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鉱物資源の秘密:地質学と宝石学の世界(16)ダイヤモンド II

 私は『 #頑張る隊 二等兵』ですが、『カンナ|をかし探究隊隊長』の『パステルカンナ』な淡い感じに惹かれて『をかし探究隊書記』を兼務しています。

 前回の記事でカンナ隊長から『懐かしいダイヤモンドのレコード針💎を思い出しました。』と、コメントをいただきましたので、本稿ではダイヤモンドのレコード針について解説します。

オーディオマニアの世界

#オーディオマニア の世界では、最高の音質を追求するために高価な #オーディオ 機器に莫大な投資が行われます。音の純度、明瞭さ、および音楽再現の正確さは、この世界において極めて重要視されます。スピーカーシステム、アンプ、DAC(デジタル・アナログ変換器)、特殊なケーブルなど、音質向上のために数百万円を超える投資をする人は珍しくありません。さらに、音響設計の重要性も高く、オーディオルームの構築には一億円単位の費用が掛かることもあります。

 ステラ社の自社ブランドであるTechDASの『Air Force Zero』 #レコードプレーヤー は、単体で5000万円とされ、アンプやスピーカーを含めたシステム全体では1億5000万円を超えです。これに見合うオーディオルームの構築に何千万円もかかることは珍しくありません。一方で、オーディオルームが不要な #ゼンハイザー #高級ヘッドフォン #真空管アンプ のセットでも、価格は1000万円を超えます。

 日本には、このようなシステムを設計・開発する技術者や #オーディオ評論家 が意外と多くいます。私の #ダイヤモンド レコード針に関する解説程度では、彼らを完全に納得させるには至らないかも知れません。然し、オーディオマニアの中にも、誰がダイヤモンドレコード針を発明したかについて、知らない人が多いという事実があります。『誰が開発したかについて諸説ある』現状は、提案された説の大部分、或いは、全てが間違っている可能性を意味しており、一つの説を盲信するだけでは、真の発明者を特定できていないことになります。

#蓄音機 #ダイヤモンド針 について、1877年に #トーマス・エジソン が蓄音機と共に発明したという説がありますが、当時の特許資料ではダイヤモンド針について具体的に言及していません。

Edison Diamond Discs: 1912 - 1929

Edison Diamond Discs社はダイヤモンド針を使用していたことが知られていますが、エジソン自身がこれを特許出願したわけではなく、その技術が他社からのライセンスであるのか、または既知の技術として特許を取得できなかったのかは明らかではありません。知財戦略上、ダイヤモンドとは明記せずに、モース硬度7以上の鉱物結晶として特許を申請していた可能性も考えられます。

 1939年に設立されたアダマンド並木精密宝石は『当社は、エジソンが発明したレコードプレーヤーに使われていた鉄針を摩耗のしにくいサファイア針、ダイヤモンド針に置き換え、長寿命のレコード針を実現しました。』と述べていますが、この記述からは同社がダイヤモンド針を発明したとは明確には言えません。

 また、アダマンド並木精密宝石が設立された1939年の27年前には、エジソン社がEdison Diamond Discsブランドでダイヤモンド針を使用した蓄音機を販売していたことから、ダイヤモンド針の使用はアダマンド並木精密宝石による発明ではないことが確かです。

 然し、ダイヤモンド針に関して、カットや形状による様々な種類が存在し、それぞれが異なる音質やトラッキング性能を提供していることを考えると、針の形状や研磨方法などで特許を取得している可能性はあります。これらの情報は電子化されていないため、特許データベースでの検索が難しく、紙媒体を探して確認する必要があります。

 レコード針の種類には以下のようなものがあります。

1.球形針(Conical):最も一般的で基本的な形状の一つです。溝の中央部分を追跡し、摩耗が少なくレコードにも優しいため、広範囲のレコードプレーヤーと互換性があります。

2.楕円形針(Elliptical):球形針よりも接触面積が小さく、レコードの溝をより詳細に追跡できます。高い音質を実現しますが、レコードへの摩耗がやや大きくなる場合があります。

3.ハイパーエリプティカル針(Shibata, Fine Line, Micro Lineなど):より精細な追跡が可能で、高域の再生が向上し、歪みが減少します。高品質なオーディオシステムでその性能を最大限に活かせますが、価格が高くなる傾向があります。

4.線形接触針(Line Contact):楕円形針と同様にレコードの溝を精密に追跡しますが、より広い接触面を持ちます。音質の向上とレコードへのダメージの低減を両立させます。

5.マイクロリッジ針(Micro Ridge):非常に細かいリッジを持つ、高度に精密な針先です。最も詳細な音の情報を抽出でき、極めて高い音質を提供します。レコード溝の摩耗を最小限に抑えつつ、細かな音のニュアンスまで捉えることができます。

6.シバタ針(Shibata):1970年代初頭に日本のオーディオメーカー、日本ビクター(JVC)の #柴田憲男 氏によって四チャンネルステレオレコードの再生のために開発されました。レコードの溝の広い範囲に接触し、非常に細かい音の詳細を再現できます。高域の忠実度が非常に高く、音の歪みが少ないです。深い溝にある音情報の抽出に優れ、非常にクリアな高解像度の音質を実現します。

7.ファインライン針(Fine Line):楕円形針よりもさらに細かい接触面を持ち、シバタ針と同様にレコードの溝のより深い部分から音情報を取り出すことができます。シバタ針と比べてやや安価でありながら、高解像度の音質を提供し、良好な耐久性を持っています。

8.マイクロリッジ針(Micro Ridge):最先端の製造技術を用いて作られた非常に精密な針先形状を持ちます。レコードの溝の非常に細かい部分にも接触できるため、非常に高い音質を実現し、音の細部まで再現します。この高度な形状は、レコード溝の摩耗を最小限に抑えつつ、細かな音のニュアンスまで捉えることができます。

 レコード針の技術や形状は、音質の細部にまで影響を及ぼすため、オーディオマニアや音楽愛好家は自分の好みやシステムに最適な針を選ぶことに大きな価値を見出しています。レコード再生の体験を向上させるために、これらの異なる種類のレコード針の特性を理解し、選択することが重要です。

ダイヤモンド針が普及した理由

 現代のレコードは、樹脂やビニールのような柔らかい物質から製造されています。これらの柔らかい物質は、竹、鋼鉄、ガラス、セラミックなどの材料でも容易に傷つけることが可能で、カッターナイフで簡単に切断できます。それにも関わらず、モース硬度10を誇るダイヤモンド針が標準となった根本的な理由を理解するには、 #トライボロジー #摩擦学 )の知識が必要です。

 ダイヤモンドレコード針の寿命は意外に短く、例えば音質に優れる #シバタ針 でさえ、綺麗な音での演奏可能時間は最大で500時間程度です。レコードに埃などが付着している場合、針の寿命はさらに短くなります。一日16時間稼働するレコード喫茶では、針の交換目安は約25日となります。

最も耐久性の高いダイヤモンド針でも摩耗する理由

 レコード針の摩耗は、レコードと針の物理的接触によって引き起こされます。レコードの溝をトレースする際に針がレコードの溝の壁に連続して触れることで、音が再生されます。このプロセス中に生じるいくつかの要因が針の摩耗を促進します。

圧力と摩擦:レコードの溝を追跡する際、針には一定の圧力がかかります。この圧力とレコードの溝の壁との間の摩擦は、時間と共に針を徐々に摩耗させます。

材料の硬度:レコード針は通常、比較的硬い材料(例えばダイヤモンドやルビー)で作られていますが、レコードの溝は比較的柔らかい材料(例えばビニール)でできています。硬い材料と柔らかい材料の相互作用によっても、針は微細な摩耗を経験します。

繰り返しの使用:レコードを再生する度に、針は同じ溝を何度も通過します。繰り返しの使用は摩耗を加速させる可能性があります。

汚れやほこり:レコードの表面にある汚れやほこりが摩擦を増加させることがあります。これは針とレコードの間の追加的な摩擦を引き起こし、針の摩耗をさらに進行させる可能性があります。

針の調整と重さ:針の追跡力(針がレコードに与える圧力の量)が不適切に設定されている場合、それは摩耗を加速させる可能性があります。重すぎる追跡力は、針とレコードの溝の壁に過度の圧力を引き起こし、摩耗を早めます。

 レコード針の摩耗を最小限に抑えるためには、適切な追跡力の設定、レコードと針の清潔を保つこと、そして使用後は針を適切に保護することが重要です。

トライボロジー(摩擦学)とは何か?

 トライボロジーは、摩擦、摩耗、潤滑の現象を研究する学問分野です。物理学、応用物理学、化学、材料科学、機械工学など多岐にわたる分野と密接に関連しており、物質の表面が相互作用する際の基本原理を理解し、これらの現象を制御する技術の開発に貢献します。実世界で起こるあらゆる動きに摩擦が関わっており、摩擦によるエネルギー損失の最小化や摩耗による損傷の防止は、効率的かつ持続可能な技術開発に不可欠です。

ナノトライボロジー
 ナノトライボロジーは、原子や分子、結晶レベルでの相互作用とその摩擦現象を研究します。ナノテクノロジーの進展により、特に重要性を増しています。微小なスケールでの摩擦と摩耗の理解は、 #ナノデバイス #マイクロエレクトロメカニカルシステム #MEMS )の設計と最適化に不可欠であり、これらの技術が日常生活のあらゆる面で応用される基盤を形成します。

スペーストライボロジー
 宇宙空間は極端な環境であり、真空、無重力、温度変動などの条件下での摩擦摩耗現象や潤滑技術は、地球上の条件とは大きく異なります。スペーストライボロジーは、宇宙船、人工衛星、宇宙ステーションの信頼性と長寿命化を実現するために重要であり、宇宙探査や衛星通信などの分野での技術革新に寄与します。

バイオトライボロジー
 生体内での摩擦・摩耗・潤滑は、人工関節や人工臓器などの医療機器の設計において極めて重要な要素です。バイオトライボロジーは、これらのデバイスが人体内で効果的に機能し、長期間にわたって耐久性を保つための基礎を提供します。生体適合性のある材料の選択や潤滑技術の開発などが、この分野の研究対象となります。

ジオトライボロジー
 地球物理学や土質力学において、地震や土砂崩れなどの災害現象を理解する上で、地殻プレート間の滑りや土壌の摩擦特性は重要な研究テーマです。ジオトライボロジーは、これらの現象の予渲と防災に直接関わり、安全な社会基盤の構築に貢献します。地震のメカニズムの解明や土砂崩れの発生予測など、地球上で起こる様々な自然現象における摩擦力の理解は、災害リスクの低減に不可欠です。

 トライボロジーは、私たちの生活のあらゆる面に影響を与える重要な学問です。レコード針の摩耗から宇宙探査技術、医療機器の開発に至るまで、摩擦学の原理は技術革新の根底にあります。この学問分野によって提供される洞察は、このnoteのテーマである #半導体 #鉱物資源 #地質学 #宝石学 などの理解に非常に重要です。

#武智倫太郎

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