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恋とジブリとlo-fiと

音楽を聴くのが好きだ。10年前までは、出かける前に「ケータイ、財布、iPod!」と確認するのが習慣だった。

うれしいことがあればそんな曲を流すし、悲しいことがあれば、しっとりと浸れるような曲を聴く。

学校や仕事の帰り道、目の前の景色に色がついたような、そんな感覚になれる音楽が大好きだった。

最近はステイホームが多く、外を歩きながら音楽を聴くことはない。それでも家の中は常にBGMを流しているし、やはり音楽は生活の一部だ。

そんな我が家は、夫婦ともに “lo-fi hiphop” を聴くことが多い。私の場合、なかなか寝付けない夜に “lo-fi, calm” などと検索すると、いい感じの音に出会える。

そんな中、偶然ジブリのlo-fiが流れて、昔のことを思い出した。夫との恋の始まりについてだ。

「そういえば、あれって間違いなく恋のきっかけになったよねぇ。」

「え、そうやったん?」

みたいな会話をして面白かったので、思い出を振り返ってみることにした。



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当時の彼は大学4回生。私は新入社員として研修に通っていた。

社会の荒波に飲まれてひどく疲れていた私に対し、まだ学生の彼は風のような人だった。

ひょうひょうと話す彼の声が心地良い。会社でトゲドゲになった心が、スッと楽になるような気がした。

ある週末、どれだけ休んでも疲れがとれず、未来に希望を持てないと思っていたとき…彼と連絡を取ってみた。


いつも通り、
「今日は何してたん?」
と聞いてくれる彼に、胸の内を話した。

就活中の彼に、
「仕事がつらくて…」
なんて話すのは大人げないと感じだけど、

「俺がんばる!」
みたいな気迫を感じたので、話してみた(アッサリ)。

「実はね、、、」

ポツリポツリ、仕事の愚痴を話した。とにかく慣れない、ついていけない。元気が出ないのだと。

ひととおり話を聞いてもらってから、その瞬間は訪れた。

「あ!ジブリのヒップホップの、めっちゃ良い曲あるねん!」

「えー、何?」

電話越しに耳をすませた。

流れてきたのは『千と千尋の神隠し』の『あの夏へ』だ。

「あ、え?千と千尋?」

と思った瞬間に流れた心地の良いビート…鳥肌。

「わー!なにこれ、めっちゃ好きー!」

あまりの好感触に、彼は得意げになって笑った。


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『千と千尋の神隠し』は私が小学生のときのジブリ映画で…つまり25年くらい前の作品なのだが、ノスタルジーが人を癒やすことは科学的に証明されているらしい。

そこに共通の趣味のヒップホップ要素が加わったこともあり、、恋のきっかけとしては完璧な流れだった。

なんてベタな展開だろう、書いていて恥ずかしい。でも、きっかけなんて何でもいいのではないか。



当時、学生と新社会人という立場にはギャップがあった。

「あぁ、もう、話していられない!」

などと電話を切る日もあったが(ごめん)、“ジブリlo-fi” のおかげで心の距離がグッと近づいた。

同じものに感動できるって、本当にうれしいことだから。結婚生活が長くなると、そんなことは当たり前のように感じるが、実は奇跡みたいな瞬間だと思う。

20代のときはヘッドフォンの音量をMAXにしておきたかったけど、今はどちらかといえば静かな音に浸っていたい。

音楽の楽しみ方はずいぶんと変わったし、私たち夫婦の関係も大きく変化した。

それでもやっぱり感動する対象は変わらない気がする。

4歳の娘は、まだジブリ映画を知らない。まずはトトロから始めようかな?

いつか千と千尋を見るときは、何も言わずに後ろから見ることにしよう。

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