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学習理論備忘録(25) 『ブルブルくん』


" Learning and Behavior Therapy "第5章、CONDITIONED INHIBITION AND ITS APPLICATIONS IN PANIC AND OBSESSIVE-COMPULSIVE DISORDERS(条件制止とパニック障害・強迫性障害への応用)を読んでいるところだが、ここらで改めて条件制止について述べる。

ある刺激A(音や光)と一緒に別の無条件刺激(餌や電気ショック)を提示する。これを A+ (Aという刺激とともに無条件刺激を提示) と表す。この A+ をしつづけると、前者(A)を提示しただけで後者(無条件刺激)に対する反応(よだれや震え)が起こるようになるという学習(条件づけ)が成立する。このときの反応を「条件反応」と呼んだ。

「反応」というのはプラスのものだが、「反応が減る」「無くなる」といったマイナスのほうの条件づけが「条件制止」である。

Aという刺激には餌や電気ショックが対提示されるが、AともうひとつBという刺激も加わったときには餌や電気ショックは与えられない(A+/AB- と記載される)。するとA+/AB- により、Aには条件反応(よだれや震え)が起こるが、AとBがセットだとそれが起こらなくなる条件づけが成立する、というものだ。

「条件反応」という言葉は広く理解されている。この「反応」の文字がひっくり返って「制止」になっていると考えれば、「条件制止」はそう覚えづらい言葉でも分かりづらい概念でもない。この章ではずっと条件制止の話をしている。

本稿で「条件性制止」でなく「条件制止」の用語をとりあえず採用しているのも、この理由による。

さや香があなたの体に電気ショックを流すはずのボタンを押しても、それが屋外であったときは、決して電気は流れないということを学習し、屋外では震えないという条件制止があるものとする。

その「屋外」でサイレンが鳴ると電気ショックが与えられた。この反応は強まることがありうる(超常条件づけ)。

これはレスコーラ・ワーグナー・モデル(Rescorla-Wagner model)で説明できることであった。「驚き」があるほど強く学習するという話であった。

「ええ?外にいてもだめなのかあああ!!」と思うことはショックを強めるのかもしれない。


理論を治療に応用するのが臨床家である。" Learning and Behavior Therapy " はそのタイトルからも分かる通り臨床応用をも視野に入れた学習理論の教科書であり、条件制止の話もパニック症と強迫症の治療の考察につながる。

条件制止は、パニック症において大きな役割を果たす。条件制止は、うまく使うことができるかもしれない(まだそういう方法が確立されたわけではない)。

先にパニック症について説明しておく。

・成人が生涯にかかる割合は3〜7%
・以下の症状が現れるパニック発作を生じる
   呼吸困難、激しい動悸、発汗などの身体反応
  「死ぬのでは」「狂ってしまうのでは」といった恐怖
  (パニック発作自体は病気ではなく、一般人の10〜30%が生涯に少な
  くとも一度は経験する。この発作が度々起き、そのために著しい苦痛や
  生活上の困難を来してはじめて、「パニック症」という疾患だと言え
  る) 
・発作は突然起こるが、「発作が起こるのでは」と心配(予期不案)をして
 いるときに生じることが多い

他にもストレスの強さと発作頻度が相関するといった特徴がある。


Klein (1993) は、「パニック発作の原因」「呼吸できなくなる!」と判断してしまう脳の誤作動として説明したが、それは一部のパニック発作にしか当てはまらない(パニック発作で呼吸困難を伴わないものは多い)。

よってこの説明では不十分である。


Beck と Emery (1985) は「パニック発作の原因」は、運動して息苦しくなるとか、コーヒーを飲んで心臓の動きが早くなるといった体の変化を、「あー、これはまたパニックになる兆しだ!もう終わりだあああ!!」というふうに(破局的)誤解をしてしまうからだという。

だがそれは、二度目以降のパニック発作ならともかく、生まれて初めてのパニック発作については説明できない。


パニック発作はたいてい、なんらかの状況で起こる。たとえば怖いお兄さんたちに追いかけれられるようなことになれば、だれだって激しく怖い思いをするだろう。そのような " 緊急反応 "が起こったことを、「お兄さんにボコボコにされようとしているから」だと正しく帰属させれば、パニック症になることはない。

この人には、

A+/AB-( = 危険な事象を予期する外的手がかり/安全な期間を合図する他の手がかり )

の条件制止が成立する。

ここで密かに手がかりをなくしてみる。突然発作だけが起こるのだ。このような明確な手がかりもないタイプの発作を起こした人は、次のような流れになり、パニック発作になりやすい。


パニック発作を経験した → その後発作を恐れる → 次の発作の兆しに「なりそう」な体の変化に鋭く気づく → 「これはもうすぐ発作だ!死ぬかも知れない」(破局的思考) → 過換気

(これを繰り返し、やがてパニック症になる)


こうして発作の予兆を度々感じるようになってしまうのだ。実はコーヒーの飲み過ぎで心臓の鼓動が速くなっただけかもしれないのに、「ああ、コーヒーこそがパニックの原因なのだ!」と。


これを解決するため、安全の合図(CSB)が使える。それは薬であったり、医者が近くにいてくれることであったり。だがそれらが役に立つのが本当に条件制止のお陰なのか疑問だ。A+/AB- の学習によるのでなく、もともと薬や安心できる人がそばにいること自体に、発作を抑える性質があるのかもしれない。学習する前から発作を抑えてくれた可能性がある。

続く

Ver 1.0 2021/3/6

Ver 1.1 2021/3/19 文を少し整えた。

Ver 2.0 2022/4/6 少し文を補い、判りやすくした。


学習理論備忘録(24)はこちら。



続きの(26)はこちら。




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