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第59回 座頭市物語(1962 大映)

 さて、前回の『女囚701号/さそり』新東宝をいずれクローズアップしたいと言いましたが、意外に早くその機会が巡ってきました。

 声優の上坂すみれが天知茂をフィーチャーした特番を日本映画専門チャンネルでやると聞き、これには乗っかるしかないと決意した次第です。

 新東宝が産んだスター天知茂。実にゲイっぽい(誉め言葉)BL力抜群の名優ですが、一つ問題があります。というのも、新東宝時代の映画は言う程ホモじゃないのです。怪談映画だとそうでもないのですが、これは夏場にやるのが筋でしょう。

 というわけで天知茂を知らない人にいきなりアクの強い新東宝の映画を勧めるのは無理があると都合よく解釈し、新東宝倒産後に出演した最も有名な映画である『座頭市物語』でお送りします。

 言わずと知れた勝新太郎の伝説の映画シリーズ第1作であり、天知茂は座頭市のライバルである剣豪平手造酒を事実上のダブル主演で務めます。

 スターになり切れない勝新、ホームを失って流れ者の天知茂、どっちもくすぶり気味であまり期待されずに撮られた映画でしたが、巨匠三隈研次の尽力もあってご存知の通り日本を代表する名画となり、結果として二人の出世作となりました。

 飯岡助五郎、笹川繁蔵という敵対する侠客のもとにそれぞれ草鞋を脱いだ二人が立場を超えて友情を深め、最後は決闘になる。どっちも殺陣が得意なので見事です。

 そして、この展開は言うまでもなくBLであり、この類稀なBL力を持った二人が織り成すバイオレンスポルノにはゲイも腐女子も欲情必至です。嫁入り前のアイドル声優には立場上口に出せない事も容赦なく解説していきます。

座頭市物語

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真面目に解説

天知茂という役者
 一定以上の世代の人なら必ず知ってる一方、若い世代には知られていない、天知茂はそういう役者です。というのも早くに亡くなってしまったからです(1984年54歳没)

 どちらかと言うと『非情のライセンス』とか『美女シリーズ』といった、疑惑のヘアースタイルのダンディ過ぎるおじ様になってからの姿が有名ですが、若い頃は信じられないほどの二枚目でした。

 本作はそんな二枚目時代の作品なので、そりゃあもう女性がキャーキャー言うのは仕方ないというレベルのいい男です。そして、天知茂と言えば何と言っても眉間のしわでしょう。

 人格者のスターは誰かという類の話で真っ先に名前が挙がるような人なのですが、その反面悪役に強みを見せるのはこの只者ではないと思わせる面構えあってこそです。二枚目なのにダークヒーロー。色悪とはこういうことなのです。


座頭市という侠客
 盲目なのに仕込み杖で敵をバッタバッタと斬りまくる座頭市。たけしバージョンの方が有名になってしまった感はありますが、それでもまだ知名度ほぼ100%のキャラクターです。

 実は全く架空の人物と言うわけでもなく、一応子母澤寛の原作があります。(Amazon参照)千葉に座頭の市という盲目の侠客が居たという言い伝えが残っているのです。それを盛大に脚色して本作で誰もが知る座頭市のフォーマットが完成したわけです。

 何しろ26作も作られ、ドラマ版まであるので作風は徐々に変わっていきますが、凄腕ですが優しくて善良な、そして惚れっぽい座頭市が大映自慢の綺麗どころの女優に惚れられ、ライバルとホモホモして旅から旅へと流れ歩くという流れは共通しています。

 勝新の天才的な殺陣は本作の時点で既に完成されていて、これがシリーズを追うごとに過激化し、最後は座頭市をどうやって殺すかという知恵比べが映画のテーマになっていくのです。

 従って本作はシリーズの中では少し地味な印象を残しますが、やはり本作が一番好きだという人も多く、完成度の高い仕上がりです。


遺伝子レベルで
 盲目の剣豪ですから難しい役です。なぜこんな難題に勝新は挑んだのか?これには意外なバックボーンがあるのです。

 勝新は後のワイルド極まる姿からは想像しにくいですが二枚目として売り出されました。当然この路線は行き詰まり、勝新は伸び悩むことになるのです。

 すんなりと我々の知る勝新にモデルチェンジできなかった一因は目でした。ご存知の通り綺麗な目をしているので悪役にも使いづらいわけです。

 それを逆手に取ったのが本作の少し前に撮られた『不知火検校』という映画です。盲人社会のどろどろとした内実を描く映画でしたが、盲人は目を閉じています。いささか単純ですが、これが勝新本来のキャラクターとかみ合って上手く行ったのです。

 そしてあまり知られていない事実ですが、勝新の曽祖父は本物の検校(江戸時代の盲人の最高位)で三味線の名人でした。遺伝子レベルで座頭市をやる事は決まっていたのでしょう。

 勝新のサービス精神も相まってシリーズを通して盲目ジョークが頻出するのも今考えれば凄い話です。ポリコレにうるさい現代ではやはり制作困難でしょう。


天保水滸伝
 後のシリーズではほぼなかった事になっていますが、一応座頭市は講談や浪曲の定番ネタとして語り継がれている『天保水滸伝』がベースになっています。

 早い話が房総の侠客である笹川繁蔵(島田竜三)と飯岡助五郎(柳永二郎)の抗争劇で、清水次郎長国定忠治などとともにヤクザ映画の源流になった物語であり、現に何度となく映画になっています。

 どっちも元力士である笹川と飯岡のホモ臭いライバル関係、それぞれの一家の精神的ホモそのものの、腐女子なら是非チェックしてほしい逸品ですが、本作ではその辺の話はオミットされてどっちも尊敬できない嫌な奴として描かれています。

 子分たちも行儀が悪く、座頭市を博打でハメようとしたり、差別的な陰口をたたいたりと侠客としての心構えは最悪です。しかし、そういう連中の中に放り込まれたからこそ座頭市と平手の人間性が際立ち、結果としてホモ臭い事になっていくのです。


平手造酒というキャラクター

 天保水滸伝の事実上の主人公であり、笹川方の用心棒である平手造酒だけが結局天保水滸伝要素として残されています。 飯岡方に居たという座頭市は講談や浪曲には通常は登場しません。

 物語の上では平手は千葉周作の門弟でしたが酒で身を持ち崩し、破門されて用心棒に身を持ち崩し、病身を押して喧嘩に行って命を落とすという筋立てになっていて、本作もこれを踏襲しています。

 これはまさに天知茂のはまり役です。アル中と肺病で余命いくばくもない一方で武士道だけは守ろうとする悲劇性、晩年はあまり見る機会がなかった得意の殺陣、そして座頭市との精神的ホモ、いずれも決まっています。

 勝新だけではなく天知茂にとってもこの映画は後の方向性を決定付けるターニングポイントであったのです。


今回のコンドーム
 座頭市は意外に惚れっぽく、またナチュラルジゴロでもあるので毎回大映自慢の綺麗どころといちゃつきます。大宮や朝吉と違ってクリーンなのが座頭市の特色とも言えます。

 座頭市の世話役を命じられた蓼吉(南道郎)の妹のおたね(万里昌代)が本作のヒロインです。

 この蓼吉もお種の友達のお咲なる女を孕ませて知らんぷりをした挙句池に放り込んで謀殺するような外道であり、また座頭市は目が見えないのに勘は恐ろしく鋭いのでそれを見抜いて全く信用しません。

 おたねは蓼吉のヤンデレな兄貴分に復縁を迫られて殺されかけますが、市に助けられて惚れ合ってしまいます。

 月の下でお互いの顔を触り合いながらいちゃつくのは実に三隈研次らしい、大映らしい上品で美しいラブシーンです。

 おたねは市の杖になると純愛宣言をして駆け落ちを持ち掛けますが、座頭市の女の扱いは寅さん並みで、女は死ぬか置いて行かれるかしかありません。市は結局ライバルとのバイオレンスポルノでしか生きられない男なのです。


大利根河原の決闘

 オリジナルとは別人のように汚い飯岡と笹川は天保水滸伝最大の山場である大利根河原での決闘に至ります。街のセットを一杯に使って実に贅沢ですが、反面凄くおどろどろしい演出になっています。

 天知茂の殺陣は実に決まっています。あんないい男で剣豪なんて反則です。市とのラストバトルも尺は短いながらも勝新に当たり負けしていません。

 天知茂が晩年まで時代劇に出まくっていたのは、何も髪の事をおもんばかってではないのです。また、ニコチン並みの中毒性のある名優、天知茂の魅力はこの記事だけで語りつくせるものでもありません。


BL的に解説

天保水滸伝を聞け!
 本作はあくまで座頭市であり、天保水滸伝とは言えません。本作をもって天保水滸伝を分かった気になるのは北野作品だけでヤクザ映画を分かった気になるより危険であり、勿体ない事です。

 何本もある映画でもいいですが、Amazonプライムとかを探せば講談や浪曲が沢山出てきます。腐女子ならばこれを聞かずにおくのは損です。

 オリジナルはもう完全な時代劇ヤクザBLです。笹川と飯岡の抗争はもはやセックスであり、平手はただひたすらに恩義に報いる為にやくざものの喧嘩に殉じます。早い話が義理人情とはホモのなのです。

 ついでに言うと平手の刀は一文字則宗であり、刀剣女子ならば周りに差をつける為にも必見であります。


座頭市と褌
 座頭市の監督は本作以降何人もが手がけましたが、一貫しているのは三隈研次の方法論を引き継いでローアングルが多用されるということです。

 それはどういう事か?そう、褌がちょいちょい見えてしまうのです。後に二度とパンツをはかないと宣言した勝新だけあってサービス精神爆発です。褌好きなゲイにはたまらないのです。

 勿論ローアングルは平手にも容赦ありません。女性にもサービスを忘れないこの精神が映画をヒットさせたのでしょう。

 実はこの手法はかなり古くから存在します。市川百々之助という戦前に活躍した二枚目俳優がチャンバラの合間合間に褌をチラ見せすることでご婦人を大喜びさせてスターになりました。

 ポルノの世界を除いて基本的に女性は褌を締めないので、この方法は男だけに許された特権とも言えます。ゲイが褌が好きなのにはそれなりの根拠があったのです。


天知茂のゲイっぽさ
 天知茂は非情にゲイっぽく、またゲイであってほしいと多くのゲイが思うのが天知茂なのです。

 一応言っておきますが、ゲイが誰かにゲイっぽいと言う場合は基本的に誉め言葉です。ゲイっぽいと言われた人は女性がいい乳してるとか言われた程度のニュアンスだと思って下さい。紛れもないセクハラではありますが…

 天知茂の役者人生はあんないい男なのに決して恵まれたものではありませんでした。松竹のエキストラからスタートし、新東宝のニューフェイスに選ばれたもののそれでも役が付かず、ギャラが安いという理由で抜擢されてようやく出世コースに乗ったのです。

 しかし新東宝です。拓ボンが出世していくのとはまた話が違ってきます。もっとどす黒いものが私には見えてしまうのです。

 新東宝の社長の大蔵貢「女優を二号にしたのではなく二号を女優にした」と豪語する昭和のワンマン社長丸出しの男でした。(大映の永田雅一社長にも同様の逸話がある)

 それを証拠に当時の新東宝の女優はムチムチのエロボディの持ち主ばかりであり、大蔵のセクシャリティを垣間見る事が出来ます。

 ここで注目したいのは新東宝が輩出した俳優です。天知茂の他に新東宝出身のスターには丹波哲郎菅原文太がまず挙げられます。

 ちょっと待って下さい。三人とも系統が似ています。いずれも目付きが鋭くちょい悪風です。それはつまりそういう事ではないかと私は思うのです。

 大蔵はそもそもが浅草の活動弁士でした。浅草芸人などというのは現代に至っても変態性癖の見本市(いつもの浪曲師・談)であり、まして戦前ともなればノンケは変態レベルであったのは各種の証言からも明らかです。

 脱線してきたので天知茂の方に話を戻しましょう。天知茂は映画界に悪く言う人は皆無の人格者であり、女遊びをせず、ロケで家を空けていても奥さんに必ず毎日電話するような愛妻家でありました。

 付き人の面倒見も素晴らしく良かったのは当の付き人出身の人達の証言からも明らかで、究極のガキ大将である勝新とは逆方向のカリスマの持ち主でした。

 そこで考えてみて下さい。「シン(仮名)、最近うちのとご無沙汰でたまってるんだ。お前の尻を貸してくれないか?」などと頼まれて付き人が断れるでしょうか?

 多少ホモフォビアでも「先生となら、いいです///」となっちゃうはずです。少なくとも私は断れません。

 同様に勝新に「ケン(仮名)、ケツ出せ」と言われてもやっぱり断れる男は稀でしょう。カリスマとはそういうものなのです。


平手×市

 勝新も天知茂も結構受け属性を孕んでいると思いますが、後述の理由でこっちにしました。

 二人の関係は暇つぶしに釣りに出かけてたまたま鉢合わせた事で始まります。

 盲目なのに釣りをエンジョイする市に興味を持つ平手。出会って早々いちゃつき始めるところにこのカップルの規格外のパワーが見て取れます。

 平手は自分の江戸を追われた過去をカミングアウトし、市は市でそんな平手が病気をしていることを按摩の経験から見抜き、お互い只者ではないと認識して別れるのですが、明らかに平手の方が市に強い関心を持っています。この愛のシーソーゲームは平手側に静香に傾きながら幕が開くわけです。

 そうするうちに笹川と飯岡の関係が緊張し始め、喧嘩になると知らされて平手は大好きな酒を飲む手を止めて深刻な表情を浮かべます。

 市もまた飯岡達が市の力を過小評価して軽く見るのを口実に喧嘩への参戦を拒否し、喧嘩の前に出て行こうとします。つまり、二人ともロミオとロミオ状態になるのはどうにか避けたいのです。

 二人は翌朝再び釣りに行きますが、おさきが死んだので殺生禁断だという平手の適当な口実に誘われ、市は平手の居候している寺へ誘い込まれて酒を酌み交わします。もう完全に平手ペースです。

 そして平手は市と手合わせをしたいが下らない喧嘩では嫌だと倒錯した心理をカミングアウトし、右肩の筋肉が凄いとマニアックな誉め言葉で一気に距離を詰め、見事に市に肩を揉ませることに成功します。

 もうこれは実質セックスです。どっちでもいいから代わってくれと私などは思ってしまいます。

 そこへ笹川がやって来たので二人は再会を約束して別れます。市の方も平手にかなり気持ちが傾いてきたのが見て取れます。

 笹川は市を消そうと子分を差し向けますが、平手は放っておいた方がいいと止めます。これも市が心配と言うよりも、市なら絶対返り討ちにするという確信があるのは明らかです。既に二人はお互い強く認め合っているのです。

 そして子分たちを返り討ちにしたのを見て「見事だ」と物凄く嬉しそうにしてしまいます。二人の愛の前には子分の命とてコンドームなのです。

 報復で飯岡方の子分が殺され、平手は肺病で血を吐いて寝込んでしまい、飯岡はこの隙を狙って火事場泥棒的に喧嘩を決意します。

 飯岡は子分が多く、そのくせケチなので助っ人料を出し惜しみして市と決別。出て行くように通告されますが、市は平手が血を吐いたと聞いて心中穏やかではありません。

 笹川も飯岡同様外道なので、市を秘密兵器の鉄砲で始末するとわざとらしく平手に告げて平手を引っ張り出します。鉄砲で市が撃たれては一大事と平手は病身を押して参戦してしまうわけです。

 つまり、平手の市への愛を笹川も察知していたのです。笹川は腐男子に違いありません。

 すれ違いに寺を訪れた市は寺の小僧から平手が喧嘩に赴いたいきさつを聞き、駆け落ちを提案するおたねを捨てて決闘現場に駕籠を走らせます。愛のシーソーがウェイトのある市に傾いてきました。

 血を吐きながら戦っていた平手が市が来たと知るや浮かべる満面の笑みの見事なこと。そして平手は「死に土産に真剣勝負がしたい」とヤンホモ入った提案をします。

 平手の命の無駄使いに戸惑う市ですが、平手の説得は不可能と悟って平手と闘い、平手をついに斬ります。このシーンは三隈研次入魂の逸品です。是非ご覧ください。

 わざわざ平手を市が背負う形になるのが意味深です。この体勢で攻め受けを決めました。

 息も絶え絶えに「つまらん奴の手にかかるより奇行の手に斬られたかった」と語る平手。それを聞いてを流す市。これはもう入ってないだけでセックスです。バイオレンスポルノです。愛する人に殺されたいのが武士なのです。

 決闘は笹川方の全滅で終わりましたが、無神経にも祝い酒を勧めてきた飯岡のあまりの汚さに市は散々に恨み言を言い、寺で平手の供養を頼み、ついでにトレードマークの仕込み杖も一緒に葬るように頼んで去ります。

 最後の最後に尊すぎます。二人は死んでも一緒なのです。平手も草葉の陰で喜んでいるでしょう。

 勿論、おたねは捨てていきます。兄貴分が死んだおかげで代貸になれると大喜びする外道の蓼吉を殺していくのが市の優しさでありますが、どこまで行っても女はコンドームなのです。

お勧めの映画

 独自の統計(主観)に基づきマッチング度を調査し、本noteから関連作品並びに本作の気に入った方にお勧めの映画を5点満点にて紹介します

『兵隊やくざ』(★★)(勝新大暴れ)
『修羅の群れ』(★★)(天知茂も天保水滸伝も出て来るよ)

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