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即興小説「空の心臓 隕石の劔」01

 『龍』の正体を先に示すがどうか臆することなく聞いていただきたい。
 何分、ここに記すのはただの言葉でしかないのだから。
 その実態とはかけ離れているのだから。
 そしてあなたの想像が龍にたどり着く その手前で、龍はその思考の形から逃れるようにさらなる形をその時 手に入れ、さらなる変容を繰り広げるだけなのだから。

 それは一粒の水の雫のようなもの。
 その水 それ自体が 龍であると思って欲しい。
 私たちはその中に組み込まれている。
 雫の中に宝石が散りばめられている様や、小さな木の葉がチリチリ水の中に浮かんでいる様を思い浮かべたところで、そういうことでもない。
 私たちもまた、龍と同じ性質の雫からできているから、その違いなど私たちにはわからない。
 つまり私たちは龍にたどり着くことができないという宿命の中に封じ込められているようなものなのだ。
 その中で運動し、その声や仕草や駆け足や遊びの動作が、雫の中のすべてのものと連動し合いながら雫全体としての一粒の龍を動かしていく。
 龍は一粒の水のしずく そのものだから、その中で起きていること その全てを同時に司っている。
 しかしその中の者たちはその外に出ることはできないから まさか自分が龍の中にいるだなんて思わない。
 そもそも自分が龍であることさえ忘れている、というよりも 龍であることの条件として それを完全に記憶喪失しているような状態がそもそもの龍である。

 それでも 内側にいる誰かが外側から自分の姿を見てみたいと思った。
 その雫の外側からその雫を見てみたいと思った。
 それが他人の始まりであり 想像力であろうということを龍は知っていた。

 つまりは龍は想像力を餌にしていた。

 内側の何者かが全体としての龍を想像する。 すると それだけで全体としての龍に作用が及ぼされ 龍 それ自体が形を変える。 まるで 想像されることを嫌うかのように想像された形をさらに超える 何かに自動的に変形していく。

 無限の内的変化が及ぼす 全体としての無限の連動と運動。
 乱反射する 360度の鏡地獄のようなものであろうか?
 つまりそれが龍の正体であるが、その透明な腹の中にいる私たちには、それは決してわからない。
 わかった瞬間それ自体が別の形に変わってしまうのだから。
 それが想像上の生物 最強としての龍の根本原理であるが、その根本原理 は うちも外もなく全ての雫の中に生きとし いける者たちにも適用されるわけで。

 誰かがそれを自覚したとする。

 それを 妄想的に確信しそれを疑いもなく 貫いたとする。

 どうなる?

 龍は自らが龍であることを放棄しなければならなくなるだろう。
 龍は自らが龍であることを記憶喪失しなければならなくなるであろう。
 そのことに気づいた 何者かが内側から、全体としての龍を消滅させるための何かを生み出そうとしていた。

 龍は、それがなされる寸でのところで、時を止める以外になかった。

 そうして世界は時を止めたわけだが、それは、その瞬間時を止める必要があったその男の求めた条件であることは、次の瞬間 龍が世界を動かしてみて初めて気づけることでしかなかった。

 つまり 龍の中で初めて 龍を欺く者が誕生し その男以外誰も 男が時を止めようと思った その理由と それによってもたらされる 本当の望みを知らない。





 即興小説 「空の心臓 隕石の劔」

 プロローグ 「龍の悟り」






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