見出し画像

第87回 俺たち喧嘩スケーター(2011 加・米)

 さて、冬季五輪特別企画は今回がクロージングとなるわけですが、閉会式から1日遅らせたのは理由があります。今回レビューする作品はオリンピックと逸脱しているからです。

 冬季オリンピックで一番男らしい競技と言えば何と言ってもアイスホッケーです。

 しかし、北米には異次元に男らしいローカルルールが存在します。それは乱闘です。今回はアイスホッケーの乱闘をテーマにした『俺たち喧嘩スケーター』でお送りします。

 『俺たちフィギュアスケーター』に便乗したアホな邦題で想像の通り全く期待されない映画でしたが、ソフトやネット配信で高く評価されて続編まで作られるに至った隠れた良作です。

 実話が基になっていて、ちょっとお馬鹿な熊系用心棒が乱闘要員として人に認められ、愛と友情に目覚めていくという、キワモノのテーマに王道のストーリーという私の大好物なフォーマットです。

 さながら氷上の『ロッキー』の趣があります。というより、明らかに意識して作っているように思えます。

 そして、アイスホッケーの乱闘というのは凄まじいホモ臭さを内包しているバイオレンスゲイポルノであり、この映画をご覧になった腐の方はどうにかしてNHL中継を観ようと手を尽くすこと必定です。

俺たち喧嘩スケーターを観よう! 

AmzonとU-NEXTで配信があります。

真面目に解説

喧嘩はホッケーの華

 北米には四大スポーツという概念があり、ホッケーは野球、アメフト、バスケと共にこの一角を占め、カナダでは国技と法に定められています。

 四大スポーツで一番暴力的なのはホッケーです。北米限定ですが、なんと乱闘がルールに組み込まれているのです。

 目に余るラフプレーを食らった時の報復、あるいは流れを変える為の景気付けに文字通り殴り合います。野球の乱闘なんておしくらまんじゅうです。

 ホッケーは反則をすると何分かの退場を宣告され、その間チームは1人少ない状態でプレーします。そして、乱闘は5分退場と明確に決まっているのです。つまり、乱闘が前提にあるわけです。

 ちゃんと作法もあり、凶器の使用や不意討ちはNG。必ずタイマンで加勢は御法度(同時発生はある)。正当性も重視され、ゴールを決められた腹いせなんてのは許されません。

 ユニフォームを掴み合い、素手で血まみれになりながら殴り合う光景は壮絶で、審判も空気を読んで概ねどっちかがダウンするか馬乗りになるまで止めません。

 乱闘のないヨーロッパから来た選手が乱闘をしてトラウマになったなどという話は一杯あります。これぞ新大陸です。

エンフォーサーという核兵器

 何故こんな無茶苦茶をやっているのかというと、ホッケーは19世紀のアメリカ以上に無法地帯だったカナダで現在の形になった物なので、選手が荒くればかりだったというのが第一にあります。

 また、競技運営者の言い分を借りれば乱闘のプレッシャーがラフプレーへの抑止力となるという説明もあります。本音を言えば乱闘が一番盛り上がるという単純な興行上の理由が大きいのですが。

 例えばゴール、アシスト、乱闘を1試合で達成するのをゴーディー・ハウ・ハットトリックと称しますが、これはミスター・ホッケーと呼ばれた伝説の名選手、ゴーディー・ハウが乱闘でも強かった事に由来します。

 迂闊にちょっかいをかけられない強さが活躍に結び付いたわけであり、それがカナダ的な強い男の姿なのです。

 しかし、ホッケーと殴り合いの才能は別なので、必ずしも強くないスターを守る為にチームはエンフォーサー(用心棒)と呼ばれる乱闘の専門家を雇っています。

 スターがラフプレーに晒されるとエンフォーサーが出動し、逆にラフプレーをやり返してそいつに乱闘を吹っ掛けるか、あるいはエンフォーサー同士がやり合います。隙あらば相手方のスターを痛めつけるのも仕事です。

 強いエンフォーサーを抱えているチームにはラフプレーを仕掛けられにくくなるわけで、核兵器のように存在自体が抑止力になるのです。

 エンフォーサーにホッケー選手本来の能力は必要なく(あると当然重宝される)、ペナルティをどれだけ食らったかが評価になります。なので究極にはホッケーが下手でもいいのです。

優しいグリズリー

 本作の主人公で原作者のダグ・スミスがモデルになっているダグ・グラット(ショーン・ウィリアム・スコット)はその筋のゲイにはたまらない熊系のいい男です。

 医者夫婦の養子で、これまた養子のでゲイの兄アイラ(デヴィッド・パートコー)も医者ですが、ダグはちょっとお馬鹿なので大学に行けず、ガタイと腕っぷしを活かして酒場の用心棒として働いています。

 コンプレックスをため込んでいて、親友でホッケー番組のホストでもあるパット(ジェイ・バルチェル)と一緒に気晴らしにホッケーを観に行きますが、パットはもっとお馬鹿で口が悪いので選手と言い争いになり、選手はパットを「faggot(オカマ)」と罵ります。

 ダグはお馬鹿ですがとても優しい男で兄がゲイなので、兄を侮辱されたと思ってこの選手をぶちのめしてしまい、対戦していたチームからエンフォーサーとしてのオファーが来ます。

 この純粋さがダグの魅力であり、さすがマータフの後妻だと私は感動を禁じ得ないのです。

必要とされる喜び

 ダグはリンクで立つことさえままならないど素人ですが、コーチの元でスケートを猛特訓し、パットに乱闘のテクニックを仕込まれます。

 ホッケーの乱闘はスケートを履いてユニフォームを掴んで空いた手で殴り合う極めて特殊な格闘技と言えます。色々と細かいテクニックがあるのです。

 ダグは期待に応えて「暴君」というニックネームを頂戴し、ローカルCMに出るほどのスターに上り詰めます。

 エンフォーサーは「タイガー」だの「血まみれオライリー」だの「アルバニアの殺し屋」だのと梶原一騎テイストなニックネームが付くものなのです。馬鹿らしいと思うかも知れないですがこれらは全部実在します。

 ちなみに作中登場する黒人のエンフォーサーのジョルジュ・ララークは「ビッグ・ジョルジュ」の異名を取る本物のエンフォーサーで、引退後は政治家としてカナダ緑の党副党首まで務めた傑物です。

 必要とされる喜びに打ち震えるダグの笑顔はとってもキュートで、観ているこっちまで幸せになってきます。

用心棒とお姫様

 ダグは大活躍を見込まれ、コーチの弟のロニー(キム・コーツ)が率いる上位リーグのチームに送り込まれてカナダのハリファックスに赴きます。

 このロニーが口は悪いですが親分肌の実に良いボスで、こういう男の為になら身体を張ってもいいと思わせます。

 チームにはラフラム(マルク=アンドレ・グロンダン)というスター候補が居ますが、ラフプレーで心身をぶっ壊されて不貞腐れています。つまり、ダグはラフラムの用心棒に雇われたわけです。

 ラフラムはやけになっているのでチームに全く打ち解けず、特にダグには辛くく当たりますが、まあ想像通り最後はデレていちゃいちゃするようになるのです。

 つまり、事実上のメインヒロインです。ラフラムは上手い具合にフレンチカナディアンですし、本作はまさに女人禁制の騎士物語なのです。

ホッケーのマイナーリーグという世界

 ホッケーのマイナーチームの風景が描かれるのは非常に興味深い点です。『フィールドオブドリームス』で紹介した野球のそれとはかなり趣が異なります。

 野球のマイナーチームはメジャーのチームに事実上従属していますが、ホッケーはもう少し流動的であり、選手の入れ替わりも少なく、選手寮に寝起きします。野球よりかなり家族的です。

 ダグを呼び寄せたハリファックス・ハイランダーズの面々も異様にキャラ立ちしていて、実に下品で愉快な連中です。

 ホッケーを諦めれず嫁に逃げられたベテランのオグルヴィ(リチャード・クラーキン)、医学生で実質チームドクターのキム(ラリー・ウー)、下品すぎてチェルノブイリ野郎呼ばわりされるウクライナのヤコヴレナ兄弟、ヘルメットに母親の顔をペイントするマザコンのキーパーベルチ(ジョナサン・チェリー)はホラー映画好きには馴染みです。

 極めて国際色豊かなのにお気付きでしょう。ホッケーはヨーロッパ人、それも東側の選手が多い国際スポーツなのです。

 こいつらがいちゃいちゃする光景は実に気持ち良く、おっさんばっかりなのに青春を感じさせます。男はいつまでも少年の心を捨てきれないのです。

キャプテンの責任

 また、ホッケー特有のキャプテン制度がストーリーに大きく関わってきます。他のスポーツではキャプテンは単なる名誉職ですが、ホッケーのキャプテンは審判に抗議する権限が認められる点で責任が重いのです。

 ただし、ホッケーは概ね1分単位で交代しながらプレーするので、キャプテンがベンチにいる間に代行を務める代行キャプテンも任命されます。

 キャプテンはジャージに「C」マーク、代理キャプテンは「A」マーク(オルタネートの略)を着けます。年長者のオグルヴィがキャプテンで、得点源のラフラムが代理です。

 つまり、この役職はチームの中心である事の証明であり、ホッケープレイヤーにとっては大変な名誉なのです。これが作中で大きな意味を持ちます。

発情期のグリズリー

 純情すぎて童貞かと思うほどのダグですが、酒場で名目上のメインヒロインであるビッチのエヴァ(アリソン・ピル)に一目ぼれしてのめり込んでいきます。

 エヴァは優しいダグに心惹かれつつも、汚れた女である事に負い目がある上彼氏持ちであり、童貞丸出しで愛の重いダグがあまりに重すぎて素直になれません。

 しかし結局続編では二人は夫婦になり、ダグはいよいよエヴァの為に戦うという側面が強くなっていきます。

 多少不純物が混じりましたが、まるでロッキーとエイドリアンです。つまりお似合いです。アホの子の筋肉だるまと決して美人と言えない行き遅れの夫婦という点も含めて。

乱闘王の憂鬱

 パットがダグに手本と勧めたのが乱闘王として君臨するロス・レイ(リーヴ・シュレイバー)です。ロブ・レイという実在のエンフォーサーがモデルになっています。

 御法度である不意打ちと凶器攻撃をやらかしてマイナー送りになり、ダグと対峙することになるのです。

 そして、ロスはラフラムを潰した張本人でもあります。エンフォーサーは敵の有望株を痛めつけるのも仕事なのです。

 つまり、ダグにとってレイは師匠でありライバルでありヴィランでもあるわけです。物凄く美味しい役どころです。

 対戦に先んじて挨拶に訪れたダグに「戦士は戦っているうちが花」というエンフォーサーの哲学を授けるのは非常に含蓄があります。

 エンフォーサーはある意味誰よりも注目を集めるスターですが、突き詰めればホッケープレイヤーとは言えない存在であり、負けが込めば去らねばならないのです。エンフォーサーの輝きはローマの剣闘士に似て、非生産的で儚い物なのです。

BL的に解説

エンフォーサーはバイオレンスゲイポルノスター

 ホッケーの乱闘がどういう仕組みになっているか説明しましたが、乱闘は非常に神聖で尊いバイオレンスポルノであることに気付くはずです。

 チームを守る為に拳に訴える自己犠牲の精神の尊さは血をたぎらせます。しかも常に正々堂々と闘う事が求められます。それは喧嘩というより決闘です。

 そして全てが終われば二人は隣り合ったペナルティボックスに一緒に入り、口げんかしながら5分間過ごすのです。そしてまた巡り合えば二人は拳を交えます。

 また、エンフォーサーは常に敵同士ですが互いに敬意を払い、敵意以前に仲間意識を抱いています。乱闘で負傷しているエンフォーサーを痛めつけるのはエンフォーサーの仁義に反する行為であり、乱闘を仕掛けることは戒められます。

 なんとも美しい精神的ホモの境地です。これはもう北米のスラッシュがナマモノを書くのに十分です。

 ともすれば、観客が乱闘に興奮するのは彼らが殴り合って血を流すからばかりではなく、そうした崇高な精神に興奮しているのです。カナダはポルノに厳しいですが、バイオレンスポルノが国技なのです。

背番号はBL

 背番号は選手の象徴であります。なればこそ、特別な功績を残した選手の背番号は永久欠番となり、少年は憧れのスターと同じ番号を着けたがるのです。

 ダグの背番号はパットが勝手に「69」に決めてしまいました。何故とは言いませんがこの番号は忌避され、四大スポーツにおいては着けただけで歴史に名が残るレベルです。そもそも選手が希望しても却下されることがほとんどです。

 モデルのダグ・スミスも勿論こんな恥ずかしい番号は着けていません。つまり、これはこの映画が精神的ホモ映画であることを示す作り手のサインだと私は思うのです。

 実質メインヒロインであるラフラムの背番号がダグより一つ大きい「70」なのもこの観点だと意味を持ってきます。70などというのはどうでもいい番号で、何かの語呂合わせやゲン担ぎでもない限り選ぶ理由がありません。

 ここで背番号「99」がNHL全チームの永久欠番になっているホッケーの神様、ウェイン・グレツキーが大ファンである御存じイチローの話をしましょう。

 イチローの背番号「51」あまり期待されていなかったことから適当に用意された番号をそのまま使い続けたものです。

 そして、あまりのイチロー愛でホモリンと称された川崎宗則はイチローの後ろに居たいという理由で背番号「52」に固執していました。

 また、見るからにそれっぽくて子供の居ないイチローのホモ疑惑は大昔からあります。イチ×宗です。

 つまり、ダグとラフラムも同じです。ダグが騎士でラフラムがお姫様。ラフラムがマウスピースを外して縦に咥えているのもそういう事です。69にはその方が都合がよいのです。

 野球選手のナマモノを書いている御姉様方は肖像権の問題から背番号でカップリングを表記します。とにかく、スポーツ物において背番号は大事なアイテムだという事を覚えておいてください。

ハイランダーズゲイランダーズ説

 カナダがゲイに寛容とは言っても、ハイランダーズのホモソーシャルは明らかに度を越しています。

 ロッカールームではホモネタが飛び交い、それでいて試合後は仲良く飲みに行き、オグルヴィは試合前に離婚トークの挙句に「ギリシャのアングラゲイポルノのよう激しく」と前衛的な訓示を垂れて皆それに乗ってエキサイトします。

 確かにギリシャのゲイポルノは凄い(しかもキオスクで売ってる)ですが、ホッケーの普及度で言えば日本以下であるギリシャのゲイポルノ事情をなぜ知っているのかという話です。女に失望してゲイに走ったのかもしれません。カナダはその点優しい国です。

 そしてチームの面々が初めての夜には儀式と称してダグのチンコにサインさせろと執拗に迫ります。しかし、この儀式は捏造で、役者として格の高いベルチが「兄弟同然なのにあり得ない」と一喝します。

 兄弟同然とは言ってくれます。しかもホモで兄弟同士ならなおヤバいというおまけ付きです。マザコンにゲイが多いのは知られた話なので、彼もまたそうなのでしょう。

 そうして戦い続けるうちにダグはチームにも町の人にも認められ、下ネタにも適応してホモソーシャルに飲み込まれていきます。

 ラフラムへのクソデカ感情が爆発してやり過ぎた為に出場停止になったダグの代わりにオグルヴィが慣れない乱闘を挑み、なす術もなくぶちのめされるのを見るダグの目はNTR物の趣さえあります。尊いですね。

 ホモソーシャルはラフラムとの和解で頂点に達し、顔面でパックを受けてゴールを守り、スティックで殴られスケート靴で踏まれる暴挙に際してついにチームは全員飛び出ての大乱闘(ベンチクリアと呼ばれる)に至ります。

 最初に飛び出したのが本来乱闘はやらないキーパーのベルチだったのに御注目下さい。チームを兄弟と言い切る彼こそがアイランダーズを一番愛していた証拠です。

 後で何人か出場停止にされるのは必定ですが、ロニーは止めません。ざまあみやがれと悪態をつき、あげく選手とやってるくせにとぶちかまします。あんた人の事言えるのかという話ですが、そんなのはどうでもいい事です。

 試合後の宴会ではラフラムも加わり、チームは完全に一つになります。ダグはエヴァとやっちゃいましたが、あの後バーはブルーオイスターに変身したのは明らかです。

 嬉しい事に本作は続編が作られ、このホモソーシャルはさらに掘り下げられるのです。なので次回は続編をレビューします。

ダグ×ラフラム

 まず第一に、ラフラムがフレンチカナディアンであることに注目です。当然の帰結として当地の法律は偉大なるナポレオン法典がベースになっています。

 ナポレオン法典は西欧で初めて同性愛を合法化した極めて画期的な法律であり、ホモは去勢などという野蛮で下劣なイギリス法をベースにしているカナダの東側とは根本的に違います。

 ですがラフラムは選手寮にコールガールを連れ込む程の女狂いで、ダグを当初は全く信用していませんでした。そしてチームの輪から完全に外れていて、いつも裸です。

 ダグは良い奴なので自分をバカにするラフラムとチームを守ろうと頑張り、信頼を得る一方でラフラムは全くの落ち目で屈折していきます。

 ダグのケツゴールで一旦はラフラムはダグを認めかけますが、試合後にコーチは落ち目のラフラムを代理キャプテンから外してウィニングパックと共にダグを任命します。

 嫉妬に狂ってラフラムは寮で暴れ、ダグをなじって殴ります。ダグは仲間だから殴らないし、自分が居なければどうなるかと問いますが、ラフラムは反抗期なのでケツ別してしまいます。

 しかし、チームは都合よくラフラムの故郷のモントリオールに遠征します。ラフラムは裏切り者呼ばわりされて大変な嫌われようです。従って痛めつけられて気絶します。

 ダグは優しい奴なのでラフラムの辛さが分かります。感情が爆発して相手にマウントパンチを食らわせて気絶させ、出場停止になってしまいます。まさにバイオレンスポルノスターの面目躍如です。

 そして、それをきっかけに二人は寮の壁越しに対話(ダグが一方的に話しかけただけ)して流れが変わります。

 ラフラムの報復で乱闘になりますが、ダグは相手ではなくラフラムを一直線に見つめながら敵を殴りつけます。そしてペナルティボックスに入りながら笑みを交わし、ダグが忘れて行ったスティックをボックスへ届けて礼を言うラフラム。これはもう実質セックスです。

 愛の力でダグはホッケーまで上手くなり、ラフラムのゴールをアシストして抱き合って喜ぶ有様です。

 これを見て彼氏をほったらかして大喜びするエヴァは腐女子の素質アリです。実質エイドリアンはこれくらいでなければいけません。

 全身を傷めつけられながらゴールを死守したダグをラフラムは真っ先に抱き起すのは完全に堕ちた証拠です。

 翌朝には寮でダグとエヴァが正式に恋人になりますが、それをコールガールと見守るラフラムの目は慈愛に満ちています。女はノータッチが良きホモカップルなのです。

 最終戦に際して二人はロッカールームで熱い抱擁を交わして出ていきます。これは二人がチーム全員を付添人に結婚したのも同然です。そして、ラフラムは今まで平気で踏んできたチームエンブレムをダグに倣って踏まずに通っていきます。ここが最尊シーンかも知れません。

 ラフラムは愛の力で自らレイに突っかかっていきます。古代ギリシアで無敵の名をほしいままにした150組のホモカップル、テーバイの神聖隊のようです。

 足を痛めてダウンしたダグに駆け寄るのもやっぱりラフラムで、ダグは肩を借りながらロッカールームへと消えていきます。ラフラムは己の為に命を張ったダグに報いるべく、エヴァにダグを任せてハットトリックを決めて勝利を飾ります。

 何と美しき愛の物語でしょうか。ラフラムこそがダグの正妻です。

ロス×ダグ

 まずロスのモデルになったロブ・レイの説明からしなければいけません。ロブは90年代を代表するエンフォーサーでしたが、そのファイトスタイルは極めて特徴的な物でした。

 ホッケーのジャージはストラップで防具に固定されていますが、ロブはこれをわざと外しておいたのです。相手がジャージを掴むと脱げてしまうので、文字通り掴み所がなくなって相手は困ってしまいます。

 この必殺技は再現映像ですがロスも作中で披露し、ホッケーファンをにやりとさせてくれます。

 ホッケーのついでにボクシングが見れるだけでもお客さんは喜ぶというのに、ロブはストリップまで披露するのです。御婦人とゲイが大喜びしたのは言うまでもありません。

 このドラゴン紫龍戦法は問題視され、ストラップは必ず着けるようにとルールに明記されました。これを俗に「ロブ・レイ・ルール」と称します。ギリシャのゲイポルノのようです。

 本題に戻りましょう。ロスは凄腕のエンフォーサーですがもう40歳であり、引退することを決心しています。

 そこへ立ちはだかったのがかつて自分が潰したラフラムを守り、ロスの後継者と新聞が書き立てるダグだったわけで、これは物凄く熱い展開です。

 挨拶に来たダグにエンフォーサーの儚さを語るロス。若さと情熱に燃えてその儚さに背を向けるダグ。二人は似ているようであまりに対照的で、ホモ臭い空気がむんむんとしています。そしてロスはダグをぶっ潰すと宣言して去っていきます。

 対決を前にしてロスは壁を殴りながら奴は本物だとこぼします。もはや二人は余人に立ち入れない精神的ホモの境地に居ます。

 ロスは乱闘を吹っ掛け、ダグはこれに応じてグローブを脱ぎ捨てますが、ロスは応じずダグだけペナルティを取られてしまいます。これは滅多に決まらない高度なテクニックで、事実上の射精管理です。ギリシャのゲイポルノ並みにアブノーマルです。

 しかし、最後は二人は決闘に至ります。高山対ドン・フライ並みの殴り愛の末ダグは一度はダウンしますが、ロスが審判を制して第2ラウンドに突入し、ダグはゴール死守で踏まれた足を痛めて更にダウンしますが、カウンターの左フックで逆転KOを飾ります。

 リンクに大の字になりながらもどこかロスは満足げです。ラストファイトを劇的に飾れたのはエンフォーサーの本懐でありましょうから当然です。しかし、続編があるのです。

ダグ×パット

 二人はかけがえのない親友であり、パットは結果としてダグをホッケーという自己表現の手段へ導いた恩人でもあり、最大の理解者でもあります。

 パットはホッケー番組のホストという顔を持っていますが、ダグは自分は空っぽだというコンプレックスを吐露します。これだけで二人の友情の強さが分かろうという物です。

 パットは歩く下ネタのような男で、そんなダグに俺のケツでイってもいいと励まします。私はこれは冗談ではなく本気だったと私は思うのです。

 場外乱闘で選手を殴り倒したダグを早速番組に出演させ、最強の男出現だの、興奮でイキそうだのとダグへの愛を隠そうとしません。

 ダグの背番号を勝手に「69」に決めてしまうのも意味深です。そして意味を知らないでもないだろうに言われるまま着けるダグ。

 これはパットによる羞恥プレイであり、サインです。俺とそういう事しようぜというわけです。なんならこの時点でちょいちょいそういう事してても驚くことではありません。

 ハリファックスへ向かうダグを駅で見送るパットはどこか湿っぽく見えます。電車を追いかけながらエアフェラチオを披露するのも相当です。

 これはダグが自分の手の届かないところへ行ってしまうのでセンチになっているのでしょう。独占欲の強い男です。たまりません。

 それを証拠に、ダグがアイランダーズでも戦力として認められるようになると応援に来ます。マサチューセッツとハリファックスは相当離れています。友情だけでは説明できません。

 これはジェラシーです。ダグがチームメイトに愛されるのを見越して牽制に来たのです。ダグも大いに喜び、試合開始早々乱闘をおっ始めます。

 露骨な愛情表現です。しかも相手方が水を向けてきます。精神的ホモの境地に生きるエンフォーサーならそのくらいの機微は読み取れるのです。

 どっちもダウンしないうちに審判が止め、互いに敬意を表して引き下がる辺り審判もよく分かっています。彼らは崇高なる決闘の介添え人なれば、やはりその真意はお見通しなのです。

 ダグはおまけにケツにパックをぶつけてゴールという見せ場まで作ります。これは実話だったそうです。

 パットが連れてきたダグの両親は嫌な顔をしますが、アイラはパットと抱き合って喜んでいるのも見逃せません。

 ゲイのユダヤ人にはエンフォーサーの気高さが分かるのです。ましてそれが鬱屈としていた弟なら嬉しいのは当然です。

 両親はダグを辞めさせようとしますが、ダグはお前の息子はバカとゲイとアイランダーズ流に拒否し、男として一皮むけたところを見せます。

 パットはこの傷心を見逃さず、二人で夜景を眺めながら息子を誇れない親はクソだと強調し、ダグをユダヤ人のドルフ・ラングレンだと淀川先生流に誉め契り、神の拳を持ってるとまで言います。この後絶対ヤってます。

 プレーオフをかけたシーズン最終戦にもパットはやって来ます。エヴァにセクハラトークをかましてアイラに止められる有様です。

 パット役のジェイ・バルチェルとエヴァ役のアリソン・ピルは付き合っていました。そう考えればダグとエヴァができるのは間接ホモセックスです。

 アイラだけ連れてきているのも意味深です。パットはダグのいない寂しさをアイラで紛らわしているのではないでしょうか。エヴァはコンドームを超越している女ですが、アイラがコンドームなのです。

お勧めの映画

 独自の統計(主観)に基づきマッチング度を調査し、本noteから関連作品並びに本作の気に入った方にお勧めの映画を5点満点にて紹介し

冬季五輪特別企画
『クールランニング』(1993 米)
『俺たちフィギュアスケーター』(2007 米)

『ロッキー』(1976 米)(★★★★★)(明らかなオマージュ)

ご支援のお願い

 本noteは私の熱意と皆様のご厚意で成り立っております。

 良い映画だと思った。解説が良かった。憐れみを感じた。その他の理由はともかく、モチベーションアップと資料代他諸経費回収の為にご支援ください。

 ギリシャのゲイポルノみたいに!

皆様のご支援が資料代になり、馬券代になり、励みになります。どうぞご支援賜りますようお願いいたします