見出し画像

『曖昧で、虚ろで、それでいて美しい』という新刊ができました。無料サンプルです。

 この度、人生初の本を出すこととなりました。
 BOOTHにて販売いたします。

『秋を上手に生きられない、不器用な人の話』
『束の間の夢』
『星が綺麗な夜に』
『隣の光はやけに眩しい』
『レッツエンジョイ人生イェア』
『彼女はまだまだロンリネス』
『曖昧で、虚ろで、それでいて美しい』

 以上の全7作品を収録した短編集となります。

 というわけで、無料サンプルとして全文ないし冒頭部分を公開しようと思います。


『秋を上手に生きられない、不器用な人の話』

 窓の外から入り込んでくる空気で、夏の終わりを感じた。
 いつのまにか布団にくるまって眠るようになっていることに気づいて、夏の終わりを感じた。
 なんとなく淋しいと思う日が多くなって、夏の終わりを感じた。
 君のことをよく思い出すようになって、夏の終わりを感じた。

 秋に侵される心を知って、感傷的になる日もある。
 叶わない心を知って、涙を流す日もある。
 この稚拙な感情のやり場に困って、胸が苦しくなる日もある。
 どうにもならない絶望は本当にどうにもならないことを知って、全てを諦める日もある。
 もう思わなくなったはずの「死にたい」という本心に気づいてしまって、異常に悲しくなる日もある。

 不器用にしか生きられないことの許しは一体誰に乞えばいいのだろう。
 わからないことが沢山で、溢れすぎた感情が涙にかわっていく。
 秋は私の本性を暴いてしまう。悲しい季節。淋しい季節。
 傷口から漏れた液体をそっと拭って、一口味わって、愛おしくて、撫でて、爪を立てる。
 自傷まがいの行為で生じた痛みを感じ取って、この心がまだ生きていることに安堵する。
 「愛してる」と言いたくなる日もある。
 そんな思いに気づいて、死にたくなる日もある。
 「ごめんなさい」と「ありがとう」
 言いたかった言葉。言えなかった言葉。
 夏はまだまだ遠い日のこと。
 私は今年も、この秋に殺される。

「そうやってほら、すぐに泣く」
「……悪かったな」
「秋は嫌いかい」
「大嫌いだよ。君を思い出すから」
「君は本当、相変わらずだね」
「うるさい」
「でもほら、季節は巡るからさ。きっと春はすぐそこだよ」

「……情けない」の呟きと紫煙が混ざり合う。
 最悪の季節を、都合の良い幻影の声によって、生かされる日々を送っている私だ。

(こちらは全文公開です。私の今現在(2022.10.20)設定しているTwitterのヘッダーとなります。よろしければこちらも。画像ver.→(https://twitter.com/aihara_aoba/status/1567437640794009601?s=20&t=RHbf3xdql-vccOIQgsVY2w


『束の間の夢』

 これで何本目かわからない煙草を吸い終わった後で、私は限界を迎えた。慣れないことをしたせいか嘔吐反射の勢いで掠れた咳が数回出て、「情けない」とこれまでの全てに対して思う。自分の脆弱さを理解していたつもりが、『つもり』でしかなかったことを突きつけられて、私は倒れる。物理的にも、そうでない意味としても。
 荒くなりそうになる息を抑えて、思考を止め、じっと耐えてみせる。肌を滑らせる冷たくなった風と、私を襲う何かから。
 本当に、秋は嫌いだ。夏が終わってしまったってこともあるし、単純にこの寒さに耐えられない。寒さは敵だ。どうしても人肌が恋しくなってしまうから。意図して淋しさの中に飛び込むのと、自然にそうさせられるのとでは、大きな差がある。私は、想定外の出来事に順応できない不器用な人間なのだ。「情けない」とまたこの言葉が出てくる。
 自身に向けられた攻撃性に苛立ちを覚え、強く爪を立てては頭を掻きむしる。奥底に沈んでいたはずの感情が喉元までに迫り上がってきては、また吐き気が。苛立ちを知覚する前に喉元を強く締め付け、どうにもならない感情を咳として吐き出させてやる。
 情けない、本当に情けない。そんなことをしたところで意味なんてないのに。くだらない自傷行為をしたところで情けなさは加速するばかりで私の心は掻き乱されるだけだ。「なあ、一旦落ち着けよ」と理性的な私の声がして、意識的に深呼吸をしようとする。吸って、吐いて。少しだけ落ち着いて、訳もわからず涙が出てきた。
 自室のベランダの前。死体のように倒れ込んだ私は、淡い夢を見る。
 ここではないどこか遠い場所にいつの間にか立っていて、綺麗な景色に見惚れるまま、私はどこかへと歩んでいく。そこで突然『君』と出会って、手を取り合ってどこまでも突き進んでいくんだ。その先に美しい死があれば尚良い。百合の花を敷き詰めた密室に眠ってそのまま窒息死するような、そういった美しい死があれば良い。『君』はずっと私の隣に居てくれて、そんな『君』と手を繋いだまま死ねたなら——、などと考えて、紛い物の多幸感に浸る。こうした妄想は、もはや癖というよりも習慣に近い。
 無意識のうちに瞑っていた目を開き、環境音に耳を澄ませる。どこか遠くで鈴虫が鳴き、鳥も鳴いている。ガタガタと工事の音、ピーッピーッと大型トラックがバックする音、ブーーンと車が通り過ぎる音。様々な音が入り混じっていて、その全てを拾い切れない。意識をしなければ静かな空間でも、意識を向けるだけでなんだか騒がしく感じる。
 段々とそれらの音を喧しく感じてきた私は、這いつくばって乱暴に窓を閉めた。そして壁際に設置してあるベッドに潜り込んで、布団を被り、毛布を強く抱き締める。
 なんだか今日は調子が悪い。いや、調子が悪いのはいつものことだけれど、いつも以上に調子が悪い。その原因は明確なようで、明確じゃない。それは私の根本的なところにあるのだけれど、私がこうなってしまった原因には様々な過去があったせいで。でも、一つ一つそれらを並べたところで整理できるものではない気がするし、きっとそれらは——、ああ……なんだか考えるのも面倒になってきた。きっと煙草を吸った後だからだろう。妙に頭が回るようで回らない。回らないでくれた方が私としても助かるのだが、この癖はどうしても抜けそうにない。もはや病気に近いものだ。深呼吸のような溜息を吐いて、頭の中に浮かんできた言葉を殺した。
 思考を一旦放棄した私は、イヤホンを耳に差し込み、スマートフォンで適当な音楽をかけ、耳が痛くならない程度の最大音量でそれを流す。歌詞のひとつひとつを汲み取るようにして、頭の中を美しい言葉で満たそうとした。抱き締めた毛布の暖かさが、なんだか人肌のように感じられて、薄らと涙が出てくる。

 私はどうやらそのまま眠ってしまっていたらしい。
 多幸感の後味に、私は呑み込まれる。
 それはまるで、幸せな夢を見ているようだった。

(後略)

(こちらは既に全文公開している作品となります。もしよろしければこちらも。全文ver.→https://note.com/aihara_aoba/n/n5b764bb76900)


『星が綺麗な夜に』

夜道を歩いていた。
星が綺麗な夜だった。
いつもの帰路だった。

私はぼんやりと星座を眺めながら歩いて、
涼風に当たりながら、感傷的な心持ちになる。

どこかで鈴虫が鳴いている。
秋の空気に包まれる。
私はなんだか寂しくなる。

別に、いつものことだった。

ふと、石垣の上に誰かが座っていることに気づく。
月明かりが、まるでスポットライトかのように
彼を照らしていた。
私は目を瞠る。

そこには確かに、『天使』が居た。

(後略)

(短いお話です。未公開作品となります。よろしくお願いします。)


『隣の光はやけに眩しい』

 自分語りの果てに「どうでもいいね」と自虐気味に苦笑した君。その視線はコーヒーに落ちて、見えない涙の水溜まりみたいに映った。
 「そんな顔をしないでくれ」なんて、空気を震わせるわけもなく。言葉は喉元に引っかかって、絡んで、また喉の奥に沈んだ。
 冷めたココアのカップを何となく触って、なんとなく一口だけ飲んだ。私が上手く話せないことを彼は知っているのだから、この気まずさにもいい加減慣れて欲しいものだと思う。
 耐え難い心をしているのはお互い様なのに。
「そんな顔をしないでよ」
「あなたが言わないでよ」
 あはは、と笑って適当に謝って済ます君。
 手の甲に爪を立ててしまう癖がつい出てしまっては、自分のことを嫌いになった。言いかけた言葉を飲み込んだ動作も視界の端で捉えては知らない振りをする。ため息が音にならないよう、ゆっくりと息を吐いた。
 重たい空気を少しでも軽くしたくて、何となく伸ばした手も、宙に浮いては固まって、また一口ココアを飲んだ。
 お互い、本当はわかってるんだ。わかっていても、難しいことも、何もかも全部。ただ、お互い、本心を口にするのが苦手だって。知っていて、知るだけで、何もできなくて、申し訳なくて。焦る心もどうにもできなくて、苦しくて。
「どうにもならないね」
 君がまた空気を誤魔化して苦笑する。
「そうだね」
 君の目を見据えて相槌を打つも、その視線は相変わらず手元のコーヒーに向いたまま。
「ちょっと歩かない?」
「そうだね、それがいいかもしれない」
 ねえ、重たい空気なんてここに置いてこうよ。今日は夏みたいに暑くて嫌になるかもしれないけど、どこにも行けないよりはきっとマシだろうから。
 君はコーヒーを一気に飲み干して、私もココアを一口で空にした。きっと、もうここに来ることはないだろうと思いながら。

(後略)

(日陰者のお話です。こちらも未公開作品です。よろしくお願いします。)


『レッツエンジョイ人生イェア』

「言い訳をさせてくれないか」
 胃酸で焼けた喉だからか、先程大きく叫んでしまったからか、私の声は酷く霞んでいた。
 君は頭を壁に預けて、目線だけを私に向けている。どこか虚空を見つめるかのような目で。
 お互いこんな状態の中で何を話しても意味はないような気がしてきたけれど、話さなければ何も始まらない。いや、話したところで何も始まらないかもしれないけれど、それでも、この人はちゃんと私の話を聞いてくれるだろうという淡い期待が捨てきれなかった。
「……生まれた時から不幸な人間は、幸福なものによって手を加えない限り、一生不幸なままだと私は考えている」
「本当に言い訳だね」
「と、とにかく最後まで聞いてほしい」
「もちろんそのつもりだよ。ほら続けて」
「え、えっとね……人間の主観って最初っからあるわけじゃないから、周囲から受けてきた評価とかによって自分の認識とかそういうのが形成されると思うの」
「うん」
「同じ人間と関わり続けたらさ、その人の影響って凄く出てくるじゃん。それって良い意味でも悪い意味でもそうだと思ってて」
「そうだね。悪い人間と関わり続けたら自分までもが悪くなってきそうだ」
「……ごめんなさい」
「別に君のこととは言ってないだろ」
「ごめんなさい、本当にすみません」
「謝り癖でてるよ」
「なんか、なんか、本当、すみません」
 意味のない謝罪を繰り返される側は嘸かし面倒で嫌気が差すだろうな、と冷えた頭の奥でそんなことを思いつつも、壊れた機械と化したこの体は勝手にあやまり続けている。罪悪感にまみれた心は苦しがるばかりで、きっとそれを取り除こうと必死なんだろうけど、何一つ良い方向にはいかない。こんな私を傍観しているだけの私は一体どこにいるんだろうか。
「もう、しょうがないな」
 その声はやけに優しかった。

(後略)

(タイトル詐欺です。こちらも未公開作品です。よろしくお願いします。)


『彼女はまだまだロンリネス』

「ソリチュードを知りたい?」
「はい。私の孤独感はどう見てもロンリネスな方なので。自然と一体できるような孤独感を体感的に覚えたことがないんですよ」
「なるほどね。うーん……まあでも、君にはまだ早いんじゃないかな」
「それは、どうしてですか」
「君はまだ自立できてないように見えるからね」
「自立すれば、ソリチュードを体感できるということですか」
「まあ、きっとね」
「きっと、って……じゃあ、自立するためにはどうすればいいんですか」
「時間はかかるだろけど、簡単な話さ。他の誰よりも自分を愛してやればいい」
「……自分を好きになるって難しくないですか」
「難しく考えてるからさ。ちなみに、俺は好きと愛するは別物だと考えてるけど」
「……どういうこと?」
「好きは表面的だし、嫌いの反対だと思う。愛するはそういうのを超えてるんだよ」
「よくわかんないです」
「ははっ、まあそうだろうね。俺も適当だし」
「適当なこと教えないでください」
「まあまあ、難しく考えない方が生きやすいしね」
「……難しく考えてるから、私は生きづらいんでしょうね」
「もっと楽観的に生きればいいのに」
「……難しいですよ、そんなの」
「どうして難しいと思うの?」
「癖になっちゃってるんですよ。悲観的な思考を何度も何度も長年続けてしまったせいで、今更どうこうするのは……」
「そうやって諦めてるからなんじゃないかな」
「……じゃあどうすればいいんですか」
「楽観的な思考をしようと努力する」
「努力したって無駄、と思わないようにするってことですか」
「そうそう、意外と人間って思い込みによって左右される生き物だしね。意図的抑制で記憶の三割は消えるらしいし」
「へえ……」
「まあ、君はまずそこから始めたら良い。ちょっとずつ変わろうと思えば自然と変わっていくさ」

(後略)

(こちらは既に全文公開している作品となります。本にするにあたりほんの少しだけ修正を入れました。もしよろしければこちらも。修正前の全文ver.→https://twitter.com/aihara_aoba/status/1571488001674612743?s=20&t=RHbf3xdql-vccOIQgsVY2w


『曖昧で、虚ろで、それでいて美しい』

 それは時として、どこまでも透き通っている、水と空気の間みたい。手を伸ばせば遠くて、届きそうにも感じるのに、全くもって触れそうにない。
 でもきっと、その感触は少し、ざらりとしている。もし、それに触れてしまったとしたら。その指先から、摩擦以上の熱を感じて、蝋燭の近くで感じるような温かさなのに、じわじわとじわじわと、風邪を引いた時みたいな熱を、全身で感じることになる。毒が回って、意識が遠のいて、そのまま、穏やかに、緩やかに、死んでいくような、感覚がする。
 ふわふわと、宙に浮かんでいるみたいで。地に足をついている感覚は、全くなくて、きっと、月で感じる重力は、こんな感じなんだろうな、と思う。
 そのまま、どこまでも飛んでいきたい。ゆらゆらと、ゆらゆらと、どこ吹く風に流されて。四肢はぐにゃりと捻じ曲がり、ぐにゃりぐにゃりと形を変えて、きっと最後は、ダンゴムシみたいになる。
 それでも私は私のままで、体の感覚はないままに、殻の中に閉じこもる。穏やかで、静かで、誰にも奪われたくない夜のような。そんな感覚を恒久的に望んでは、いつか覚めてしまうその時まで、穏やかな眠りにつくだろう。

 それは時として、(後略)

(この本を作るにあたって書き下ろした作品となります。当然、未公開作品です。よろしくお願いします。)


 無料サンプルは以上となります。
 少しでも気になる作品はございましたか。
 あったら嬉しいなと私は思います。

商品ページ(BOOTH)

 こちら、URLとなります。
 よろしければ、是非。よろしくお願いします。
  冊子版→(https://aihara-aoba.booth.pm/items/4306558)
  電子版→(https://aihara-aoba.booth.pm/items/4304692)


(追記:本書は11月8日に改訂致しました。それに伴い記事の変更を行っております。)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?