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映画『DUNE/砂の惑星』感想 ドデカくブチ上げた始まりの物語


 真っ新で観た人間としては、きちんと続きを待つか、原作を読んでしまうか、迷うところ。映画『DUNE/砂の惑星』感想です。

 遥か遠い未来、宇宙を治める帝国の皇帝は、砂漠の惑星「アラキス」の管理権を、強硬なハルコンネン家から、アトレイデス家に移行するように命を出した。惑星アラキスは、全てのエネルギー源となる「香料スパイス」の中でも最高峰の「メランジ」を採掘出来る星で、その惑星を治める者が、皇帝に次いで時の権力を握ると言われていた。レト・アトレイデス公爵(オスカー・アイザック)は、その命令が、勢力を伸ばすアトレイデス家とハルコンネン家を争わせて弱体化させるという皇帝の狙いと理解しながらも、命令に従うしかなかった。
 公爵は、愛妾のレディ・ジェシカ(レベッカ・ファーガソン)、子息のポール・アトレイデス(ティモシー・シャラメ)と共に、惑星アラキスへ移住し、現地の先住民「フレメン」に接触して、融和政策を図ろうとする。だが、その裏では既にハルコンネン家の陰謀が蠢いていた…という物語。

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 フランク・ハーバードの名作SF小説『デューン 砂の惑星』を原作にした映画作品。過去に幾度も映像化が試みられていて、アレハンドロ・ホドロフスキーが10時間以上の大作映画として企画するも頓挫(後に『ホドロフスキーのDUNE』というタイトルで制作構想がドキュメンタリー映画となっています)。その後、デヴィッド・リンチが映画化しましたが、原作のダイジェスト版のようなストーリーで、低評価に終わっているそうです。
 まだ成功していない名作の映像化に再度挑んだのは、『メッセージ』『ブレードランナー 2049』で知られるドゥニ・ヴィルヌーヴ監督。『メッセージ』の哲学SF、名作『ブレードランナー』の続編を成功させた手腕を考えると、納得の人選かもしれません。
 自分は、原作本も未読、リンチ版も『ホドロフスキーのDUNE』も観ておらず、全くの白紙状態で観てみようと、しっかりとIMAXで堪能してきました。

 世界観の予習もほぼ無しで観たところ、聞き馴染みのない用語がかなり登場してきました。そして、それらの用語はあまり説明されないまま話が進んでいくんですね。これは初心者に優しくない作りではあるんですけど、自分としてはこのスタイルの方がしっくりくるというか、入り込みやすかったんですよね。
 用語の説明がないといっても、前後の台詞やシーンを観ていれば、どんな意味の言葉、どういう名称のものかが、行間で理解できるようになっているんですね。エネルギー源としての「香料スパイス」、戦闘時の「シールド」など、まどろっこしい説明なしで理解出来ました。画面の比喩表現ではないですが、それと同種ですごく映画的な手法だと思います。

 SF作品って、世界観の作り込み自慢なところがあるんで、どうしても説明文を入れがちなんですよね。いっそモノローグでも入れれば潔いんですけど、それ以外の方法を追求して、登場人物が不自然な説明台詞を入れるパターンが多くて、それで醒めてしまうことがあるんですね。その世界で常識になっているものを、いちいち詳しく語るなよ、と思ってしまうんです。そういう意味では、説明を省いて、尚且つ画面で理解させるという表現は、すごくスマートでカッコいいものだと思います。

 さんざん絶賛されている映像美はもちろん凄いんですけど、インパクトがあったのはハンス・ジマーが手掛けた劇伴でした。メロディを聴かせる高音よりも、重低音中心のドローンミュージックで、音楽というよりも効果音のような感じなんですよね。漫画での「ゴゴゴ…」「ドォーン」みたいな実際には鳴っていない音の演出に近い効果が出ています。IMAXの画面没入感には、この音響的な音楽の役割が大きかったように思えます。

 物語は、いわゆる「亡国の王子」もので、結構ベタですね。何しろ1965年の小説が原作なので、こちらがルーツなのかもしれませんが。『バーフバリ』みたいだな、とか思ってしまいました。けど、そのベタさが思春期に摂取していたファンタジー作品、RPGなどの世界観に近くて、中二病をくすぐられますね。

 ただ、予備知識なしで観たとはいえ、原作がとにかく長い物語というのは聞いていたので、その割にはテンポが異常にゆったり進むんですよね。正直、そんなペースで大丈夫かと、勝手にヤキモキしてしまいました。けど、そのテンポ感が壮大さの演出にもなっていたようにも思えます。
 この辺りは、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の作家性も大きく出ているのかもしれません。『メッセージ』でも何が起こっているのかを説明しないけれど、とにかくデカい事態が動いている空気を作る手法が好きなんだと思います。

 それと、2時間半かけて、ゆったりしたテンポでも退屈しないのは、主演のティモシー・シャラメの顔面力もあると思います。もう男とか女とか関係なしに、欧米人の完成形みたいな美しさですよね。「憂いのある表情」の最高峰を見た気がします。

 リンチ版は、かなり気持ち悪いクリーチャーが登場して、アングラ感があるようですけど、今作ではあまりアングラ感はないですね。ドデカいサンドワームは迫力満点ですが、逆に言うとそれくらいで、もっと色んな未来生物を見たかった気がします。暴力描写も、直接カメラに収めることなく描かれているので、かなり幅広い層に観てもらうことを意識しているからかもしれません。

 一応、原作本の半分程度までが今作で、Part2で完結予定のようですが、本当にあと2、3時間で収まるのか疑問でもあります。かなり原作から端折っているらしいですが、今回のストーリーってジャンプ漫画でいったら第1話か、長くても第1巻って感じですけどね。

 エンタメとしては文句なしに面白いんですけど、気になった点が、今の時代に製作された割には、「選ばれた血筋が持つ特殊能力」「命を差し出す、命を奪うことで示す勇敢さ」みたいなのは、現代の価値観にそぐわないように思えてしまいました。まあ、続編でそれらを否定してくれるのかもしれません。完結を気長に待ちたいと思います。


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