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映画『マッド・ハイジ』感想 真っ当で邪道なB級娯楽映画

 時間のムダを楽しめる大人の嗜み作品。映画『マッド・ハイジ』感想です。

 チーズ製造会社のワンマン社長だったマイリ(キャスパー・ヴァン・ディーン)は、金だけでなく権力をも欲して、スイス大統領の座に就き、自社以外のチーズ製造を禁止する。マイリの独裁体制が始まり20年後。アルプスの山奥で暮らすハイジ(アリス・ルーシー)は、恋人で羊飼いのペーター(ケル・マツェナ)との仲をおじいさん(デヴィッド・スコフィールド)に咎められながらも、幸せに暮らしていた。ところが、ヤギのチーズを闇でさばいていたペーターが捕らえられ、ハイジの眼前で頭を割られて処刑される。さらに、ハイジの家は包囲され、中のおじいさんごと燃やされてしまう。収容所に入れられたハイジは、復讐の怒りに燃え、祖国に死をもたらすことを誓う…という物語。

 ヨハンナ・シュピリの世界的な超有名児童文学『アルプスの少女ハイジ』を、ヨハネス・ハートマンとサンドロ・クロプシュタインの共同監督により、ゴア描写満載のB級エログロバイオレンスに仕立てたパロディ・ムービー。クラウドファンディングによって集められた資金は2億9000万円にも及ぶそうです。金出す映画バカは世界中にいるもんなんですね。
 
 ということで、クラファンで資金を集めたからといって、今作が『この世界の片隅で』のような感動作であるはずもなく、あらすじ読んでもらえればわかる通り、原作『ハイジ』に対する冒涜のような作品になっています。もちろん、それが目的で作られた作品なわけですけど。日本の宣伝も巧いですね。キャッチコピーの「教えておじいさん、復讐の仕方を!」、これかなり秀逸だと思います。観ずにはいられませんでした。
 
 大人になったハイジとペーターが事後にイチャつくという序盤での冒涜極まりないシーンから始まり、原作をほぼ無視した下ネタと暴力のオンパレードになっていくわけですが、あの『ハイジ』を下敷きにしているということで、ジョークにしているつもりなんでしょうね。ただ、正直『ハイジ』を下敷きにするなら、もう少し原作オマージュがあるべきなんじゃないかと思うんですよね。
 勝手に期待していただけなんですけど、こちらはハイジのその後を描いた物語になっているのではと予想していたのですが、クララ(アルマル・G・佐藤)とは獄中で初対面となっているし、ロッテンマイヤー(劇中ではロットワイラー)との出会いも、全くのパラレルワールドになっていて、結局のところ全然別の世界線になっています。
 とにかく全ての作りが雑なんですよね。わざとやっている部分も大きいとは思いますが、ゴア描写もさほど多くもないし(バイオレンス描写よりも執拗なチーズの使い方に胸やけしてしまう)、ハイジが大暴れするまでモタモタ時間を掛けていてテンポも悪いし、「そもそも面白くする気あるの?」と説教したくなる低レベルなクオリティになっています。
 
 ただ、こちらの予想や期待を常に下回るという意味では、物凄く正統なB級ものかもしれません。そもそも、本気で文句を言うのもバカバカしくなる内容なので、まともにレビューや感想を述べて楽しむものではないんだと思います。ただ思いつきで突っ走った製作側が楽しんでいる姿を観客が想像して、「バカだねー」と微笑んで楽しむというのがB級映画の醍醐味なんですよね。
 
 ただ表現作品の最低限のマナーとして、ファシズム的なものの否定にはきちんとなっています。闘技場でのハイジの「目を覚ませ!」というアジテーションに対して、全く心動かすリアクションをしない観客たちも、お上の言いなりになるまま選挙に行かない人々の皮肉にも思えます(エキストラが間に合わせの素人だっただけの可能性が高いですが)。
 
 背景に映る美しいアルプスの山々(バリバリの合成)、ただ痛めつけられ続けるだけのクララの扱い、強引な爆破オチからの、発展性のなさそうな続編アピールまで、全てが雑であり、観た後に時間のムダだった感しか残りません。ただ、それが変な余韻として残り、贅沢な時間の使い方が出来たように気分がリフレッシュされました。感動のある作品、社会的意義のある作品だけでなく、こういう作品にも時間を割ける余裕ある生活を心掛けたいと思います。


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