合庭和也

合庭和也

最近の記事

Cabinet of Curiosities 2023

クリスマス・コンサートといっても色々あるが、Cabinet of Curiositiesは今年末も刺激的なプロダクトを提供する。 2021年に発足したこのプロジェクトはゲーテ協会と日本音楽財団のバックアップの元に、現代音楽でも僅かばかり試みられる収益性をまるで考慮しないかの如く、現にいまヨーロッパ(特にドイツ)で聴かれている音楽を提供してくれる。そのスピードはドナウエッシンゲンのCDやSWR2の放送に次ぐほどで、そして作曲家がフィルターをかけて厳選するという点ではさらに重要性

    • むしろ私たちが鏡

      デイヴィッド・ホックニー展@東京都現代美術館,2023/07/23 デイヴィッド・ホックニーは異星の神である。 とはいえラヴクラフトの隠秘な悪神ではなく惑星ソラリスのように無邪気に地球の光景を再現する。 その絵画は、少なくともある時期において、思考の漂白が徹底しており批評的な意思の欠片だに見当たらない。 そこには多分科学さえない。木々は細胞分裂ではなく謎のホックニー力で伸長する。 根源は、しかし、天国の無垢や原初の静寂ではない。 目の前にあるものとしての自然が存在し続けるこ

      • Phidias Trio vol.8 "Journey,Wander..."

        デンマークのペア・ノアゴー(Per Nørgård)といえば交響曲が有名だ。 シベリウスから始まる北欧文化圏の重厚色彩的な塊の音楽。ニールセンやラウタヴァアラなどと肩を並べる音色の大家。 交響曲だけ聴いているとそんな大枠で認知してしまうのだが、こうしてソロ作品に触れると別の姿が現れてくる。 コンサートの開幕を飾る"Within The Fairy Ring - And Out of it" からして怪しさが滲み出る。 クラリネットソロのための曲で徹頭徹尾メロディアスかつ単旋

        • 麻生三郎によるポスト臨死

          2023/6/18 世田谷美術館「麻生三郎展 三軒茶屋の頃、そしてベン・シャーン」  麻生三郎(1913~2000)の絵を追っていると、戦後すぐ1948年頃の画風は明確にシャガールとルオーの影響が感じられ、やがてクレーやフォーヴィズムや表現主義全般、そしてアンフォルメル・抽象表現主義の技法を習得するが中心にあるものは驚くほど変わらない。人間、環世界(Umwelt)の中のそれ、モノとして、生きているモノとしての現存在、それから元現存在というあり方。その身体から放たれるのは意思

        Cabinet of Curiosities 2023

          「前衛」写真の精神

          「前衛」写真の精神:なんでもないものの変容   〜瀧口修造・阿部展也・大辻清司・牛腸茂雄〜@千葉市美術館,2023/5/8 この展覧会における「前衛」写真は題している通りのかっこ付き、つまりある種含みのある「前衛」をピックアップしている。 語義に立ち入るまでもなく、「前衛」運動は日本で言えば戦前、1930年代から戦後にかけて海外の運動と共振する形で現れたある傾向である、という緩やかな共通認識がある。 とはいえその言葉の範囲は日本のシーンに限定してもなお幅がある。 この幅の中

          「前衛」写真の精神

          石津智大『神経美学』の要約とメモ

          石津智大『神経美学』の要約と所感メモ 備忘と誰かの参考のために [大要] 神経美学は2000年代になってから始まった新しい分野であるが、認知心理学に神経科学を取り込んだような形となっている。 英語圏で主に研究が進んでおり、研究者は心理学畑が多いという。 3つのジャンルに分類され、感性論が美の理論を包含していて芸術論は関連を持ちつつも別途議論されることになる。 本書の神経美学は全般に扱っているが美術との関連に寄せている。 Cognitive Neuroscience of

          石津智大『神経美学』の要約とメモ