藍原 青葉

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藍原 青葉

短編小説を書きます。よろしくお願いします。 icon→ https://picrew.me/image_maker/1413742 Twitter→ https://twitter.com/aihara_aoba illustration→Stable Deffusion

最近の記事

【小説】桜の花びらの魂は

 それは久しぶりの外出だった。どうやら私の知らない間に春が来ていたらしい。冬に来ていたパーカーではどうも暑く感じてしまう。外気温は二十五度、もはや夏に近い。 「先輩、その格好暑くないですか?」 「私の知らない間に春が来てたんだ」 「もう、たまには外に出ないとですよ」 「実際君に誘われなきゃずっと引きこもってたよ」 「じゃあまた誘います」  そう言って彼女は前を歩く。彼女はいかにも春らしい格好をしていた。なんだかこんなにも世間からズレている私の隣を歩かせるのは申し訳なくて、彼女

    • 【小説】『絶望するな、世界を愛せ』

      「私はね、君に絶望してほしくないんだよ」  お姉さんはそう言った。彼女とは見ず知らずの赤の他人、というわけでもない。私が学校をサボって公園にいると、いつもブランコに座って電子タバコを吸っている人。言わば顔見知りの関係で、偶にこうして話をする。 「学校なんて行かなくてもいいさ」 「……それでも、学校に行けないのって、学校に行ける人と比べては劣るし、損してるじゃないですか」 「そんなの大した損じゃない。社会に出てみればわかるけど、不登校児でも立派に働けてる人はいる。ここで一番重要

      • 【小説】『レッツエンジョイ人生イェア』

        「言い訳をさせてくれないか」  胃酸で焼けた喉だからか、先程大きく叫んでしまったからか、私の声は酷く霞んでいた。  君は頭を壁に預けて、目線だけを私に向けている。どこか虚空を見つめるかのような目で。  お互いこんな状態の中で何を話しても意味はないような気がしてきたけれど、話さなければ何も始まらない。いや、話したところで何も始まらないかもしれないけれど、それでも、この人はちゃんと私の話を聞いてくれるだろうという淡い期待が捨てきれなかった。 「……生まれた時から不幸な人間は、幸福

        • 『曖昧で、虚ろで、それでいて美しい』という新刊ができました。無料サンプルです。

           この度、人生初の本を出すこととなりました。  BOOTHにて販売いたします。 『秋を上手に生きられない、不器用な人の話』 『束の間の夢』 『星が綺麗な夜に』 『隣の光はやけに眩しい』 『レッツエンジョイ人生イェア』 『彼女はまだまだロンリネス』 『曖昧で、虚ろで、それでいて美しい』  以上の全7作品を収録した短編集となります。  というわけで、無料サンプルとして全文ないし冒頭部分を公開しようと思います。 『秋を上手に生きられない、不器用な人の話』  窓の外から入り

        【小説】桜の花びらの魂は

          【小説】『束の間の夢』

           これで何本目かわからない煙草を吸い終わった後で、私は限界を迎えた。慣れないことをしたせいか嘔吐反射の勢いで掠れた咳が数回出て、「情けない」とこれまでの全てに対して思う。自分の脆弱さを理解していたつもりが、”つもり”でしかなかったことを突きつけられて、私は倒れる。物理的にも、そうでない意味としても。  荒くなりそうになる息を抑えて、思考を止め、じっと耐えてみせる。肌を滑らせる冷たくなった風と、私を襲う何かから。  本当に、秋は嫌いだ。夏が終わってしまったってこともあるし、単純

          【小説】『束の間の夢』