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「あれは、いい時代だったんだなぁ」と思わずにはいられない

近所のおもちゃ屋が閉店した。コロナ以前は、毎日のように足を運んだ店だ。

閉店する3日前、家族で挨拶に行ってきた。お世話になったスタッフのお姉さんに話しかけると、彼女は目を見開いて驚いた。そして次の瞬間には、目を細めてこう言った。

「大きくなったねぇ……!」

毎日のように足を運んだ日々。あのとき、娘はまだ3歳だった。

「今5歳で、年中さんです。」
「えぇ!もうお姉さんやん!」

娘は得意げに笑った。

「木琴したい、木琴!!」

おもちゃ屋さんに来るたびに、娘が言うセリフだ。スタッフのお姉さんは、慣れた手つきでそれを取り出した。

両手で木琴を叩く娘。力いっぱいに叩くから、その音は強烈に響いていたけれど、木のぬくもりがそれを緩和する。

「あぁ、この音、懐かしい……いつもこの音が鳴ってたのにねぇ」

このお店の人たちは、いつも幸せそうだった。おもちゃを、おもちゃに触れる子どもたちを、温かい眼差しで見つめていた。

「閉まるって聞いたので、会いにきました!」
「えぇー!!そうなんです、本当に急なことで……」

そうなんだ。閉店て、急に決まるんだ……とは言え、誰もが予測できたことではあった。

2年前までは、粘土遊びやビーズ遊びのイベントがあったり、キッズスペースでおもちゃを試せたりと、いつも子どもたちで賑わっていた。

けれども、コロナが流行ってからはイベントなんて開かれないし、キッズスペースも撤去されてしまった。そんな店内は、2年前までは考えられないほどに、閑散としていたのだ。


ほんの2年前……3歳だった娘の子育ては、今よりもしんどい時期だったけれど、「あれは、いい時代だったんだなぁ」と思わずにはいられない。

「〇〇ちゃん」と娘の名前を呼んでくれる人がいるのは、とても幸せなことだった。

子育てにおいて1番怖いのは、孤独だと思う。だから私は、毎日のように娘を外に連れ出していた。

例えば、朝は支援センター、昼はおもちゃ屋さんのキッズスペース……行く先々で出会う人たちの愛に包まれて、すくすくと育った娘。ありがたいなぁ。

そしてやっぱり、そういう場所がなくなるのは、寂しい。時代の流れに逆らうことはできないけれど、それでもやっぱり、、さみしいよなぁ。

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