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「坊主のスピーカー」

山田一郎は、一風変わった趣味を持つ普通のサラリーマンだった。彼の趣味とは、古代の秘宝を探し求めること。しかし、一つだけ厳しいルールがあった。それは、「見つけた秘宝は絶対に家に持ち帰らない」ということだ。

ある日、山田は久々の休日を利用して、近所の古書店を探索していた。その時、彼の目に留まったのは、坊主の形をした小さなスピーカーだ。そのスピーカーは古代の秘宝のような雰囲気を纏っており、山田はすぐに惹かれた。

しかしそれは、「家に持ち帰らない」という彼のルールを破る行為だ。彼は迷った末に、そのスピーカーを買うことにした。

家に帰った山田は早速スピーカーを試すことにした。彼はスマホと接続し、音楽を流した。ところがスピーカーから流れ出る音楽は、山田が選んだものと全く違った。

それどころか、スピーカーからは、なんと坊主の声で説教が始まった。「世の中の欲を捨てましょう。物欲は人を狂わせます…」と語り続けるスピーカー。

山田は愕然とした。彼が想像していたものと全く違った。このスピーカーは、まるで坊主が住んでいるかのようだ。

ところが、翌日、山田の生活が変わり始めた。スピーカーの説教を聞くうちに、彼は少しずつ物欲を捨てるようになった。朝から晩まで働き、満員電車に揺られ、頭痛に悩まされる日々から解放され、少しずつでも幸せを感じるようになった。

そしてある日、山田はスピーカーを見つめて言った。「君のおかげで、本当に変われたよ。ありがとう。でも、もう説教は必要ないから、普通の音楽を流してくれないか?」

すると、スピーカーから流れる音は少し静かになり、その後、山田の好きな音楽が流れ始めた。

驚いた山田は、スピーカーを見つめながら思った。まるで、スピーカーが彼の言葉を理解したかのようだった。しかし、その一方で彼は笑った。なんて馬鹿げた考えだろう。スピーカーが会話を理解するなんて。

そして、彼がスマホを見たとき、彼はようやく理解した。スピーカーとスマホがつながっている間、誤って説教アプリが起動していただけだったのだ。

そして、今日も山田の部屋からは、坊主の形をしたスピーカーから流れる音楽が聞こえてくる。しかし、それはもはや説教ではなく、彼の好きな音楽だ。

「あー、やっぱりスピーカーはスピーカーだよな。」と、山田は呟きながら、笑いながら彼の新しい日常が始まった。

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