見出し画像

第82回 SF超人ヘラクレス(1970 米)

 さて、前回は『ローマの休日』神に挑んだわけですが、本日11月26日は良い風呂の日です。

 映画に風呂とくれば淀川先生であり、我らがシュワちゃんをおいて他ありません。しかし、シュワちゃんの映画は意外に配信されていないので本noteでレビューが少ないのが寂しい限りです。

 というわけで、比較的視聴が容易なアーノルド・シュワルツェネッガーの記念すべきデビュー作である『SF超人ヘラクレス』でお送りします。

 シュワちゃん演じるヘラクレスがオリュンポス山での生活に飽き飽きし、下界に降りてニューヨークで珍騒動という低予算映画で、ある意味『ローマの休日』のカウンターです。『星の王子ニューヨークへ行く』に先行しています。

 迫力のないアクション、訛りが酷くて吹き替えになったシュワちゃんの声、ギリシャ表記とローマ表記が混在する適当な神様たち、まったくもってB級ですが、この映画に携わった人全てが今では喜んでいると確信しています。

 けどそれでいいのです。全盛期のシュワちゃんの筋肉でご婦人とゲイを悦ばせる為にこの映画が作られたのは明白なのですから。

 そして、ダブル主演であり、議論の余地なきメインヒロインのコメディアン、アーノルド・スタングのコミカルにして尊い演技は必見です。あるいは、シュワちゃんの映画で最も精神的ホモを強烈に描いたのはこの映画ではないかと思います。

SF超人ヘラクレスを観よう!

U-NEXTで配信があります。Amazonでも有料配信があります

真面目に解説

シュワちゃんであってシュワちゃんにあらず
 本作でのシュワちゃんはアーノルド・ストロングという役名でクレジットされています。これはシュワルツェネッガーなんて長い名前は覚えてもらえないという考えによる措置です。

 シュワちゃんはボディビルの世界王座であるミスターオリンピアを7回も獲得した世界一の筋肉野郎でしたが、そんな肩書は銀幕では通じないよと言うわけです。

 今となってはシュワちゃんの名前を知らない人間などいないでしょうし、自らボディビルの振興の為にそのネームバリューを大いに活用しているのはご存知の通りです。世の中どう転ぶか分からない物です。


ヘラクレスとは何者か?

 ヘラクレスを知らないという人も居ないと思いますが、細かい事を知っている人は稀ですので、一応説明しておきましょう。

 ギリシャ神話の神様で、女狂いのゼウスの息子ですが、母親が誰かは色々説があり、本作ではジュノーという事になっています。ですが、正直言ってこれは珍説です。

 おまけに本作のジュノーは元は人という設定になっていて、ヘラクレスは半分人で半分神なのでちょっと軽んじられています。

 ギリシャ神話の神はローマでも信仰されていたのでギリシャ風の名前とローマ風の名前があるのですが、この辺も本作は適当で、両方が混在しています。

 そんないい加減で退屈なオリュンポス山での暮らしが嫌になったヘラクレスは、家出同然に下界へ行ってしまうのです。


ニューヨークの休日
 本作は明らかに『ローマの休日』を意識した作りになっています。パンナムの飛行機にへばりついて海に飛び込んだヘラクレスは船に拾われて船員と喧嘩した挙句ニューヨークに降り立ちますが、ここで通りがかりのプレッツェル売りのプレッツィー(アーノルド・スタング)に拾われて下界で暮らしを立てるのです。

 何しろヘラクレスなので社会常識がありません。何かというと脱いでおっぱいをピクピクさせ、タクシー代を要求されてタクシーをひっくり返し、父親譲りのナンパで女を落とそうとし、全くもって迷惑です。

 しかし、プレッツィーはそんなヘラクレスに常に寄り添って世話を焼くのです。しかし、これはBL的の方に持っていく話です。


あの日オリンピアで
 ヘラクレスは大学の陸上部の練習に下手糞といちゃもんをつけ、投擲や幅跳びで凄まじい記録を出し、見ていた大学教授(ジェームズ・カレン)に気に入られて話が動きます。

 何しろオリンピックはヘラクレスが始めたのです。そりゃあスポーツ万能なのは当たり前です。ボディビルとステロイドは不可分なので絶対にオリンピック競技に採用されないのは皮肉ですが。

 教授の娘のヘレン(デボラ・ルーミス)を選手から略奪したヘラクレスは、プレッツィーの勧めで生計を立てる為にプロレスに身を投じます。シュワちゃんとプロレスはやっぱり不可分であり、色々とこの映画には歴史の転換点が隠れているのです。

 笑いどころは動物園から逃げた熊と戦うシーンです。映画に熊が出てくるとろくなことにならないのが通り相場ですが、明らかに着ぐるみのこの熊さんはやっぱりヘラクレスに殺されてしまうのです。

 というより、この映画は全体的にアクションに迫力がありません。そんな事に金をかける事は出来なかったようです。なにしろ製作費はたったの30万ドルですから。


ダンコ大尉のマンドリン
 低予算ぶりはBGMにも見て取れます。本作のサウンドトラックはその大半が1本のマンドリンで奏でられているのです。

 ギリシャっぽくて陽気ではありますが、どんなシーンでもこれです。これは明らかに他のパートを雇う金が無かった為の苦肉の策です。

 しかし、同じように楽団を雇う金が無く、ギタリスト一人で全てを間に合わせた映画というのがあります。かの名画『禁じられた遊び』です。

 そんな意図は毛頭なかったと思いますが、今となっては映画とはお金ではないという教訓を与えてくれる深い映画なのです。


ゼウスに代わってお仕置きよ
 さて、ニューヨーカー気取りのヘラクレスをどうにかしようとオリュンポスの神々は色々対策を講じます。冥界で100年の禁固を課そうとするゼウスは取りあえず息子の一人であるマーキュリーを差し向けますがヘラクレスは言う事を聞きません。

 そこで息子を疎んでいるジュノーが暗躍し、ゼウスの兄弟で冥界の主であるプルートー(ギリシャ式だとハデス)お仕置きの女神のネメシスと共謀し、薬を盛ってヘラクレスの神性を奪ってしまいます。

 そのせいでプロモーターのギャングが金を賭けている重量挙げ対決に負けたヘラクレスは窮地に陥ってしまうのです。


身体で稼げ!

 ヘラクレスはサーカスの力業芸人に重量挙げ対決を挑まれて負けてしまい、賭けで大損をしたプロモーターに追われる立場になります。

 ところが、神性を失ったヘラクレスはその筋肉を下回って明らかに過剰に弱くなり、せこいヤクザ者にタコ殴りにされるという醜態をさらします。

 これを心配したのがゼウス以下神々で、マーキュリーがサムソンとアトラスを助っ人に寄越して窮地を切り抜けます。ヘラクレスはジュノーの思惑と裏腹に人望があるのです。

 この辺りになるとゼウスも完全に折れてヘラクレスを応援しちゃう有様です。誰からも愛される男シュワちゃんであります。

 これらのマッチョマン達は本職がボディビルダ―やプロレスラーの人達で、俳優より安く上がってご婦人とゲイが喜ぶという意図が見え見えです。しかし、それでいいのです。その狙いはシュワちゃんの人生さえ好転させたのですから。


華の大戦車競走
 クライマックスでちょっと奮発してヘラクレス一行とギャングのカーチェイスがあります。早回しで迫力を演出しようとするシーンが涙ぐましい物があります。

 ここでなんとヘラクレスはたまたまブロードウェイでヘラクレスを題材にしたミュージカルをやっているのを利用し、戦車を強奪してプレッツィーと一緒に教授とヘレンの乗る車を追いかけて行くのです。

 『ローマの休日』のついでに『ベン・ハー』もオマージュしてやろうと思ったのでしょう。しかし、戦車が明らかに遅いのは突っ込んではいけません。

 ここで戦車を奪われる役者が実は後に推理小説で名を成すパーネル・ホールです。本当に神がかった映画です。


友情だけが残った

 さて、ひと騒動終えたヘラクレスはオリュンポスへと帰っていきます。プレッツィーは一人ぼっちに戻り、悲観に暮れるのです。

 しかし、部屋のラジオを介してヘラクレスはプレッツィーにメッセージを送り、希望を持たせて映画は終わります。

 この辺りも『ローマの休日』よりハッピーであり、『ET』や『瞼の母』のノリも感じさせます。とにかく、雑な作りですが映画に必要な物は外していないのです。

BL的に解説

カリフォルニア皇帝アーノルド一世
 作中ジュノーはヘラクレスがこのままだと王に祭り上げられると心配します。ネメシスにこの国は王ではなく大統領が治めていると冷静な突っ込みを入れますが、果たしてシュワちゃんはカリフォルニア州知事となり、筋肉の現人神となりました。

 シュワちゃんの知事としての功績は何と言っても同性結婚の解禁です。共和党員がこれをやったというのは凄い話ですが、これにはがありました。

 というのも、シュワちゃんは当時駆け出しで金が無く、その収入の多くをブロマイドの売り上げに依存していました。

 誰が買ったのか?ゲイの人達です。その恩義に報いる為に同性結婚を解禁したと公言しています。シュワちゃんはケツの穴の大きい男だというのを物語る美しき浪花節です。

 アスリートの性的搾取というのが近頃問題になっていますが、私はこのエピソードにこの問題の答えを見るのです。キーワードは性的還元です。


オリュンポスはハッテン場
 この際言っておくと、ギリシャ神話というものは基本的にホモです。そりゃあそうでしょう。ノンケは変態という価値観で動いていた人々の神話がノンケの訳がありません。

 レイプ魔ゼウスさえガニュメーデースという美少年をホモレイプしています。こんなのがいっぱいあるのがギリシャ神話です。

 そもそも、わが国でギリシャ神話と言えば古の覇権ジャンル、聖闘士星矢です。ホモなのは当たり前です。

 そして、私はこの映画をギリシャ神話の外典とすべきとこの際提案します。


×ゼウス
 シュワちゃんは総攻めなのでスタローン同様簡略式で進行します。なあに、大丈夫。近親相姦などギリシャ神話ではホモと同じくらいありふれた事です。

 そもそも、ゼウスが何故ヘラクレスの下界行きに反対したかというと、下界はろくでもない場所だと思っているからです。

 ゼウスは子供思いとはとても言えない神ですが、こんなにも親心を見せてくれるのは、特別な感情が介在しているからに他なりません。

 そもそも、キリスト教原理主義に毒されたホモのホモ嫌いの考古学者が握り潰しただけで、そんなエピソードが本当にあったとしても何ら驚く事はありません。こうして少年愛を讃えた詩作が少なからず闇に葬られたとされています。

 お仕置きが冥界で100年というのも冷静に考えれば甘いと言えます。冥界とて神域であり、プルートーはゼウスと兄弟。100年というのだって神様にしてみればちょっとの事です。

 つまり、物々しい言い方であっても、人間語に直せばしばらく叔父さんの家で謹慎してなさいと言っているに過ぎないのです。

 しかし、ジュノーがそのプルートーと結託してヘラクレスをあわよくばギャングに殺させようとします。ジュノーは赤子のヘラクレスに蛇を差し向けた前科もあるので、とんでもないオメコ芸者です。

 これにはゼウスも怒ります。そこまでやれと誰が言ったんだというわけです。ちょっと懲らしめてメンタルの弱った所へ水を向けて掘ってもらおうとでも思っていたのでしょう。

 その後のゼウスときたら完全にメス堕ち状態で、ヘラクレスを応援するばかりです。そして、自分も下界へ降りてしまうのです。

 これはヘラクレスには面白くない事態です。ゼウスは行動の責任を身体で払わねばいけません。どっちも気持ち良くなってノーリスクです。


×プルートー

 これに関してはまずプルートーという神について深く説明しなければいけません。

 プルートーはゼウスの兄弟であり、絶えず死人がやって来る冥界を取り仕切っているのでゼウスより勤勉であるとされます。

 それ故女にも固く、ある娘に懸想して思い悩んでゼウスに相談し、彼の流儀に則って誘拐してしまったのは有名です。そして、誘拐したペルセポネをとても大切にしました。

 つまり、プルートーは重い男なのです。そんな一途な純情野郎が男に目覚めたらヤンホモ化は不可避です。

 プルートーもヘラクレスが好きだったのでしょう。だからこそ冥界で100年というのは美味しい提案です。何しろ彼は仕事が忙しくてオリュンポスにあまり顔を出せない身の上なのです。

 ジュノーの薄汚い提案に乗ったのもその為です。本当に死ねばそれこそ独り占めできるのですから。

 ヘラクレスを連れ戻す為に最高の女が一杯死んだからいいタイミングと誘うのも意味深です。勿論この場合の女とは生物学的女性を指すものではありません。セックスする相手は全部女です。それがグレコローマンスタイルセックスなのです。

 しかし、甥っ子を殺して独り占めを狙うヤンホモとはゲームオブスローンズもびっくりです。


×プレッツィー
 正直のところ前述のカップリングは文字数が寂しい為に用意した埋め草に過ぎません。この二人の美しく崇高な純愛こそがこの映画の真のテーマです。

 それを証拠に、名ばかりヒロインのヘレンは終始ほったらかしです。明らかにプレッツィーがメインヒロインとして描かれています。

 船に拾ってもらったものの俺様ぶりが過ぎて港湾労働者のモンと喧嘩していたヘラクレスを、唐突に救ってタクシーに乗せたのがプレッツィーです。

 つまり、ヘラクレスがアンでプレッツィーがジョンというわけです。タクシー代の払いで揉める事からも明らかに意識しています。

 ところが、ジョンには金の為にアンの秘密を暴こうという唾棄すべき汚らわしい下心がありました。プレッツィーにはそれが無いのです。

 プレッツィーがホモで、一緒にお風呂に入りたい欲があったとしても、それはむしろ自然な事であり、ジョンよりよほど健全といえます。

 ヘラクレスにしたってたった2ドルの支払いを拒んでタクシーをひっくり返す俺様ぶりを見せる反面、プレッツィーにプレッツェルを貰うと嬉しそうにお礼を言うのです。これが純愛でなくて何でしょうか?

 プレッツィーはその後もヘラクレスが身を立てられるように計らい、プロレスに売り込みます。プロレス関係者にゲイが多いのは周知の事実ですが、プレッツィーも売り込みの為に苦労をしたはずです。ホモのプロモーターに掘られるくらいはしたはずです。

 そうして人気者になったヘラクレスに悪い大人の魔手が迫ります。プロモーターがヘラクレスの身柄を寄越せとプレッツィーに書類にサインするよう強要します。

 結局プレッツィーはサインしましたが、強硬に反対し、サインした後は後悔の念で飲んだくれます。ヘラクレスが遠い所へ行ってしまうと思えば酒に逃げるのは無理からぬ話です。

 しかし、ヘラクレスは結局プレッツィーをトレーナーとして手元に置いて二人三脚の体制を崩しません。重量挙げで負けて逃げる時も、戦車に乗る時もいつも一緒です。まさにニューヨークの休日。純愛です。

 そうして二人で修羅場を潜り抜けたヘラクレスとプレッツィーですが、ヘラクレスは唐突にオリュンポスへ帰ってしまいます。

 なりふり構わず探しても見つからず、しょぼくれて家へ戻ったプレッツィー。世界最強の男が俺とつるむわけがないだの、彼を忘れないだの、センチメンタルを炸裂させながらラジオを付けると、ヘラクレスがメッセージを届けてくれるのです。

 離れていても思い出は残る。ずっと友達だ。君に会えてよかっただのと甘ったるいメッセージを贈るヘラクレス。そして僕はいつでも君の心の中にいると結びます。

 どうですか。アホ映画どころかサモトラケのニケより美しい恋物語です。

 きっとプレッツィーは寂しさを紛らわすため、ヘラクレスの面影を求めてグリニッジヴィレッジをうろつくようになるのでしょう。

 プレッツェル一つで誰とでも寝る名物男になった頃、ゼウスが下界に行ったので遠慮のいらなくなったヘラクレスが現れ、プレッツェルを買い占めてプレッツィーを掘っていた半端マッチョをぶちのめします。

 かくして二人は真の意味で一つになるのです。ゼウスも文句を言いません。プレッツィーはオリュンポスに迎えられ、プレッツェル座が輝く星の下でいつまでも交わり続けるのです。

お勧めの映画

 独自の統計(主観)に基づきマッチング度を調査し、本noteから関連作品並びに本作の気に入った方にお勧めの映画を5点満点にて紹介します

『ローマの休日』(1953 米)(★★★)(オマージュ元)
『ベン・ハー』(1959 米)(★★★★)(オマージュ元)
『レッドブル』(1988 米)(★★★★★)(シュワちゃん大暴れ)

ご支援のお願い

 本noteは私の熱意と皆様のご厚意で成り立っております。

 良い映画だと思った。解説が良かった。憐れみを感じた。その他の理由はともかく、モチベーションアップと資料代他諸経費回収の為にご支援ください。

 2ドルと言いません。プレッツェル一個分で

皆様のご支援が資料代になり、馬券代になり、励みになります。どうぞご支援賜りますようお願いいたします