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みんなと私の『動機づけ面接』ーークライエントとの同行二人指南(5) 『許可さえ取ればいいってもんじゃない』

(つづき)

嗜癖外来に来た対田さんと精神科医師との、悪ーい空気漂う面接をもう一度載せておく。


臨床家
「あなたが言う7、8杯の一杯って、どのくらいの大きさのグラスのことなんですかね?」(質問)

対田
「普通の水を飲むコップですよ…でも、お酒を飲むと落ち着くし、眠れるんです」

臨床家
「では、たぶん、だいたい240mlですね。では週に13から14ℓのワインですよ。ちょっと説明させてもらっていいですか?」(引き出す)

対田
「……え、はあ…」

臨床家
「あなたが飲んでいらっしゃるお酒の量は、あなたと同年代の人よりもはるかに上回っていますね。(提供する)どう思いますか?(引き出す)」


まず、引き出すべき「許可」についてであるが、これは、クライエントとの関係性と、変化の準備性に関わるものである。

「許可」を引き出すということは、「説明させてもらえますか?」と聞いて「はい」という上っ面の返事を得ることではない。動機づけ面接の「情報のやりとり」というのはそういうものではない。相手の表情や、これまでの話の流れといったものも踏まえ、「今自分が説明しても、受け入れてもらえるかな、どうかな?」というのを探ることである。


ここで質問をしよう。


情報交換ともっとも関係ある動機づけ面接のスピリットはなんだろう?


動機づけ面接のスピリットについて説明すると、


・クライエントが自身の課題の専門家、カウンセラーが相談を受ける専門家、この2人の専門家として問題を解決を目指そうとする「パートーナーシップ」(Partnership)

・クライエントの存在や、自立性を尊重して受け入れる「受容」(Acceptance)

・クライエントの幸せのためにカウンセリングをするという「思いやり」(Compassion)

・クライエントの内側から動機を喚起する「引き出す」(Evocation)


この4つがある。英語の頭文字を取ってPACEという。さあどれだろう?


相手の自律性を尊重しながら情報を提供することは大事そうだ。その意味では「受容」か?

クライエントのための情報、そうでない情報というのはあるだろうか?カウンセラーが自らの強迫(「法律は守る必要がある」「医学的に正しいことをしなければならない」といった考えを持ち、それを伝えないわけにはいかないと思っている)に従って提供される情報ならば、相手のためではない(専門職にはありがちだ)。「思いやり」がもっとも関係あるのか?

コマーシャルで購買意欲を高められることもあり、情報提供により動機づけは可能である。「引き出す」が関係あるのか?


私個人は、「パートナーシップ」だと思っている。どこまでの話をするか、ここまでならいいですか?ここからはいりませんよ。聞く準備がある、ない。そんなことをお互いに考えていく。だからだ。


「許可」を引き出す。これは前提として、クライエントから質問がされたとか、許可を取るとか、その話題をするかどうかはクライエントが決めていいと保証することによってなされる。


クライエントから「〇〇について知りたいのですが」と聞かれ、本当に知りたがっているようなら、伝えない理由はない。

クライエントに質問されなければ、「あなたにはあてはまらないかもしれませんが、○○について情報提供させてくださいね」などと尋ねる。

「どうぞ」とか「はあ」と言われ、カウンセラーはその反応から(あ、これ言っていい)(今はまだ早かったな)(ちょっと微妙だなあ)(よし!)(口ではそう言っているけれど、本心は違う…)などと判断し、適切な対応をする。


また、既存の知識を引き出す。こちらが伝える必要のないこと知ることができる。今時なら、患者さんもインターネットで病気のことを調べている。

「すでに知っていることを私が言っても時間が勿体無いでしょうからね。教えてもらえるといいと思うんですが、強迫症の治療についてどんなことを知っていますか?」

と聞けばいい。


あと、クライエントの興味・関心を引き出す

どんな情報を教えて欲しいのか、ということである。


与える

与えるために必要なだけ引き出そう。その上での「与える」である。


まず、多くは情報提供はしないほうがよい。


優先順位も重要である。クライエントが聞きたいことが優先順位の高いことである。その優先順位が決められないようであれば、それはその前の段階の「引き出す」が充分ではない。そこに戻ろう。


情報を与えたらどう反応するかは任せる(規制しない)。


つづく。

2021/2/22 Ver.1.0


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