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『爪切りと休日』/掌編小説

ぱち、ぱち。ぱち、ぱち。
狭い部屋に爪切りの音が響く、わけもなくこもる。

ぽかぽかと暖かい陽がそそぐ穏やかな休日。
昼過ぎまで寝て、布団の中でだらけていたらもう夕方であった。
今日はトイレに行くためにしか動いていない。ギネスの記録でも取ったように、なぜか誇らしい。
布団の上に、がんとして陣取りながらゴミ箱の上で、伸びてきた爪を切る。
あぁ怠惰。ゆるゆると、オレンジの陽に溶け出しそうな脳ミソを、爪切りのぱちぱちとした音で支えていた。

部屋の隅には懐かしのもう映らないブラウン管テレビと、小さな本棚。
足の親指の爪が、思ったより固くて傷つく。歳をとるにつれ、だんだん分厚くなるとかならないとか。
深爪したら大変だ。ぢっと足を見る。
これが俺の、四畳半物語。


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