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藤野英人『投資バカの思考法』

本を読むとき、今の自分に響いたところに付箋でしるしをつけながら読み進める。さらりと読み流すつもりだったこの本にも、読み終えた今、いくつも付箋がついた。

著者の藤野英人さんはひふみ投信のファンドマネージャー。お仕事を通じて培われた投資のスキルについて、わかりやすくまとめられた一冊だ。
しかし、投資という枠には収まらない内容だった。今この瞬間からの、自分の生き方やあり方、姿勢について、考えずにはいられなくなる。自分の人生という地図の真ん中に立って、それをじっくり眺めたくなる、そんな体験。耳が痛いというか、反射的に目を背けたくなるほどに響いてくる。

きっとまた違うタイミングで読めば、違うところに付箋をつけると思う。そのときには今と違う地点に立って自分の地図を眺めているはずだから。
だからこそ、今立っている地点にしるしをつける。またいつか、立ち止まって自分の地図を眺めながら、きっと弱気になっているであろう、わたしに宛てて。

リスクは「クスリ」。
怠け者の自分を受け入れる。


リスクは「クスリ」

リスクを逆さに読むと「クスリ」。リスクを取るからこそ、リターンが得られる。大きなリスクほど、大きな変化をもたらす。
投資の話を超えて、今わたしに向けられた言葉として聞こえてくる。今のままでいいと思っているわけではないのに、変わること、そのための一歩を踏み出すことに躊躇してしまう。

新たな一歩が踏み出せないのは「変わることがこわい」から。そう簡単に言って済ませてしまおうとする。でも正しくは「変化に伴うリスクがこわい」だ。そう気づくことが、スタート地点。
そう気づけたなら、そのリスクについて考えることができる。これから引き受けるかもしれないリスクについて考えてみる。リスクの正体を知る。
その結果、よしやるぞ!と気持ちが高まるのか、やっぱりやめたと道を改めるのか。それは、どっちだっていいのかもしれない。そのリスクを負っても負わなくても、漠然と「変わることがこわい」と躊躇していた自分よりは、一歩前進している。

もう一つ、わたしがハッとさせられた箇所。
今いるところが安全だからといって、最善とはかぎらない。そして、リスクが嫌いな人は、世の中の格差を支えている人、とつづく。
言われてみれば、そのとおりだ。薬には副作用があるように、絶対の安心安全なんでありえない。それなのに、変化に伴うリスクをおそれて現状維持を望むのということは、格差や差別や様々な問題を抱えたままのこの社会を許容するということになる。

変わることは、こわいだけではない。
変化に伴うリスクは未知数だからこわく思えるけれど、よーく吟味して、わたしはそのリスクを負えるのかと考える。自分の人生の地図を開いて、眺めて、考えてみる。こわいという気持ちも嘘ではないけれど、変わりたいという気持ち、進んでみたいという気持ちも、同じように嘘ではない。

クスリであるならば。
効能と副作用を知って正しく用いたら、きっと基本的に安全だ。


怠け者の自分を受け入れる

「完璧主義」の人ほど、三日坊主になりやすい。
これも、ほんとうに耳が痛い。見なかったことにして読み飛ばしてしまいたいくらい、他人事とは思えない。
「完璧主義」というと、一瞬、良いことのように聞こえる。ただし、良いのは完璧にこなすことであって、完璧主義であるだけでは、良いとは限らない。

完璧を目指すがゆえに中途半端さを見過ごせず、次に進めない。動けなくなって、やめる。つまり三日坊主。そんなループを何度経験したかわからない。その度に、自分で自分自身にがっかりする。

「三日坊主」で終わる大きな理由は、「完ぺきを求めてしまう」からです。
そもそも人間は怠け者なのに、「怠け者の自分は嫌い」「できない自分は嫌い」と考えてしまうから、苦しくなります。

完璧主義と三日坊主の相関関係。著者はこのように説明している。
そのとおりだなと思い、ふと、わたしの一部たりとも完璧な部分なんてないじゃないかと気づいた。左右の手のひらを見比べたら大きさがちがう。よーく髪の毛をみると、茶色っぽいのが混ざったりしていて真っ黒ではない。わたしのなかには、真っ黒も真っ白も、まんまるも真四角も、ない。

グレーな中途半端さを受け入れる。他の誰でもない、自分のこととして。

中途半端な怠け者だって、細々とでも途切れ途切れであっても続いているなら持続可能性がある。完璧にはなれない自分を認めた上で、決意を固め、約束を結ぶ。きっとかならず、それがほんとうの気持ち。
もしも約束を果たせなかったときには、すぐに謝る。謝りたくなると思う。自分との約束だったなら、ゆるす、かな。

完璧でも、怠けてても、生きてるということだけは、続いている。過去も今も未来も。だから、完璧を求めない。期待しすぎず、希望は失わず。



社会に世界に対して意欲的であり、自分の感性や気持ちも蔑ろにしない。
この一冊を通して著者に感じた、その絶妙なバランス感覚をわたしも身につけたいと思う。

長距離走なのかもしれない人生を走りきるためにも。


藤野英人『投資バカの思考法』



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