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行動経済学備忘録(4) 帰属

行動経済学とは書いたが、本日のテーマは帰属である。あまりに経済学から離れてしまって、のちにタイトルを変える可能性も大である。


王女カサンドラはアポロンに、百発百中の予言の能力を与えられながらそれがだれにも信じてもらえない、という呪いをかけられた。だがよく考えれば呪いをかけられたのは、信じることのできなかった人間のほうである。正しい論理を受け入れない「考えの偏り」は、感情や権威などいろいろなもののせいで起こるが、誤った「帰属」に跳びつきやすいという人間の性質もその大きな原因のひとつである。

ちなみに「カサンドラ症候群」という、医学的に正しい分類ではない悪名高き「病気」がある。カサンドラという言葉を出すとそちらに話を寄せてしまう人がいて、誠に悪しき命名ではある。理解されない真実が「未来の惨劇」と「今ここにある悲劇」とでは、構造が違うのだが。

帰属というのは、なにかの出来事を「きっとこういう理由でこうなったのだ」と結論づけることである。「帰属」という言葉自体が、「その理由づけは必ずしも正しいとは限らないが」というニュアンスを含んでいる。

鳩でさえ帰属する。餌が目の前に現れたとき、たまたま直前に自身が踊るような動きをしていたとすれば、また踊るようになる。そのうち何回かに1回、また偶然にも餌にありつければ、鳩はますます踊るだろう。人が雨乞いをするのと変わらない。迷信行動と呼ばれるものである。

迷信は昔の考えだと一笑に付せないのは、この現代にあっても「あいつは雨男だ」とか「あいつはB型だから」といった類の誤った帰属がすぐになされるからだ。数多くのインチキ健康法が跋扈するのも、正当な予言者が素朴な帰属に敗北している証である。帰属は我々人間の思考のしかたとして、どうやら自然であり、強い説得力のあるものらしい。


また、「腑に落ちる理由」がないと人間は落ち着かなくなる。『半落ち』などというミステリーもあったが、犯罪の「動機」などは取り調べや裁判の過程でしつこく問われる。自殺や不倫の「理由」などについても、ワイドショーでみな知ったようなことを勝手に類推し、ときには精神科医などが権威者として駆り出されて好きなことを言っている。

昔から思っていたが、「なぜ?」という問い自体は、頭の中にしかない。世の中の現象は、「ひとつのできごと」が「次のできごと」に繋がる、という形でしか展開しない。そこには偶然もひそめば、あまりにも多様な力が合わさって事が動くということもある。これといって人間にわかりやすい「理由」が存在するとは限らない。

だが人々はあいまいさよりはまちがいでも結論があることを好んで採択する。「自分なりの充分な納得」には金さえ払うのだ。過去に説明をつける歴史学は雄弁で、「原理」を与える経済学の理論なんかよりはずっと人気が高い。



帰属をまちがえれば、栄養のあるキノコを毒キノコと思いこんでしまい、食べる機会を失う。また、「いじめのせいで自殺した」「ストレス発散のために不倫した」といった単純すぎる構図はおそらくファンタジーでしかなくなにをも生み出さないのに、人を大きく傷つける道具になる。

では根拠の乏しい帰属はいっさいいかんのか。結論から言えば意味はある。いくらアポロンでも、絶望的な呪いで種を絶滅させてしまうことほどには嫉妬深くはない。たくさん「ハズレ」な帰属をさせておいて、そのせいで誤ったことをやる個体がたくさんいて、ただそのうち一部の帰属がドンピシャに正解で、そのお陰で生き延びることができる者もいる、という仕掛けになっているのだ。健康のために水銀を飲んで死んでしまった皇帝もいたが、ウグイスの糞を顔に塗ってお肌がツヤツヤになる女性もいたのである。水銀を飲むのを真似するグループは死に絶えるが、ウグイスの糞を顔に塗る「知恵」を継承した一族は、末代までお肌がツルツルだ。してみると根拠の乏しい健康法なども一概に馬鹿にはできない。


さてここまではただの帰属理論の話である。ここで強引に話を経済学に戻しておこう。人が安易に帰属するというその思考パターンは、マーケットにも持ち込まれる。わかりやすいところで言えば、帰属の体系である占星術などが株式市場に持ち込まれるのだ。こうなると(私には)その挙動(影響される株価も含めた)が面白くなってくる。

これまでの株の動きを星の動きで「説明ができる」と主張する人が、その説明を利用して儲けられるという保証はまったくない。でもここだけの話、経済学者と占星術者が株式市場で勝負をするなら、私は占星術者に賭ける。

「学問ばかりしているようなやつは、儲けらんない」という自身の帰属・偏見から抜け切れないからだ。いやこれ、結構説得力があると思いません?


Ver.1.0 2020/7/4

Ver1.0 2020/8/6 最後の順接・逆説の論の展開が適切でなく、訂正。

#心理学
#経済学
#行動経済学


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