではなく世帯全体を単位とし、親と子の人数構成によって税額を決めるやり方で、シングルマザーなど単身親の場合や子どもが何人もいる場合など大変な世帯ほど税負担が軽くなる計算方法となっている。

そしてさまざまな家族のさまざまなライフスタイルに応じた選択の自由という点が押さえられているからこそ、どんな境遇の人でも子どもを持つことへのハードルが下がるのだろう。

子どもを持てば持つほど支援が手厚い。
当たり前の発想だよね。合理的だよね。

なんで日本は子どもを持てば持つほど罰ゲームみたいになっているのか?
理解に苦しむ。

とにかくフランスの少子化対策が成功している要因として、政策概念の設定が日本よりも包括的であること、そして複数の政策が相互に関連しあった結果であることを指摘することができる。決して1つの政策が実効性を上げたというわけではない。

この点について、岸田政権が今後本当に本気で少子化対策や子ども・子育て政策に取り組んでくれるのならば重々考えていただきたい。

そもそも少子化対策と子ども・子育て政策という言葉がまるで同義のように用いられている今の事態も改善した方がいい。重要政策であるからこそ、概念整理は重要だ。十分な概念整理を行わないと、政策理念や政策目標を見失ってしまう。

これをしないと結果として、ー日本政治にありがちだがーその場の支持率しか見れていないキャッチーなポピュリスト政策として不発花火として終わってしまう。

それから、全ての子どもは生まれた家庭環境にかかわらず、平等に扱われる仕組みにしていってほしい。全ての子どもの公平な機会の平等が保障されていなければならない。

すべての人は、お母さんから生まれ、赤ちゃんや子ども時代を経て大人になっていくのだ。この分野こそ、政府が積極的に所得の再分配を行い社会全体で支えていく公的な仕組みの充実が必要な場面のはずだ。子どもを産み育てる事に関連する全ての政策は、広義の人材育成につながっていくはずだ。

どうかどうか、これ以上日本社会に失望しないで済むように。

これから子どもが育ちやすい社会になりますように。
親が子どもを育てやすい社会になりますように。
今の若者たちが、これから子どもを持つことに前向きになれる社会になりますように。

子育てが終わった高齢者世代は、自分がもらっている年金は現役世代が負担しているという世代間負担の事実を理解し、将来年金を納める子どもや若者たちを守ることが自分の今の生活を守ることになるのだと理解してくれますように。

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