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猫と暮らす100年越えの古民家⑦

   鉛色の空が、目に見える風景全てのトーンを落とし、いつもの空間が少しだけ静かだ。快晴だけを、良いお天気と言うのは何故なんだろう。厚い雲の層か広がる空も、雨の気配を運んでくる良いお天気ではないのだろうか。

    近頃のたまこは、時々膝の上に座ってみたり、なんならお布団の中へも入ってくるようになった。自分の心中としては、だいぶ打ち解けてきたぞひゃっはー!!と狂喜乱舞しているのだか、態度に表してたまこに引かれてしまわないよう、極めて平静を装い何でもないような振る舞いをしている。
   気がつけば頬は緩みっぱなして、はっきり言えばニヤニヤしているのだが、膝の上に座るたまこからは幸いにも見えていない。

   先日、右膝にたまこが居る状態の時、頭上から何か降ってきたと思ったら、この地域でハガチと呼ばれている百足だった。梁の上を渡っていて落ちてきたのだろう、黒光りする長い身体をくねらせ、左膝の上で体制を立て直そうとしている。

  左手で軽く払い落とした時にはもう、右手にペンチを掴み、足早に(自分にはそう見えた)歩き出した百足の頭を押さえ止める。たまこも自分も噛まれる訳にはいかない。

   緑に囲まれた山中は、自然豊かであり、こうした生き物もたくさん居る。以前、竹の切り出しから戻ると、髪の中から百足が這い出して来たこともあった。その時は、○◆☆$#@§●‼‼‼、のような自分でもよく分からない叫び声をあげていたなぁ。

    雨が降り出した山中は、色彩のトーンが更に落とされ、水のカーテンだけがゆらゆらと揺れ続けていた。

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