見出し画像

第49回 釣りバカ日誌(1989 松竹)

 10月の終わりは本noteを私事で一時的に更新できませんでした。その私事というのは私の祖父が亡くなった事です。

 死ぬ直前まで酒を飲み、バブル期には妓生遊びの為に韓国に毎月出掛け、ライオンズクラブの会員のくせに赤旗と聖教新聞を購読し、自民共産両方の議員から弔電が届いた、まったくもってアナーキーな土佐の男でした。

 今回は趣向を変えて祖父の好きだった『釣りバカ日誌』をレビューしようと思います。なんだか死人の相手ばかりしていますが、松竹の偉い人は「興行は襲名と追善に見つけたり」と言っていたのでいいでしょう。

 西田敏行演じるダメリーマンのハマちゃんが、勤務先の社長である三国廉太郎演じるスーさんとドサ回りしながら釣りをしつつ騒動に巻き込まれるという言わずと知れた海洋国家日本を代表する映画であります。

 退屈な映画と思うなかれ、全部同じ筋書き(型が完成している)の寅さんと違って想像以上にストーリーに彩りのあるシリーズです。特にこの第1作はシリーズ化の予定がなかったので意外性があります。

 そして、釣りバカ日誌と言えば奥さんとの合体じゃないかと侮るなかれ、実はこのシリーズはとんでもないBL映画なのです。

 この作品は孤独な金持ち爺さん(スーさん)が気まぐれな若い男(ハマちゃん)に未知の快楽(釣り)を教え込まれ、(釣り)竿を振り回して快楽に溺れ、ヤンホモ化していくという凄まじい話しなのです。

 いつハマちゃんとスーさんが合体するんだろうという勢いです。いや、画面に映らないところで合体している勢いです。

 こんな供養があるのかとお思いの方もありましょうが大丈夫。祖父の仕事は電気工事屋。妓生遊びが大好きなだけで立派なヴィレッジピープルなのです。

釣りバカ日誌を観よう!

Amazonでは本作のみですが、Netflix、hulu、U-NEXTではシリーズ通して配信があります。段々ホモ臭くなっていくので必見です。


真面目に解説

寅さんの影法師
 『男はつらいよ』は4ダースも作られるうちにあまりに巨大化してしまいました。なにしろ「寅さん」は俳句の季語なのですから、もはや日本の風景の一部になってしまったという事です。

 しかし、渥美清も人間である以上歳は取るわけで、盆正月の年二本体制が末期は正月だけになり、この頃になると渥美清が身体を悪くしているのが画面越しにも見て取れてしまいます。

 当然松竹は焦ります。代わりの看板が必要です。そこで、二本立ての併映作品でポスト寅さんを探すことになりました。

 そして40作目の併映として作られたのが本作です。脚本には誰あろう山田洋次が座り、監督は弟子筋の栗山富夫。しかし、実質山田洋次が監督していたとも言われています。松竹の意図は明白です。

 予想以上の好評を博し、1作間を置いて寅さんの併映としてシリーズが続き、渥美清の死と共に一本立ちして見事に後釜を務めたのはご存知の通りです。

 一本立ち後は入場料千円のサービス価格で興行したことでも知られています。しかし、これには裏があります。お客さんのほとんどが元々千円で入場できるお年寄りだったのです。松竹は商売上手なのです。


原作レイプ(意味深)

 案外知らない人が多いですが、釣りバカ日誌には漫画の原作があります。100巻を超えてゴルゴ13が終わるのを虎視眈々と待ち構えているところです。

 スーさんがハマちゃんに社長だと知らず釣りを教え込んでいちゃつくというのは同じですが、ストーリーは微妙に違います。

 第一に、映画ではハマちゃんは最初から釣りバカですが、漫画ではハマちゃんの所属する営業三課の佐々木課長(谷啓)に嫌々連れていかれてのめり込んでしまうという経緯があります。

 映画では佐々木課長は釣りはせず、ハマちゃんのいい加減さに頭を悩まされるばかりです。かつてスーダラで無責任な人に苦しめられてきたバックボーンが生きています。

 そして、映画ではハマちゃんは異常なカリスマを持ちつつも会社に直接の利益はあまりもたらしませんが、漫画ではハマちゃんは釣りを通じて人たらしぶりを発揮し、知らぬ間に鈴木建設をコントロールして会社に貢献してしまいます。

 つまり、竿一本で経済を動かすジゴロなのです。合体で世界を動かす島耕作にも負けていません。


合体(直球)
 あっちもあっちでホモのライバルに死に際に告白されたりしていましたが、あの世界の人間は浮気不倫ばかりしていて全くもって不健全です。

 その一方ハマちゃんは恐ろしいホモジゴロである一方、夜は奥さんのみち子さん(石田えり)一筋です。何と言っても釣りバカと言えば合体です。これが無い釣りバカ日誌は糸のない釣り竿も同然です。

 亭主が釣りに行くのを笑顔で送り出してくれる美人の奥さんなど世間に滅多に居るものではありません。そりゃあ毎晩でも合体したいと思うのは当然です。

 実は合体不成立も結構多いのですが、今作ではまだ息子の鯉太郎も製造段階であり、若いのでなんと三回も合体しちゃいます。

 そして、例の合体のテロップが時代とともに進歩していくのもこのシリーズの面白い所です。映像技術の進歩を合体に見ることができるのです。

 一方スーさんは一応奥さん(丹阿弥谷津子)は居ますがあんまり仲は良くなく、二人の子供は家を出て行って好き勝手しており、家庭は冷え切っています。

 なのでスーさんは孤独を癒す為にハマちゃんの家に入り浸ってしまうのです。こんな人は結構居ます。そういう意味ではリアルです。

 そしてスーさんは結構モテます。二作目以降はちょいちょい熟女のマドンナが登場してマダムキラーぶりを発揮してしまうのです。

 原作では「ジジ恋」なる固有名詞まで付いていますが、結局のところはハマちゃんとスーさんの『おっさんずラブ』があるのみです。大体スーさんの竿はもう…


俺の海よ

 本シリーズのテーマは釣りであり、日本は世界に冠たる海洋国家であり、また河川国家であります。従って、寅さんの大事な役割であった全国行脚を引き継ぐのに全く不自由はしないのです。

 ハマちゃんは問題を起こしてしばしば海のない所へ左遷されそうになりますが、渓流釣りができるとかなんとか喜んでしまい、左遷の意味がないと上役が頭を抱えるというのが定番です。

 魚も土地土地で違うので、釣りのスタイルも毎回違ってきて興味を引きます。釣りは趣味の王様と申しますが、成程奥深いものだと納得させるに十分です。釣られる魚に傷一つないのに今一つ元気がないのは指摘してはいけません。

 全国行脚に都合がいいので、寅さんが行かずに終わった富山と高知はシリーズが進んでからは氷見のブリを釣り、四万十の鮎を釣ることで埋め合わせが行われました。

 もっとも、それで当地の人が納得したかというと、少なくとも高知の人は全然納得していない様子でしたが…

 そしてやっぱり寅さんが行かなかった埼玉は仲間外れにされてしまいましたが、柴又はほぼ埼玉ですし魔夜峰央が喜ぶのでこれでいいのでしょう。


役者バカ三國連太郎

 スーさんはプレハブ小屋の土建屋の親方から一代で上場企業の社長になった傑物という設定ですが、それだけに気難しく、周りに恐れられています。はっきり言ってこの人の部下は嫌だと思わせるキャラクター造形です。

 その一方で家庭は冷え切り、部下にも全幅の信頼を置けず、心に闇を抱えています。だからハマちゃんとの釣りに癒しを求めてしまうのです。

 並の役者には手に負えない難しい役です。三國連太郎を選んだのは慧眼だったと言うべきでしょう。

 本当はこの映画にあまり乗り気ではなかったうえ釣りも嫌いなのだそうですが、他に出来そうな人が居ないのも確かです。

 三國連太郎という人はプライベートでも役にのめり込んで周囲を困らせる典型的役者馬鹿ですが、それだけに乗り気でなかったこのシリーズにもやがてのめり込み、最後はライフワークと言い切るまでになってしまったのです。

 
ハマちゃんと愉快な仲間たち
 一方ハマちゃん遅刻が当たり前のダメ社員である一方、類稀なカリスマの持ち主で、そのカリスマで営業仕事も取ってきてしまうというなかなかのチートキャラです。西田敏行の胡散臭いキャラクターが非常にマッチしているとも言えます。

 従って周りの人々は皆ハマちゃんが好きです。もう男にも女にもモテモテです。

 まずはハマちゃんと懇意の釣り船屋のハチ(アパッチけん=中本賢)です。シリーズ全作品に出ている貴重な人物でもあります。使い捨ての家族がストーリーを動かすのが特徴で、今回は父親(三代目江戸屋猫八)が釣り船屋の事務員を探すのが重要なキーになってきます。

 同じく全作品出演を達成したのがスーさんの運転手の前原(笹野高史)。ハマちゃんとスーさんの秘密の関係を知る数少ない人物で、ハマちゃんにやっぱり振り回されてしまいます。この人についてはBLの方でたっぷり解説しましょう。

 そしてホモ臭い映画に花を添えるのが営業三課のOL連中。売り出し中のタレントが起用されて絶えず入れ替わりますが、戸川純演じる恵は長い事居座っていました。

 戸川純は近頃はすっかりミュージシャンですが、子役で新国劇の舞台に立ったくらいなので武闘派OLとしていい味を出しています。

 そしてこのシリーズの特徴として、どうでもいい役である鈴木建設のお偉いさんのキャストがやたらに豪華な事が挙げられます。

 本作ではハマちゃんが元々いた高松営業所の課長に鈴木ヒロミツ、所長に名古屋章、専務に前田武彦という風に、無駄遣いも甚だしい陣容が整えられています。

 その後もストーリーに何ら寄与せずスーさんに恐れおののくばかりの取締役に無駄に良い役者を使うのはお約束になります。石原軍団から"天下り"してきた人が多いのも特徴です。

BL的に解説

原作を読め!
 腐った皆様はこの映画が気に入ったなら絶対に原作を読むべきです。原作のホモ臭さは映画の比ではありません。スーさんのヤンホモは白鯨並みに制御不能です。

 映画だとスーさんは平気で一人で釣りに行っちゃいますが、漫画のスーさんはハマちゃんと釣る事に固執し、ハマちゃんが他の男と釣ろうとすると嫉妬に狂って会社を傾けてでも阻止しようとしてしまいます。

 そしてたまに喧嘩して絶交しそうになりますがその度復縁して余計に深みにはまり、どんどん病んでいき、結果としてハマちゃんのおかげで会社は大きくなっていくのです。

 そんなBL大河ドラマが100巻以上も続くのですからハマると抜け出せなくなります。ネットカフェにでも行って是非お試しください。単純に釣り漫画として良く出来ている点も忘れないでくださいね。


釣り人はホモ

 釣り人とは夜のセクシャリティがどうあれ、ホモ臭い生態の人種です。仲間を以上に大切にする一方非常に嫉妬深いのです。

 殆ど本能的に大切な仲間の道具に嫉妬し、釣果に嫉妬してしまうのです。そういう生態が本作では鮮やかに描かれています。

 そしてホモは相手の股間の竿に嫉妬し、モテ方に嫉妬します。そう、根本は全く同じです。

 そして、作中みち子さんはスーさんにハマちゃんから聞いた釣り人の素質について「短気でスケベな事」と語ります。そう、釣り人はスケベなのです。

 松方弘樹と梅宮辰夫がイチャイチャしながらマグロ漁に出かけて行くのが年中行事だったのは当然の帰結なのです。この二人については安売りできないので後々の為に大事にとっておきます。

 また、釣りに限らず、キャンプ、登山、狩猟と言ったアウトドアな趣味を持つ人は現実逃避の手段としてそういった趣味を持つ傾向があります。休日くらいは煩わしい俗世間を離れたいというわけです。

 その感覚を共有する仲間は当然ながら得難い同志であります。そして、二人が出会う時、二人を邪魔するものは空の雲だけ。そういう仲になってしまうのは必然です。

 考えて見て下さい。『ブロークバックマウンテン』だってそういう話じゃありませんか。もっとも、彼らは股間の竿ばかり振り回して釣り竿はお留守でしたが。


ハマちゃん×スーさん

 高松営業所に勤務し、女木島に家まで買って船通勤で釣りライフを満喫していたハマちゃんに突如本社転勤の話が来たところから話が始まります。

 本社でも相変わらずのんきなハマちゃんと、無能なイエスマンばかりの取締役の扱いと激務に疲れ切ったスーさんが出会ったのは会社近くの食堂でした。

 焼き魚を残したスーさんから、まさか社長だとは思わず「食べてやるのが魚の供養なんだからね」と説いて焼き魚をもらい受けるハマちゃん。

 考えて見て下さい。のっけから間接キスです。黒潮を回遊するクロマグロの如き勢いのファーストコンタクトです。

 そしてデパートの屋上でサボりデートに興じる二人。ハマちゃんは疲れ切ったスーさんを優しく労い、「こっちが向こうを好きになれば向こうだってこっちの事を好きになってくれる」と説き、無意識にスーさんを落としにかかります。

 ハマちゃんの優しさに完璧に落ちたスーさんはハマちゃんに釣りに誘われ、電話番号を渡されて満面の笑みで別れます。ハマちゃんの魔性の男ぶりが3分で表現される名シーンです。

 職場ばかりか家庭でも孤独なスーさんは合体を前にしたハマちゃんに電話をかけ、釣りに行くことを決意します。愛は静かに熱く燃え始めました。

 しかし、スーさんは釣りについて何も知らない素人なので、ハマちゃんに多少手厳しく指導されつつも、首尾よく大物のカレイを釣り上げ、記念撮影なんかしちゃってご機嫌です。

 会社では絶対見せない笑顔を見えるスーさん。もう広大な海で竿を振り回す未知の快感の虜です。

 そしてビギナーズラックでじゃんじゃん釣ってしまうスーさんに露骨に嫉妬するハマちゃん。そうはしつつも離れ難い関係になっていくことに二人は薄々感づいていたはずです。

 そして二人はハマちゃんの家で釣った魚をつまみにみち子さんも入れて一緒に三人で一杯やります。すっかり釣りとハマちゃん夫婦の優しさににのめり込んでしまったスーさん。

 釣り人はスケベでなくてはならないとみち子さんに言われてスーさんは「私は失格だ」とこぼしますが、4回も結婚した三國連太郎が何を言っとるんだという話しです。ホモは嘘つきです。

 楽しすぎて酔っぱらってしまい、勧められるまま泊まってしまうスーさん。そしてその隙に合体してしまうハマちゃんとみち子さん。

 これはもう実質ホモセックスです。日本中の釣り人がこんな奥さんが欲しいと思うみち子さんとて今夜はコンドームでしかありません。ハマちゃんは子供が欲しいのでコンドームは使っていないと思いますが。

 翌朝からスーさんは相変わらずの鬼社長に、ハマちゃんはダメ社員に戻るわけですが、スーさんは釣りの記念写真を、それもハマちゃんの写った写真を手に笑みを浮かべるのです。なんと美しい純愛でありましょうか。

 しかし、二人の美しい愛に暗雲が立ち込めます。スーさんがみち子さんから教わった電話番号からハマちゃんが鈴木建設の社員である事が判明してしまうのです。

 おまけに協調性以外はまるでダメという人事評価を聞いて困ってしまうスーさん。奥さんに一応相談し、向こうが気が付くまで放っておくという選択を取ります。

 そして再び釣りの誘いを聞いて大喜びで応じてしまうスーさん。結局スーさんは会社よりハマちゃんとの愛を取ってしまったのです。奥さんはあきれ顔ですが、愛とはそういう物です。「いけるところまでいってみるさ」だそうです。二人の愛はそうして後戻りのできないところまで行ってしまうのです。

 スーさんは気合を入れまくり、高い竿を仕入れてハマちゃんと落ち合います。「釣りは道具じゃないからね」とジェラシーも露わに語るハマちゃん。しかも事前にスーさんも予習してきたのでハマちゃんは複雑です。独占欲が燃えています。

 スーさんがハマちゃんを「師匠」と呼ぶのもポイントです。そして、今日も大きく釣果でその師匠を上回ってしまうスーさん。これはもうハマちゃんの師匠としての沽券にかかわります。

 シロギス釣りなので海岸で行われます。そして、この手の海岸には大抵合体用のホテルが林立しているものです。そう、この日ついにハマちゃんとスーさんは合体したのです。

 「道具じゃないからね」とスーさんの尻のイソギンチャクに股間の竿をぶち込むハマちゃん。この直後から明らかにハマちゃんとスーさんの仲が接近しているのが二人の合体が成功裏に終わった事を物語っています。

 みち子さんも押しのけてサシで飲んでいちゃつく二人。途中スーさんにハマちゃんが煙草を分けてあげるのなかなかホモ臭いポイントです。

 みち子さんはそんなハマちゃんのホモ達にも優しく、まるで豊玉姫の生まれ変わりかと思う程です。スーさんはそのあふれんばかりの慈愛に応えようと何かお礼をとみち子さんに提案しますが、みち子さんは「赤ちゃん」と答えるのです。

 これがノンケ向けエロ漫画だとNTR展開になるわけですが、スーさんはそんな外道ではないので「ちょっと今の私には無理かも」と下ネタをかます程度で考え込んでしまうのです。相方の幸せを壊さないのが良きホモカップルなのです。

 しかし、ハマちゃんの息子の鯉太郎は事実上ハマちゃんとスーさんとの子供になってしまうのは後のシリーズで証明されてしまいます。みち子さんも鯉太郎も満更ではないので平和そのものです。

 そこへ釣り船屋のハチの親父の善吉から、ハマちゃんに事務の手伝いが欲しいという相談が舞い込みます。スーさんを定年退職してどこかの会社の嘱託か何かに収まっていると思っているハマちゃんとみち子さんはスーさんにこの話を持って行きます。

 二人の優しさに感謝し、感涙にむせぶスーさん。しかし、立場上それは叶わないのです。物語は段々悲しい方向へと進んでいってしまうのです。

 そこへ事件がついに起こります。葬式に行く用事があるというのに喪服を忘れてきてしまったハマちゃんは、みち子さんに頼んで喪服を会社に届けてもらいます。そこでスーさんと鉢合わせしてしまうのです。

 観念して社長室にみち子さんを案内して身分を白状してしまうスーさん。社員たちは社長が不倫をしているとドン引きです。

 みち子さんは曲がった事が嫌いな実に良い女なので、スーさんのカミングアウトに嘘をついたと怒ります。

 しかし、スーさんのハマちゃんへの愛は本物であり、また人間としてはあまり惨めな立場に置かれているのも事実です。その惨めさとハマちゃんとみち子さんへの感謝を悲しく語るスーさん。

 みち子さんはそれでも涙ながらに怒って帰ってしまいます。慌てて追いかけるスーさん。完全に修羅場です。

 ハマちゃんもそれを知り、悲しそうに善吉の元へスーさんは来てくれないと語ります。その表情の悲痛な事。

 その翌日、スーさんとハマちゃんは会社のエレベーターに同乗してしまいます。スーさんは復縁を狙ってハマちゃんに声を賭けますが、ハマちゃんは余所余所しい態度です。

 これで諦めるようでは上場企業の社長にどなれませんので、スーさんはオフィスに電話をかけ、「公私を別にして今一度私とお付き合いして頂くわけにはいかんだろうか」「私は既に魚釣りが忘れられなくなってしまってるんだ」と復縁を強く、それも猛烈にホモ臭く求めます。

 原作や続編でははこの公私を分けるという方向で万事収まって二人はひたすらいちゃつく事になるのですが、本作はまだシリーズ化が決まっていなかったので完全に悲恋に舵を切ります。

 「この付き合いはスーさんの為にならないから」とハマちゃんは未練たらたらに自ら身を引くのです。平静を装いながらも悲しそうなハマちゃん。露骨に悲しがるスーさん。まるでロミオとジュリエット、いや、ロミオとロミオです。

 やがて、人事異動の季節がやって来ます。そこでハマちゃんの本社異動はコンピューターのミスであり、再び高松に戻されることが決まってしまうのです。

 スーさんは一瞬止めようとしますが、ハマちゃんは喜んで戻りたいと完全にスーさんとの縁切りの姿勢です。

 「畜生!」と怒りも露わに書類が破れる勢いで承認の判を押すスーさん。こんな怨念のこもった押印が映画史上他にあったでしょうか?

 判子の存続を巡って世論は大きく揺れていますが、私はこういう演出の為にも映画の中だけでも判子は残してほしいと思うのです。サインじゃこうはいきません。

 涙ながらに駅で見送りを受けるハマちゃん。佐々木課長も「君の机は永久欠番にしておこう」などとホモ臭い餞別を授け、万歳三唱してくれるのです。ハマちゃんのホモジゴロぶりがこのシーンに集約されています。

 しかし、二人は新幹線の車中でスーさんに思いをはせるのです。みち子さんはスーさんへの手厳しい仕打ちを後悔し、ハマちゃんも釣りに行くたびにスーさんの顔が浮かんでどうしようもないのです。

 そして、二人は新幹線からスーさんに電話をかけ、映画は終わります。新幹線の公衆電話を使う人に私は未だお目にかかった事がありません。時代です。

 まるでギリシア悲劇を思わせる幕切れですが、大丈夫。二人は次作以降何事もなかったようにいちゃつきながら竿を振り回す仲になるのです。


前原×スーさん

 社長付き運転手の前原は口の堅い男です。というよりも、偉い人の運転手は口が堅くないといけないのです。

 ハマちゃんとの初夜を終えたスーさんを迎えに来た前原は、みち子さんの見送りを見て驚愕します。

 「お疲れ様でした」「見なかったことにしますので」と意味深に語る前原。勿論スーさんとみち子さんの間には何もないのですが、前原の勘は半分当たっていたのです。

 ここで着目したいのが、演じるのが笹野高史であるという点です。笹野高史は『男はつらいよ』の後期シリーズの常連であります。

 そして、あの4ダースもあるシリーズの私の中での最高の名場面は、42作目の『男はつらいよ ぼくの伯父さん』でバイクで家でした満男がレザーで決めたホモライダーに危うく掘られかけるシーンです。

 何を隠そう、このホモのライダーが笹野高史なのです。私はここで大胆なクロスオーバーに思い至りました。あれは前原その人なのではないかと。

 気難しいスーさんの運転手。さぞストレスがたまる事でしょう。そんなストレスのはけ口が休日のツーリングであり、男漁りだというのは十分にあり得る話です。どこまでも前原は乗るのが好きなのです。

 やがてみち子さんとの修羅場が社内でも披露されます。今更スーさんは言い訳をしないし、またできません。ここで前原は口止め料を身体でスーさんに支払ってもらうのです。

「これじゃ代表取締役じゃなくて代表尻締役ですね」

「イエスマンばかり侍らせてますが、あなたの下の口もイエスマンだ」

「ほら、役員報酬を受け取れ!」

 前原はノリノリで竿を振り回し、蹂躙されるスーさんは思うのです。『男はつらいよ』と。そして、遠く瀬戸内に消えてしまったハマちゃんの面影を求め、上野や浅草のハッテン場(ああいうタイプは二丁目より下町)に出入りするようになってしまうのです。

BL的に解説(ナマモノ注意)

BLスタア三國連太郎
 三國連太郎は類稀なBL力を持った役者です。『飢餓海峡』『復讐するは我にあり』『八甲田山』その他、フィルモグラフィーはむせ返るようなホモ臭さです。

 また『七人の侍』の久蔵役をオファーされながら、「ホモでやりたい」と言って降ろされたという伝説もあります。

 けどやっぱりホモ祭りのような映画だったわけで、あの映画の本質をズバリ見抜いた三國連太郎の眼力を物語るこのエピソードが私は大好きですです。

 しかし、黒澤明がゲイだという疑惑は広く知られた話なのですが、何故降ろされたのかは謎です。

 あるいは痴情のもつれでもあったのやもしれません。三國連太郎も4回も結婚した男なれば、女に飽きて男に走るのも十分にあり得る話です。


山田洋次ホミンテルン説

 そして、山田洋次がホミンテルンであるという説も広く知られている話(ミンテルンに関しては公言)です。ノンケに『小さいおうち』なんて撮れるわけがないのです。

 寅さんはこのnote的にはあまり美味しくない映画ですが、この映画の事実上の監督であったとすればホミンテルン説は俄然信ぴょう性を増してきます。

 合体ばかりが定番としてクローズアップされがちですが、実は次作以降ハマちゃんのウンコネタと裸踊りが新たな定番となります。そして、そんなシーンは原作に無いのです。

 西田敏行の裸踊りなど見て喜ぶのは限られた層のゲイだけです。大体こんなホモ臭い漫画を映画にしたこと自体怪しいではないですか。

 そして、ホミンテルンならスーさんのヤンホモに何も感じないわけがなく、久蔵をホモでやろうとした三國連太郎ならそんなスーさんをやれると思うのもまた当然なのです。

 そして、三國連太郎は見事その期待に応えてみせました。本物は本物を知るというわけです。例にもよってあちこちに飛び火させつつ、竿を上げさせていただきます。

お勧めの映画

 独自の統計(主観)に基づきマッチング度を調査し、本noteから関連作品並びに本作の気に入った方にお勧めの映画を5点満点にて紹介します

『兵隊やくざ』(★★)(大映の考えるおっさんずラブ)
『エレキの若大将』(★★★)(東宝の考えるおっさん?ずラブ)
『拝啓天皇陛下様』(★★★★)(昔の松竹の考えるおっさんずラブ)


ご支援のお願い

 本noteは私の熱意と皆様のご厚意で成り立っております。

 良い映画だと思った。解説が良かった。憐れみを感じた。その他の理由はともかく、モチベーションアップと資料代他諸経費回収の為にご支援ください。

 ハマちゃんより収入面で劣るのが私の現状であります

皆様のご支援が資料代になり、馬券代になり、励みになります。どうぞご支援賜りますようお願いいたします