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「できた」ではなく「作った」と言える農業のプロを目指して

5月も後半に差し掛かり、慌ただしかったそら豆の収穫と出荷がほぼ終わりを迎えた。4月末からの約3週間、収穫、荷造り、発送、出荷・販売、その間に会社での勤務という、過密スケジュールもやっと一息。と、思ったのも束の間。次はズッキーニ、その次はスイートコーンと続く…。

最高気温30℃を超える真夏日も観測され始めた。最高気温が25℃を超え始めると、そら豆の樹勢は衰え、葉が落ちていく。販売実績を帳簿につけながら、目標にしていた販売金額を達成したことに、ひとまずは満足。来季作に向けての反省点と改善点をnoteにしたためた。

毎日咲く、黄色い花

隣の畑で、ズッキーニが黄色の花を咲かせ始めた。花と茎がつながっている部分が太くなっている雌花と、スッと伸びている雄花。3月17日、播種、4月13日に定植した苗が日に日に大きくなっていく。

左が雄花、右が雌花

「実がならない」 伯母のぼやき

作業をしていると、80歳超の叔母が軽トラックでやってきた。先日、急なめまいで救急病院に行ったと聞いていたので、元気そうな姿に安心した。「メニエール病」と診断されたそうだが、薬を飲んだら治ったのだと。ひとしきり、体調の話をした後、その叔母がぼやく。今年、初めて植えたズッキーニの実が、大きく育たないと。親指くらいの大きさで成長が止まったり、先が腐ったり。

キュウリやミニトマトのように、受粉せずに実をつける単為結果性(たんいけっかせい)とは異なり、ズッキーニは「受粉」が欠かせない。自然界では虫たちが、受粉作業をしてくれるのだが、雄花の花粉を雌花の雌しべにこすりつける「人工受粉」をすることで、「商品率」は高まる。

人工授粉 チャンスは開花日の朝

ズッキーニは朝、花が咲く。日が高くなると、花はしぼんでいく。受粉のチャンスは花が咲いたその日の朝のみ。このため、出勤前の早朝に人工授粉するのが日課となっている。収穫時期も慌ただしい。気温が上がってくると、一日でびっくりするほど大きくなる。1日、収穫をさぼってしまうと、商品にならない大きさにまで成長してしまうことも。ズッキーニは、キュウリやオクラと同様、目が離せない。

収穫が一日遅れただけで、太りすぎることも

叔母に「人工授粉してる?」と聞くと、案の定、していなかった。体調を崩していたため、1週間ぶりにズッキーニの様子を見に行ったのだと言う。アドバイスすると、「毎朝かあー」とぼやきながら、軽トラを発進させた。

ミツバチ頼りでも、時折、いい実はできる。ただし、未受粉の変形した実も混じる。家庭菜園なら、それも受容できる。が、「農業」となれば、話は違う。正品率を高め、収益を得ることを考えなければ。

黄金比「12:1」を目指して

「『できた』ではなくて、『作る』んですよ」。昨年6月から1年間通った市農業指導センターでの柑橘栽培研修。講師の先生のその言葉が印象に残っている。全国的に有名になった「紅まどんな」の栽培方法を学んだ。「糖度12度、酸度1」が味の黄金比と言われている。糖度が基準値(10.5度)を下回れば「紅まどんな」としては出荷できない。糖度がいくら高くても酸度が1以上あれば、酸味が強く、美味しさを感じられない。酸度が低すぎても、抜けたような味になる。ちょうどいい「塩梅」が求められる。

品種名は「愛媛県果試28号」。JAが糖度、酸度、色合い、大きさなどの基準を設け、それをクリアしてJAを通じて流通するものだけが「紅まどんな」ブランドとして販売される。

潅水量で糖酸度をコントロール

基準をクリアするために、農家はさまざまな手段を講じる。ハウス栽培もしくは10月以降の簡易ハウス被覆。糖度を上げ、酸度を下げるには、水の調整が大きなカギを握る。果実が大きくなった秋以降、潅水量を減らすことで糖度を上げていく。一方で、酸度を低下させるには逆に、水を与えなければならない。定期的なサンプリング調査で、糖度・酸度を計測しながら、潅水量を調整し、「黄金比」に近づけていく。

点滴潅水

この他にも、タイベックシートという、表面からの水ははじき、裏面からは水分を蒸発させる白色シートを、木の周辺に敷き、水分調整や太陽光の下からの反射で、糖酸度を調整する方法を取る品種もある。

木の下にタイベックシートを敷いて、水分調整と太陽光の下からの反射で糖酸度を調整

「今年は晴れの日が多く、雨が適度に降ったから、甘いみかんができた」。確かに、他産業に比べれば、農業は「お天道様」の恩恵と影響は大きい。ただ、それだけでは継続的に「安定」した品質と量を生み出すことは難しい。能動的に成育環境を整える「人の手」が必要となる。

「作った」と胸を張れる農業のプロへ

来春、愛媛県果試28号の苗木を植え、「紅まどんな」栽培をスタートさせる。まだ、サラリーマンをしながらのアマチュアだが、「できた」ではなく、「作った」と言える農業のプロを目指したい、と思い描く。

(あぐりげんき通信)

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