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いいねの「質」は、いいねの「数」ではわからない | ズレから探る“今どき”のメディア環境(前編)

このnoteは、日経BP社より刊行された「アフターソーシャルメディア 多すぎる情報といかに付き合うか」(法政大学大学院メディア環境設計研究所編)を、皆さんにより知っていただくために、7月22日に開催されたウェビナーに基づいたものです。

後編『見たはずのフェイクニュースを「覚えてない」』のnoteはこちら

(登壇者)
白井瞭…リ・パブリック
藤代裕之…法政大学社会学部教授
吉川昌孝…博報堂DYメディアパートナーズ
根本藍…法政大学社会学部4年

ソーシャルメディアが生活に浸透し、PV数やシェア数など、定量的なデータが様々な形で見れるようになっています。
そのおかげで今までわからなかったことが、手に取るようにわかるようになりました。
市場に出回る様々な商品や情報、コンテンツもそれらのデータを活用した上で、戦略が練られているのは今や当たり前のことです。

ところが、研究者や現場で働く人の間では「データで数字は出るのに、今のメディア環境はわかっているようで、わからない」ということが囁かれるようになっています。
その「わからなさ」を解明しようと、調査をスタートさせたのが書籍「アフターソーシャルメディア」です。


「バズっている」はずなのに、みんな「知らない」

藤代:業界やプレスリリースで「若者に見られている」と言われていても、授業で学生に「このバズっている事例を知っていますか」と聞いてみると、反応はパラパラという感じでなんです。
なぜデータを取っている企業の発表と、学生の反応が合わないんだ、と感じていました。

現在、人々の行動データを活用して、より効果的な情報発信やコンテンツ制作が行われています。そして、作ったコンテンツがどんな反応を得ているのかもデータになります。

白井:今はマスメディアの時代と違って、ある広告がどれくらいのビューを獲得して、どれくらいエンゲージメントされたのか、定量的なデータで見ることができます。それでもわからないことなんですね。

データ上では「バズっている」「若者に人気」のアプリやコンテンツでも、授業で聞くと知っている学生は少ない。

今のメディア環境は、一筋縄ではいかなくなっているようです。
そして、データでわかることと実際の様子は大きく違っています。


心からの「いいね」と、とりあえずの「いいね」

吉川さんの所属する博報堂DYメディアパートナーズのメディア環境研究所は、人が普段の生活の中でどのようにメディアを利用しているのか観察する「メディアライフ密着調査」を実施しています。

ある調査対象者は、某定額制動画サービスで映画「La La Land」を「みんな観ているから」という理由で観始めました。

しかし始まってすぐのダンスシーンで急にスマホを取り出します。ネタバレを気にせず内容を検索していたのです。その後、途中で映画をやめてしまいました。

なぜ内容を検索していたのでしょうか。調査員が尋ねると「評判だけで選んだからどんな映画か知らなくて。ミュージカルだって今知りました」と答えました。

吉川:某定額制動画サービスの方々がこの調査結果をご覧になった時、こうやって見られているのか?!ってすっ転んだというか。
データで「何人が観ていて、どれくらい再生されて、最後まで観る人は何人」と全部出ますが、どういう生活の中で観ているのかというのは、ここまで現場に行かないとわからないんです。

他にもデータでは見えない、人々のメディアの使い方があります。例えばソーシャルメディアの「いいね」です。

ウェビナーに参加していた大学生はチャットで、「心から『いいね』する時と、とりあえず『いいね』する時があって、質の違いがある」とコメントしました。

登壇者で同じく大学生の根本さんも、「自分のタイムラインの上の方に上がってほしいから『いいね』する時や、共感して何回も押したくなる時がある」と答えました。

これらの意見からは、共感の「いいね」だけでなく、ブックマーク感覚のとりあえずの「いいね」などを使い分けている様子が見えます。


「わからなさ」の原因とズレ

これらの「いいね」の使い分けは、「いいね」の数だけではわかりませんし、内容を知らずに映画を見始めたこともデータからはわかりません。

冒頭で「バズっている事例への大学生の反応がいまいち」というエピソードがありましたが、受け手は情報を目にしていても、記憶に残っていないことがあるのです。

データは、人々が情報にどう接しているかは明らかにしてくれません。それが「わからなさ」の原因です。人々がどのように、情報と接しているのかを調査したところ、メディアや情報との付き合い方の「ズレ」が、より「わからなさ」を深めていました。

後編では、これらを含めた様々なズレの事例を見ていきます。



本ウェビナーの動画はこちら↓





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