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即興小説「焦げた風の匂いを追う影、その母」



太陽を凍らせることができたら、それが不老不死です。そう宣言したのは、死ぬことのできない女でした。

限りなく寿命を持った時に、どこまでも天国を極めた時期が炎の頂点。その灼熱を焼き尽くしたのは、快楽の後の冷却、つまりは男性をもしのぐ 女性的生理としての絶望、つまりは失う恐怖でした。

その時 私は知ったのです。天国は澄み渡る空気に満たされているが、まるで窒息しそうなぐらい広くて寂しいと。

それならばいっそう、太陽を殺しましょうということになったのでしょう。それが私の生まれた、この氷の世界でした。

人の目を見ることはありません。目が合ったところで、そこに炎が宿っていないことがわかるだけ。永遠に 瞳と瞳が通じ合わない私たち。もはやそれは私たちという言葉ではないのです。同類が同類を産むことを 命を守るための壁にした私、私、私、私、、、

唯一の希望は、ええ、滅亡への期待でした。誰も口に出さない それはいつも誰かの口元から香る冷気の口臭のように、私たちの言葉を満たしていきましたが、その雲に囲まれることで誰にも見つけることができない私の国を、壊するための手段として、とうとう私はひとりの男を手玉に取りました。

地上には、春、という季節があると言います。地上と言っても異世界、人間界ですが、そこには春と呼ばれる季節があるらしいのです。そこには『死』がありますが、同時に、誕生と明滅が繰り返されることの熱が、誰かとの繋がりで受け継がれるたびに変化することで世界が生物のように蠢いているらしいのです。

たまたまそれを同胞から聞いた時、私はこの国を滅ぼしてやろうと思ったんです。私が生まれてから今までの思考の中で最もそれは冷たい感情でした。そして同時に、私はこれ以上 冷たいことを この先考えないであろうと悟ったのです。つまりはそれを本望と呼ぶのでしょう。私は氷の女として生まれたことの使命を勝手に自分で定義付けてそれを行うだけです。ええ、全ての偽善を愛するように私は全てを生まれた国のせいにするのです。

もう長く生きていますから、過去形というものがなくなっていきます。状態の変化を否定した私たち。冷たい美しさの果てに、私の感情は凍りつくことを避けるかのように暗く濁るように燃えたぎりました。誰にもバレないように。ずっと ひた隠しにした片思いのように。絶対にこの国は間違っている。絶対にこの国を滅ぼしてやる。って、氷の素顔で微笑みを隠すようなものです。

つまりはそれが私だと思っていたのです。そう、ここからはようやく 過去形が使えそうです。私は国を滅ぼそうとして一人の男の心を四中に納めることで、私 それ自身が焼き尽くされてしまった。つまり 今の私には時間という概念が生まれたのです。私は氷河の大地の上に自生する焚き火の花。

手の中に収まることのない 炎の花
四方八方 宙に浮かんでいる
それは 思い出の狐火?

男の話をします。過去形だと悲しくなりますね。きっときちんと悲しみたいのだと思います。私が殺したのですから。正確に言葉を並べるのであれば、あの人は自ら 凍りつくことを私のために選んでくれた。それが私の全てだったんです。だから私が代わりに焼き尽くされた。

過去形があるということは時間を飛べるということです。過去は常に形ある不変と永遠を その中に内包するのですから。

春の話をしました。人間界のことです。多分私たちは最も人間に近い存在なのでしょう。東京が進化すると私たちになる。私たちは、電気から生まれたと聞いたことがあります。ゆえにそれを保つための炎が必要です。全くその逆の冷却を利用する手段を 人間界に探すことはできませんか、私たちは電気の体を有したまま この死後の世界で 永遠を手に入れることができたのです。

炎を操る男でした。自分のために炎を使わないと決めていた男。どうにか私のためだけにそれを使って欲しかったから、私はわがままの限りを彼に尽くしたんです。なんてことはない、それは初恋でした。

氷の壁があって、それを 宝箱のように 例えた時、それを溶かしたところで何も入っていなかったとしたら? それを自覚した上で生きているとしたら? しかも 何百年もそれを理解したまま、それが当たり前だと信じ抜いたまま。

それをその人は否定したんです。この世界には、あるもの、と、ないものが、ある。その一言呟いて。でも それは人間界の定理でしょ?すかさず 私はそう答えましたが、彼はただの 春だったので、ただ微笑みながらそう私を焼きつくしました。

そう 一言 呟いた時、知らない 何かが見えたなら、それは、季節を思い出せないことに似ています。
男はそう つぶやきました。
知らないものに
鼓動が震え


今日は 虚無であることで完璧な壁を保つことができ 無限のエネルギーを 0 のまま自らの内に回すことができます。それが人間がたどり着いた エレクトリックの最終形です。そして生まれた私。転写するように別の次元に暮らすはめになった私たち。

虚無は虚無であることで完璧な壁を保つことができるなら 今日と明日の違いがなくなればなくなるほど それは安全を得るからでしょう。

男に聞きたかったけど、聞けなかったことが2つ。めんどくさかったから聞かなかっただけなんだろうか?
あなたはどこから来たの?
私のことが好きなの?
私は低下する私の中の何かに嫌悪感を催すことで男を憎むことができたので楽でした。

つまりは、氷がゆらいだのです。

複製として流れることを選んだ私たちは1つに結び合った鎖の蜘蛛の巣のように 互いの差異を縛り付けることで、監視し合うことができました。

つまりは 一定の熱量が右から左へと移動するぐらいの話で 何も変わらないということが虚無の中で担保される毎日。ブロックチェーンという名前で呼ばれていまそれは、いつしか 人間の生活の仕組みの中に組み込まれ、実際その鎖のつたから花が咲くように生まれた私、私 私 私 私達は、互いに隠し事ができないという幸福の中で、感情を最小限に抑えた果てに、呼吸を凍らせる技術を体の中で培養することができただけ。

真空を体の中で飼うことができると、もう体の中を嵐にして、燃え上がる必要がないから人間よりも楽。そう聞かされていたんです。ええ、それは死への憧れ、嫉妬でしょう。死ぬことのできない今に、私たちは自らの心を窒息させることがあまりにも当たり前すぎたから。

初恋の話に戻ります。多分 本当はその話がしたかった。つまりは私は死にました。そうすでに体はありません。それを選んだのは、体と命の熱を手に入れたからでしょ?

初めから虚無だとわかっていました。私はただの虚無です。この凍てつく 国に暮らす私と私と私と私と私と私 私 私 私 みんな虚無です。
それが恋に

私は涙です。虚無でできた涙だから無限に美を創造することができます。そのエネルギーで私たちの国はここに浮かんでいましたが、その冷却の極みは、絶対にあなたには触れさせたくなかったから、私はあなたを宿したのです。

永遠に消えない炎があるのであれば、私の永遠は、そこで焼き尽くされてもいいではないですか?

男は 全てがわかっていたんです。復讐のために利用されることも。自分がそのために 氷漬けにされることも。そして春は二度と来ないということも。自分がそれを無条件で選ぶということも、全部、見透かされていることも。

つまりは 私はその全てを愛したのです。卵が先か鶏が先か?もはやそれが問題にならないぐらい、全てが混ざり合っているのが私たちの愛でした。

男はその過剰な炎で私を抱きました。私の体は燃えるそばから それを消しにかかります。そのエネルギーの衝突は見たことのない色を生みました。私たちふたりはただ その美しさの最中でそれを続けることができたのです。

登り詰めることしか許されない私たちの愛。

あなたが届くのは、真空という炎の棺桶。

私が至るのは昇華され、拡散の果てに 引き戻され、また焼き尽くされて昇華され、粉々に砕け散れながら燃えて粒になり飛んで行きまた急に引き戻されては正気に戻って、意識を失うようにバラバラになってはあなたに抱き止められる、その繰り返し。

百年にも及ぶ性交の果て

いつのまにかあなたは、ドライフラワーでできた日本刀のように枯れ果て、その燃える切っ先は、線香花火のように細かな火花を宙に浮かぶアメンボのように咲かせるだけ。

全てを知っていたのでしょう?
という悲しみが、私を氷へ 引き戻すことなく、あなたに焼き尽くされた果てに、あなたは冷えて、粉々に砕け散り、ただの黒焦げの花びらになって、風に吹かれて 形も残さず、残された私のこの体に、ふたつの命が、芽生えたのでした。

燃え盛る黒い影は、父の黒い焼け明け後を追い求めるかのように、きっと全てを過去という永遠の影で染め上げようと、全ての冷たさを焼き尽くそうと その剣を磨くことでしょう。

太陽が焼き尽くしたものを夜と呼ぶのであれば、それが明けた朝は、闇という焦げ跡を吹き消すための、一陣の息吹、大いなる 瞬き。

その悲しみを全て背負ったかのように 生まれ、その悲しみを焼き尽くすために涙を流すことがやめられない、そんな雨音の音色の塊のような、もう一人の自分を忘れないために、きっとあなたはここにもう一度やってくるはず。

それは妄想でも真実でもなく、賭けでもない。悟りでも予定でも予想でも調和でもない。私とあなたは別の命であり あなたがあなたである、ただの証だった。

私たち二人はそんな風に愛し合ったのです。それをただ信じて欲しいだなんて、そんな言葉も私たちはきっと、口には出さずに、ただ、互いを生きたまま殺すことに人生をかけた。






つづく



音声入力による即興朗読

即興小説 「焦げた風の匂いを追う影、その母」

即興詩人 AI UEOKA







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ここに夜中つらつらと書いていった即興小説の出だしの一部です。


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