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偽神の帰還 - 第四章「笹山」

新しい世界への一歩を踏み出すのは、ときに勇気がいるものだ。

大学の卒業式が終わった直後の春。四年間の学生生活が終わり、新たな門出を祝うため、笹山は親友たちと打ち上げをしていた。だが、彼の心の中には、ある人物が忍び寄っていた。その人物は、彼の親友、広介だった。

広介は大学四年生のとき、突然姿を消してしまった。あの頃、広介は一部の人々に異端と見なされる宗教団体に入信していた。そのことを知った笹山たちは心配していたが、同時に彼が選んだ道を尊重していた。だから、広介が姿を消したとき、笹山たちはただ待つしかなかった。

その春、笹山は父親のコネで日本でもトップクラスの広告代理店に入社した。新たな環境に慣れることに追われ、広介のことはしばらく忘れていた。しかし、笹山の初めての仕事が、広介との再会を引き寄せることになるとは、そのときの彼には想像もできなかった。

・・・

笹山はその一歩を踏み出す日を迎えていた。大学卒業後、父親のコネで就職した日本を代表する広告代理店にて、初仕事として与えられたプロジェクトは、ある宗教団体のプロモーション映像だった。

映像制作という新たなフィールド、団体という未知のクライアント、そして何より初仕事とあって、彼の心は期待と不安でいっぱいだった。明るい未来を思い描きながら、不安定な足取りで彼は新たな戦場へと踏み入れた。

映像の内容は、その団体の活動や信念、メンバーの様子などをアピールするものだった。正直、宗教団体というと何か暗いイメージを抱いていた笹山だが、映像は非常に明るく、クリーンな印象だった。初めて見たとき、彼はほっとした。だが、素直に喜べない部分もあった。それは彼がこの映像制作に広介が関わっていることを知ったからだ。

しかしながら、制作途中で彼は何かおかしいことに気付く。映像の一部に、何か余計なデータが混入しているようだった。そのデータを見つけた彼は、大学時代の友人に解析を頼むことにした。

そしてその結果、彼の不安は現実となった。映像の中には、サブリミナル効果を狙った映像や、人間が認識できない高周波にメッセージが仕込まれていた。さらにその制作指導をしていたのは、なんと広介だったのだ。

この発見は、彼にとって大きなショックだった。そして、同時に彼は自分の立場を痛感した。彼の父が率いる代理店が、これほどまでに陰険な手法を使っている事実。その一部に彼がなってしまったという現実。それは彼に大きな絶望感を抱かせた。

しかし、その一方で、広介が関与しているという事実は彼にとっても複雑な思いを抱かせた。彼は広介を友人として信じてきた。広介が何を思ってこんなことに関わったのか。彼は広介の真意を知りたいと思い始めた。

それから数日間、笹山は混乱と葛藤の中で過ごした。自分が広介との友情を選ぶべきか、それとも正義感を優先するべきか。しかし、最終的に彼は広介との友情を選ぶことにした。何か特別な理由があるのかもしれない、もしかしたら何かのトラブルに巻き込まれているのかもしれない。そんな不安を胸に、笹山は広介に会うことを決意した。

しかし、広介と連絡を取ろうとしたところ、広介の連絡先が全てつながらなくなっていた。心配は増すばかりだった。

それから数日間、彼は広介を探し続けた。そしてついに、広介の消息をつかむことができた。それは、広介が宗教団体の広報として活動しているという情報だった。 その事実に笹山は衝撃を受ける。

しかし、彼は広介との友情を選んだ。
だからこそ、彼は広介を信じ、広介の真意を探ることを決意した。 笹山は初めての仕事の納品を前にして、混乱と不安に打ちのめされていた。

だが、広介への信頼と友情が彼を突き動かした。広介との友情を選んだからこそ、この事実を広介に伝えるべきだと彼は心に決めた。 しかし、広介に会うためにはその組織に近づく必要があった。それは彼にとって恐怖であったが、彼は勇気を振り絞り、自分の父親が経営する広告代理店に納品する映像を持って、その宗教団体の本部へと向かった。

彼がその建物に足を踏み入れた瞬間、異様な雰囲気に包まれた。彼は広介に会うためだけに、その雰囲気を無視し、前に進んだ。そしてついに、広介と対面した。 広介は明らかに変わっていた。しかし、彼の中にはかつての広介の面影も見えた。笹山はその瞬間、広介を信じて正しかったと心から感じた。そして、彼は広介に映像の真実を伝えることにした。 しかし、その言葉が広介に届くことはなかった。

彼は笹山の言葉を遮り、

「何も知らないままでいてくれ」

とただそっと言った。笹山はその言葉に戸惑い、どうすべきか迷っていた。 最終的に彼は広介の言葉に従うことにした。しかし、その胸の中には、広介が何か大きな力に押しつぶされそうになっているのではないかという不安が渦巻いていた。

そして、彼は広介のため、そして自分自身のためにも、この事実を誰にも伝えずに、この広告代理店で働き続けることを決意した。 そこからの数年間は、まるで夢のようだった。笹山は仕事に励み、上司からの信頼も厚く、業績も上々だった。しかし、その成功の裏には重たい罪悪感が常に潜んでいた。そして、その罪悪感は広介からのたまの連絡と共に、笹山の心に深い傷痕を残した。

広介の宗教団体は急速に成長し、その影響力は増していった。彼はメディアに頻繁に登場し、その洗練された話術とカリスマ性で多くの人々を引き付けていた。しかし、その背後には笹山だけが知る真実があった。

そんなある日、笹山は広介から久しぶりの連絡が入った。

「笹山、久しぶりだね。今度、一緒に飲みに行かないか?」

という彼の提案に、笹山は言葉を失った。それは、彼がずっと避けてきた対面だった。しかし、彼は広介に対する罪悪感と友情、そして何より彼を止めるために、その提案を受けることにした。それが、二人の運命を大きく変えることになるとは、その時の笹山はまだ知らなかった。

ある夜、笹山と広介は東京のとある小さなバーで再会した。広介は変わらず華やかで魅力的だった。彼の言葉には確かな説得力があり、笹山は一瞬で昔の友情を思い出した。しかし、広介の眼には新たな光が灯っていた。それは信念の光か、それとも狂気の光か、笹山には見分けがつかなかった。

広介は自分のビジョンを語り始めた。世界を変えるためには、人々の心を変える必要がある。そのためにはメディアが最も強力なツールであると。しかし、その言葉には笹山だけが知る重大な秘密が隠されていた。

その夜、笹山は広介からの誘いに応えることにした。彼の宗教団体の中心で、その真実を探るために。しかし、その決断が笹山を深い闇の中に引き込むことになるとは、その時点では想像もつかなかった。それが、笹山の未来を永遠に変える最初の一歩だった。


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