映画『ニューオーダー』感想 現実の恐怖を描いて鳴らす警鐘
祝祭感あるマンチェスターのレジェンドバンドとは、一切関係ありません。映画『ニューオーダー』感想です。
『母という名の女』『或る終焉』などで知られるメキシコの映画監督ミシェル・フランコによる作品。2020年のヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞を獲得したそうです。あまりにも救いがないという評判ばかりが聞こえてきたので、観ておきたくなり、思い切って勢いで行ってみました。「救いが無い」という前評判だけでも、充分ネタバレになっている状態で観たわけですが、それでもあまり関係なく、ショックでクラクラして映画館を後にしました。完全な劇薬(劇毒)作品です、これ。
映画冒頭で長々と結婚式の場面を描くのは、『ゴッドファーザー』『ディアハンター』なんかのオマージュを感じさせます。長ったらしく結婚式の場面を描くのは、ここで登場人物の関係性の説明をするためというのが普通だと思うんですけど、今作ではあまり関係なかったみたいです、このすぐ後で半分くらい虐殺されてしまうので。
貧困層による暴動ということで同情の余地を持たせたり、逆に富裕層の方にも感情移入できる部分を持たせたり、ということは一切していないのが印象的でした。徹頭徹尾、冷徹な視点を持って惨劇をカメラに納めているという感じです。
ドキュメント的な手法なのかと思っていたんですけど、観続けていく内に、この冷徹な視点は軍隊や体制側が持っている視点に近いと思うようになっていきました。人の感情を持った視点ではないし、対象にしている人のことも人と思っていないような視点なんですよね。
抗議デモから起こった暴動があまりにも酷い暴力行為になっているので、体制側の軍が厳しくなるのも無理からぬことのように見えてくるんですけど、これがすごく現実的な罠になっていると思います。そこから、軍の一部隊による略奪行為が第2の地獄として描かれ、それを統率する軍部全体の行動を描くのが第3の地獄として描かれています。
人間としての優しさを見せてくれるのが主人公のマリアンヌなので、どうしてもそこに救いを期待する、すがるような気持ちで観てしまうんですけど、それをあっさりと裏切る容赦のない脚本は、「現実とはこういうものだ」という身も蓋もないメッセージを叩きつけてきます。ご都合主義の真逆をいく、「アンチご都合主義映画」といえるものです。
ただ、スリラー映画、鬱ホラー映画というような露悪的な部分はあまり感じさせず、本当に現実的に起こり得る出来事で脚本を淡々と書いていたら、この結末に辿り着いたという必然性すら感じさせるラストになっているんですよね。それが何よりも恐ろしく感じます。
結局、この救いのない物語で何が汲み取れるのかを考えた時、暴力は何も生み出さないということなんだと思います。貧富の格差は是正されるべきものですが、それを暴動や略奪行為で一時的な意趣返しをしても、貧困問題の解決にはならないし、何よりも体制側が「新しい秩序」という力を持つ口実を与えることにも繋がってしまうんですよね。
じゃあ、どう戦っていけばいいのかというと、こういう映画を「創り出す」ということも、そのひとつなんじゃないかと思います。酷い出来事を想像して、ちゃんと恐れるということを学ぶことが文化的な意思表示、文化的な戦い方だと感じました。
観て良かったとは、とても言えない映画でしたが、観た甲斐はあったように思えました。ただ、全くオススメは出来ない作品です。
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