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映画『初恋』感想 暴力=思慕のロマンス映画


「三池崇史 is baaaack!!!!」と喝采したくなる傑作でした。映画『初恋』の感想です。


 武闘派ヤクザの権藤(内野聖陽)が出所した。対立するチャイニーズ・マフィアのイェン(顔正國)も時を同じく歌舞伎町に戻り、激突は必至。ヤクザの加瀬(染谷将太)は、悪徳刑事の大伴(大森南朋)と組んで策を案じる。混乱に乗じて、組を裏切り、クスリを盗み出そうとしていた。
 一方、天涯孤独のプロボクサー葛城レオ(窪田正孝)は、脳腫瘍で余命いくばくもないことを宣告される。茫然としながら歌舞伎町をうろついていたところ、大伴に追われる風俗嬢モニカ=桜井ユリ(小西桜子)と出くわして、反射的に大伴を殴り倒して助けてしまう。ユリはヤクザの借金のカタに、クスリ漬けにされて働かせられており、加瀬と大伴の策謀に利用されるところだった。
 自暴自棄となっているレオは、事情もわからないままユリと逃避行を開始。それを追う加瀬・大伴と、盗まれたクスリを追う権藤のヤクザ組、さらにはイェン率いるチャイニーズ・マフィアも絡んで、暴力にまみれた一夜が始まる…という物語。

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 三池崇史監督といえば、最初に評価されたのはホラーやヤクザもののバイオレンス映画なので、その印象が強いんですけど、作品タイトルを見ると多作な上に、昔から節操のない並びになっているんですよね。あまり作品に対してこだわりを持っていないのか、スケジュールが合えば提案された作品を全部引き受けているように見えます。推測ですけど、作品の出来よりも、まず撮ることを重要視しているんじゃないかと思うんですよね。
 ここ最近は漫画や小説を原作にした作品が多くて、まあ実写化ものは大抵酷評の憂き目に合うわけで、その矛先が三池監督自身へも向いているものが見受けられました。

 ただ、これは三池監督の力量だけの問題ではなく、企画自体が原作ものに頼り過ぎている邦画の現状にもあると思うんですよ。実写化であれば、作品の出来不出来はともかく、それをジャッジするための原作ファン、出演者を応援するファンなど、一定数の収益が見込める企画ですから。
 そして逆に、オリジナル脚本のもの(しかもヤクザやバイオレンスなんか)は、当たるかどうかの勝率は低いので、三池監督らしさのある企画は提案されなくなっていたんじゃないかと思います。
 そこにきての今作『初恋』、昭和映画・Vシネの匂いのする、現代ではリアリティが無くなってしまった裏社会ものですよ。こういう劇画的で、外連味たっぷりで、ギャグにも思えるほど死に様が生き様みたいな、エネルギッシュな作品を、また三池監督が撮ってくれたのがうれしいですよね。


 物語は、対立する組織が複雑に入り組んでいるように見えて、実はものすごくわかりやすい造りなんですよね。それぞれのキャラクターの目的が迷うことなく向かっているからだと思います。
 こういう入り組んだ対立構造だと、例えば巻き込まれたレオたちが誤解されて標的として付け狙われたり(若干そういうとこもあるけど)、全然関係ないキャラ同士が疑心暗鬼になって殺し合いになったりしがちですが、今作のキャラは、誤解する時間は少なく、それぞれの標的をきっちり正しく特定しているんですね。だから、クライマックスのホームセンターでのバトルロイヤル的な展開も、ゴチャゴチャせずにストレスなく観ることができるんですよ。

 この作品は、特にそれぞれのキャラが良い味出していますね。方々で絶賛されているのが、ジュリを演じるベッキーなんですけど、振り切ってプッツン復讐鬼と化した様は、過去のスキャンダルがチラつこうが全く意に介さない怪演で、作品のエネルギーを象徴しているんですね。ある意味、裏ヒロインだと思います。

 個人的にMVPなのは、計算高いヤクザ加瀬を演じた染谷将太くんだと思います。この加瀬の策略を発端にして物語が動き始めるんですけど、加瀬というキャラ自体は、作品で描かれる世界観の象徴である愚直なヤクザとは、縁遠い計算高い現代的な人物なんですね。
 だけど、その策はことごとく裏目に出て、自業自得なのに何だか、レオ・桜子以上に巻き込まれて被害にあっているような可笑しさがあるんですよ。
 染谷くんは童顔なので、普通は重さのあるヤクザのような役は似合わないはずですが、それがこの不愉快な悪役に愛着を持たせる効果になっていると思います(「普通一人暮らしだろ!!」の台詞、爆笑でした)。

 個性的な登場人物たちが、ばんばか殺し合うわけですけど、どのキャラも死にっぷりが最高ですよね。重さのある銃声の感じとか、ちゃんと死の怖さもあるんですけど、この作品では何か痛快なんですよね。
 多分、それぞれの行動理念がすごくシンプルで、潔く目標に向かっているから、ある意味悔いのない死に様に見えるんです。
 胴体に弾を食らったり、刃物を突かれたりした時に、吐血がドバドバ出るのも良いですね。やっぱりダメージ描写として分かりやすいですし、「あ、死ぬな」というのが漫画的記号のように理解できるのも良いです。

 アウトローたちが向かうのは死なんですけど、巻き込まれたレオとユリが逃避しながら向かう目的は、ユリが過去に虐待されているのをかばってくれた同級生の男の子に会いに行くという、シンプルなロマンスなんですね。
 ここがタイトルと繋がっているんですけど、狂乱の暴力沙汰が終わった後、この設定を忘れてしまった頃に、結末に持ってくるのも上手い脚本ですね。大きく広げた風呂敷を、小さくキレイに畳んでいて見事だと思います。

 まあアウトローたちも、一途に殺したい相手に向かっていくので、この作品での暴力とロマンスは同義なんだろうと思います。そういう意味ではやはりタイトル通り、最高のロマンス映画だったと思います。


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