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デザイナー視点から東アジアの被害の少なさを説明してみた。         -ファクターXはなかった。-

 医学的知識のない筆者が、デザイナー視点(観察―発想―構成)で話題の東アジアの被害の少なさ問題を解いてみた。

 東アジアに被害が少ない要因「Factor X」について、京大の山中教授をはじめ、多くの人の関心になっている。アジア人に元々自然免疫がある、或いはBCG接種が大きく影響していると強く主張している論者もいるが、その説明内容は説得力に乏しく、現段階では立証されていない。

 医学的な見地からの考察はさておき、被害実態を客観的に調べてみると、実は特に東アジアだけが特別に被害が少ないというわけでもないと判る。


目次
1. 各国の被害状況
2. 被害を左右したたった2つの要因
3. Covid19基礎的耐性
4. 外出禁止策開始時期
5. べトナムの対処
6. なぜアジア諸国は早期に対応できたのか
7. 日本の状況
8. まとめ


1.各国の被害状況


 多くの報道は、イタリア、スペイン、英国と酷い国をピックアップしており、ヨーロッパは被害が大きく、アジアは少ないというのが通説になっている。しかしヨーロッパでも被害の少ない国があり、アジアでも比較的大きい国もある。そこで、被害の大きな国と少ない国、各10ヵ国をピックアップしてみた。
  欧州 :▢英国 ▢イタリア ▢スペイン ▢ドイツ ▢スウェーデン▢ポーランド ▢デンマーク ▢ノルウェー ▢フィンランド ▢チェコ


 アジア :▢インドネシア ▢フィリピン ▢日本 ▢マレーシア ▢オーストラリア ▢ニュージーランド ▢シンガポール ▢台湾 ▢タイ ▢ベトナム


 以下のグラフが、最初の死亡者が出た日を揃えた死者数推移だ。

タイトルなし

 やはり、英、伊、西が突出している。花が咲いているように開きが大きい。以前にも書いたが、Covid19は指数関数的に広がり、初期のうちに抑えることができるかどうかが肝になる。まるでギャンブルのようで、勝てば大勝、負ければ大敗、どちらかになる。


下の方に線が重なっているので、もう少し細かく、2か月(8W)の死者数2000人で切ってみた。

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 最初の2か月で、死者数を1000人以下に抑えたインドネシア以下は、感染爆発を防ぎ、相対的には初期対応には成功したと言えるのではないだろうか。
EUはポーランド、デンマーク、チェコ、フィンランド、ノルウェー、とアジアの国々の被害が少ない。これらの国々は他の国々となぜ違ったのか?

  答えはすごくシンプルなのだ。説明変数はたった2つである。

2.被害を左右したたった2つの要因


 NHKのコロナ特番で、感染学の長崎大:山本先生が「感染を防ぐのは簡単なのです。近づかなければいいのです。」と言われて、わかってはいたが、腹に落ちた。基本のきである。
 ウィルスは自身では動けない、宿主たる人間が運ぶ。ワクチンも特効薬もないウィルスには、近づかなければいいのである。100年前のスペイン風邪から変わっていない対処法である。第一には、人との接触機会を極力減らせばいいのだ。いかに早期に、接触機会を減らす策を実行できたかが一つ目の要因である。
 また、このウィルスは感染力は強いが重症化するのは、抵抗力の弱い高齢者と他の病の罹患者であると判っている。その状況は各国によってかなり違う。つまり、二つ目の要因は国によって異なる基礎的なCovid19への耐性である。

 誰しもが知っているこのシンプルなこの2つの要因で、東アジアのみならず、Covid19の世界の被害状況は説明できる。
説明しやすいので、まずCovid19に対する基礎耐性から説明しよう。

3.Covid19基礎的耐性

以下のグラフをみてほしい。

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 サンプル各国の平均年齢と70歳以上の構成比の散布図である。筆者も今回再認識したが、フィリピンの平均年齢はなんと25.2歳で70歳以上の構成比はたったの2.7%なのである。重症化しやすい高齢者が圧倒的に少ないのである。同様にべトナム、マレーシア、インドネシアも平均年齢が30そこそこで、構成比も5%以下なのである。

 逆に被害の大きかったスペイン、イタリアは、平均年齢が45歳を超えて構成比も13%以上ある。重症化しやすい人(Vulnerable)が多いのである。 ここにさらにイタリアやスウェーデンは、高齢者介護施設に感染が急激に広がり被害がさらに広がったというわけである。

 もう一つの要因は、宿主たる人との接触機会を極力減らす方策(Interventions)の実施時期である。

4.外出禁止策開始時期


 各国は、各国の事情によって、様々な隔離策を講じたので、正確な国比較は難しいが、一応、非常事態、緊急事態、感染事態等の宣言をして、商業施設を締め、外出禁止が開始された日,或いはその効果が始まった日で比較してみた。(※国によっては宣言した前日から効果が出る国と、当日、翌日に効果が出る国があったので、Apple mobility reportで削減量を参考にして筆者が1~2日の調整を行った。)

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 (図を見る時の注意点)
※ スウェーデンは強制的な制限を設けていないため、イベント開催が禁止された3月29日のデータをプロットした。
※ 台湾は外出制限していないので、感染者の外出に罰金を指定した2月20日をプロットした
※行動削減の参考データとしてApple mobility reportを使用したが、それには季節変動や曜日変動等のコーザル要因は考慮されていない。

左下が詰まっているので拡大した。

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 結果はおもしろい程、想定通りであった。被害の少ない国は、日本人の感覚からすると驚くほど早期に外出禁止等の宣言し実施している。逆に被害の大きな国イタリア、英国、スペインは遅く、死者が100人を超えて感染が広がってから実施しているのである。


 タイは1人目の死者が出た直後から外出の自粛が始まり非常事態宣言前の時点で70%も外出行動が減っている。EUで被害の少ないチェコ、フィンランド、ニュージーランド等も早期に死者が0の時に外出制限を実施している。死者が10人を超えた時期に外出制限を出したのは、インドネシアだけである。その為か、インドネシアは東アジアの中では被害が大きいのである。因みに、日本が7都道府県で緊急事態宣言を出した時の、感染者は3817人で死者は80人であった。

 各国は外出制限を守らせる為、様々な方策をとった。国によっては、不要不急の外出やマスクをつけていなければ高額な罰金(日本円で約30万から400万円近く)科した。強制的であっても、基本通り、忠実に接触機会を削減したこところが、被害を低く抑え、解除も早く行えているのである。
中でも、べトナムは世界中で最も成功した国だと思うので、見てみた。

5.べトナムの対処


 ベトナムはグランドゼロの中国と国境を接しており、交流も深く、人の流れも多い国で最も危険な国だったと言える。


 1月23日に国内初の感染者が確認された。そのたった9日後、感染者がなんとまだ5人の2月1日に流行宣言が出され、中国との運航を中止し、隔離施設を軍が設置開始。イベントの中止、接客業と交通機関乗車時はマスク着用が要請された。感染者が増えるのに伴い矢継ぎ早に制限を強化し、3月22日に感染者95人のときにロックダウンし、23日には商業施設の閉鎖、集会の中止、外出禁止、マスク未着用には罰金を科した。そのおかげで、徐々に新規感染は減り、4月23日より順次制限解除し、24日より飲食小売業再開した。5月14日にはすべての制限が解除された。


 結果6月1日時点で感染者328名、死者0。ロックダウンにより、経済へのダメージもあったが、2020年のGDP成長率予想は6.8%から5.0%に下方修正(5/5フック首相)されたが、米国が1番の貿易相手で、観光業がGDPの10%を占めるという状況下では、その程度でおさまれば、見事ではないか。

 しかし、アジア各国はなぜ、そんなに早く対応で来たのかという疑問が沸く。

6.なぜアジア諸国は早期に対応できたのか


 東アジア各国は、死者も出ていなく、感染者が数百人程度のうちに非常事態を宣言したのである。日本に当てはめてみると、北海道が緊急事態宣言をしたのが2月28日。この時、死者3名感染者210名だったので、アジア各国はこの頃にロックダウンを行っているのである。日本でそんなことをしていたら、「安倍やめろ!」の大合唱で国中大騒ぎであっただろう。


 東アジアの国々も外出禁止や、店舗閉鎖をすると経済にダメージを与えるという懸念は欧米諸国と同じはずである。これは筆者の想像であるが、アジア諸国はSARSを経験している自国の感染症に対する弱みを理解している。だから、再発防止策としてBCP(事業継続計画)を策定していたのであろう。そしてきっと今回そのBCP発動のクライテリアを超えたのだと思う。だから躊躇なく宣言ができ、施策が実行できたのだと思う。それしか考えれない。

7.日本の状況


 年齢構成によるコロナ耐性と接触回避策の実施時期によって説明を進めてきた。それで、日本が東アジアの中では被害が大きい説明はできる ただ、感染爆発しなかった理由づけがいる。

 日本は、非常事態宣言がアジアの他の国と比べると遅く、本当に感染爆発ギリギリだったと思う。ただ、幸運にも節目節目でナッジになりえる事象が起こり、行動変容を起こしたのではないか。


 まず、第一は、クルーズ船ダイヤモンドプリンセス号の来港である。まだ日本での感染者が20人程度の頃で対岸の火事だと思っていた頃に、日本中に注意喚起を起こさせた。マスクと消毒液が飛ぶように売れ、店頭から消えた。

 その後、専門家会議が発足し、批判を浴びながら3月2日一斉休校が要請された。暫くして、「子供や若年層はかからない」や、「インフルと同じ」だと言う言論が多くなって緩みかけたころに、突然に志村けんさんが亡くなられて、コロナの怖さを身近なものと感じた。

 当然、連日の政府や小池都知事の継続的なメッセージ発信もあったおかげで、高額な罰金を科し行動を50%~90%も削減した他国にはおよばないが、大体20%~60%の行動を削減し感染者増加をコントロールできたのである。


 もう一つ忘れてはいけないのは、クラスターを発見し対処したクラスター班と現場の保健所の活躍である。全国に網羅された約470か所ある保健所である。文字通り拡散する前にシラミ潰しにクラスター感染源を特定し疑似感染者を隔離した。日本のように網羅的に公衆衛生出先機関がない国も多いと聞いたりもする。


「日本人は民度が高いから」と呑気に放言している政治家もいるようだが、東アジアの国と比較すると自画自賛するほど、行動制限ができたわけではなく、大体は10%から50%程度削減をフラフラしながら、ギリギリ危機を乗り越えたのである。それはそれで素晴らしいことではあるが。
後知恵ではあるが、もし緊急事態宣言を10日前の「3密さけて」の3月28日に出していたら、被害はさらに少なく抑えられ、解除も早かったのではなかろうかと思ってしまう。

8.まとめ

 上記に見たように、東アジア各国で被害が少ないのは、年齢構成で基礎耐性が強いうえに、驚くほど早く非常事態を宣言し外出制限を実施したからである。BCG接種や自然免疫或いは不明の「ファクターX」の影響が大きいわけではないと思う。


 厳格な制限をしたベトナムは死者を1人も出さずに制限を解除しアフターコロナの生活を歩みつつある。一方、北欧4国の中で自然免疫をとり、ロックダウンしなかったスウェーデンは、ドンドン感染者が増え、手が付けられない状況で、隣国は徐々に解除を始めているなか、スウェーデンだけは国境封鎖を継続されている。自国でロックダウンしなかったら、他国からシャットダウンされたという笑えない話である。


 スウェーデンはまだしも、トップがインフルと同じ、ただの風邪と言っていた米国とブラジルはまだドンドン犠牲者が増えている。経済を破綻させたくないので、両国は徐々に制限を解除しているので、被害者は、さらに増えると思われる。

米国      感染者 1,831,806人        死亡者  106,180人
ブラジル    感染者  555,383人        死亡者 31,199人
スウェーデン  感染者  38,589人        死亡者     4,468人
          (ジョンズ、ホプキンス大 2020/6/3 10:00 調べ)


   最近、非常事態宣言が解除され、コロナ禍が収束に向かう空気の中、またもや後知恵で非常事態宣言は無駄だったと、西浦先生ら専門家会議たちへの批判を多く目にするようになった。私には理解できない。まるで、米国やブラジルと同じ道を進めと言っているように聞こえる。非常事態宣言したから自粛を喚起し、結果感染者がへり、解除したら感染者は増え始めている。

まだまだ安心するのは早いのかもしれない。


あとがき)長い駄文を最後まで読んでいただきありがとうございます。これで、コロナ禍5部作最後です。読んでいない方は以前のものも読んでください。

                            丸めがね雨男
                    

参考等)
 Covid19の患者数、死者数、各国の平均年齢、70歳以上の構成比は「Our world in Data」を使用した。
 宣言日や施行日は、外務省各国大使館、各国保険担当省、その他現地在住邦人のWEBサイト等を参考にした。以下のレポートも参考にした。
https://www.imperial.ac.uk/mrc-global-infectious-disease-analysis/covid-19/report-13-europe-npi-impact/
https://www.ecdc.europa.eu/en/publications-data/projected-baselines-covid-19-eueea-and-uk-assessing-impact-de-escalation-measures
       これは、細かくて、難しかったので読めていない。ざっと見ただけ。
 筆者は、Covid19 の比較するときに、患者数は検査方法や数量、信頼度等のばらつきが大きいので、死亡者数〔死亡者数も厳密ではないが〕を注視にすることにしている。
 その他、各国日本大使館サイト、海外在住邦人のブログサイトなどを参考にした。


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