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秋の物語

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#ファンタジー

宝探し

 太陽が沈み、星々が大地を照らす時間帯。
 風に乗る精霊たちは太陽にあぶられることがなくなり、その顔に緊張の色はない。
 精霊たちの乗る風は、草原の草を揺らし、さわさわと、聴く者の心境によってその印象を変える音を立てる。心穏やかなものにとっては心地よく、後ろめたいものにとっては不気味な音を。
 その草原の中を、草をかき分けながら進んでいくものがあった。草原の草は進んでいくものの背よりも高く、離れた

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秋の風と月明かり

 手に持っていたペンを手放すと、精霊が作りだしている光の外に転がっていった。
 それを見送りながら、椅子の背もたれに体重を預ける。それだけでは足りず、頭もそらせば、背中から骨のなる乾いた音が響いた。それですこし気分転換になったシヴィーラは自分が今まで書き込んでいたノートを見返す。
 そこにはこれまで自分が調べてきたとある研究のまとめが記されている。それも、今日の研究成果を書き加えたことでその大綱も

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キシカベ

前の話

 メイラがテンリにビンタをくらわせた。そんな噂が広まったのは、テンリが子爵城への登城が許されてからだ。もっとも、テンリが入城を禁止されていたのは午前中だけという極めて短い間であり、子爵城で働く人の中には、テンリが入城禁止になっていたことを知らない人も多い。
「いやいや!!本当ですって!メイラさんがテンリにビンタしたんですよ!!」
「まさかお前がそんなホラを吹く奴だとは思ってなかったよ」

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騎士と司祭と壁子爵 4

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「そういえば、どうして騎士にならなけれよかったなんて言ったの」
 無事、テンリの騎士号は復活し、これからも城での勤務が許された。バンワンソ子爵の執務室を退室し、テンリは騎士としての訓練を行うために、騎士と兵士が勤務する合同兵舎へ。メイラは司教としての務めを果たすために地下にある聖堂へと向かっていた。途中までは道が同じであり、意図的に分かれて向かう必要もなかったため、二人で廊下を歩

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騎士と司祭と壁子爵 3

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「うむ・・・・・・どうしたものか」
 テンリは鉄壁の前で腕を組んでその威容を見上げていた。
 その隣では警備の兵士が困った顔でテンリをチラ見している。昨日まで共に仕事をしていたため、相手の素性は知っているが、兵士に直接通すなと下達されているのだ。兵士もテンリの扱いに困っているのだろう。
「なぁ、ほんとにどうして俺を通したらダメか聞いてないのか?」
「はい。オレたちも命令されてから

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騎士と司祭と壁子爵 2

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 ほんとにあいつバッカじゃないの!?
 メイラは表面上はいつもの穏やかな笑みを浮かべつつ城内の廊下を歩きつつ、内心では荒れ狂う感情を感情のままに荒ぶらせていた。だって表に出さなければ誰の迷惑にもならないし。
 もっとも、そう思っているのは本人だけであり、その荒ぶる感情はメイラの体を突き抜けてその身を覆っており、すれ違う人すれ違う人皆が皆思わず一歩壁際により道を譲る有様だ。
 両親とた

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騎士と司祭と壁子爵

次話

「秋風に吹かれて佇む城の外。思い思うは城の中。後悔すれども入城叶わず」
 秋晴れの空の元、拍子にのせて歌う男がいた。銀髪のその男は、目の前にそびえるようにして佇む鉄扉を見上げる。男の名はテンリ・ノマオシュロナ。目の前にある城に仕える騎士の一人である。

 バンワンソ子爵といえば、爵位こそそれほど高くないが、その治世の様は大陸の端に響き渡るほどの名君で知られている。しかし、子爵領の民たちの子

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トンボ狩り

「ひーでみーつくーん。いーきまーすよー」
 家の外から聞こえる声に、英光は出かける用意をするその手を早めた。
「もうちょっと待って!!」
「英光、もう出るかい?気をつけていってらっしゃい」
「うん。もう行く。大丈夫だよもう慣れたから。暗くなるまでには帰ってくるから」
 土間まで迎えに来た母とそれだけやりとりすると、英光は壁に立てかけてあったものを取って玄関をくぐった。
 家の外では、秋の日差しの中

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秋の1日 another side

 隣の家の方から聞こえる叫び声で浩二は目を覚ました。
 昔は日の出とともに目が覚めていたというのに、最近はめっきり目覚めが悪くなってしまった。それが顕著になったのは、妻を看取ってからか。もっとも、看取る、といえるほどのものでもなかったが。昔のことを思い出し、自重の笑みを口元に浮かべる。
 上体を布団から起こし、カーテンを開ける。そのついでに窓も開ければ、冬の近づきを知らせるかのように少し肌寒い風が

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秋の1日

「おぉ、今年ももうすっかり秋だなぁ」
 ドトウィがつぶやきながら見る先には、窓に立て掛けるようにしておいてある格子がある。その格子には糸瓜のツルが巻き付き、地面に近い所の葉は茶色くなり枯れてしまっているが、格子の中ほどでは立派な糸瓜の実があった。ドトウィの家の秋の風物詩だ。近くに越してきた異国人の家で見、教えてもらったのだが、夏はそれで陽の光を遮ってくれるのでなかなか助かっている。おかげで今年の夏

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秋の庭で

前の話

 カンナが庭の香りを楽しみながら歩いていると、庭にある芙蓉の木の陰から楽しげな鼻歌が聞こえてきた。その鼻歌を歌っている主の心当たりをつけながら、歌い手に気づかれないように芙蓉の陰を覗き込む。
 そこには案の定、しゃがみこみ、芙蓉の根元で雑草を刈っている女性の姿があった。淡い金髪をショートカットにして頭に麦わら帽子をかぶった彼女は、庭仕事をするには向いていない、白いワンピースを着ている。そ

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