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8月の日曜日に『対話』というテーマでアラフィフ(推定平均)の男女4人は何を語り合ったか?

AFTER BOOK CLUBの前半のセッションは、だいたい複数のテーブルに分かれて3-4人ごとに話し合ってます。8月はお盆の週末ということもあって参加者数が少なく(今までで最少の8名)、2グループでいいよね、ということでグーとパーした結果、たまたま年齢層でスパッと分かれました。
でも実は、この記事を書くために、後から振り返ってそのことに気づいたんですよね。いつも年代差をあまり感じないスタンスで私たち会話している気がします。と思っているのは私たち年上の側だけなのかもしれませんが。

今回はそんな「アダルトチーム」が語り合った内容の紹介です。

それぞれが紹介した本 (発表順)

Mさんの一冊
東 浩紀 [著]『ゲンロン戦記「知の観客」をつくる』

五反田でイベントスペース「ゲンロンカフェ」を主催する著者の半生記で、いろいろなエピソードが詰まった物語のなかからMさんが紹介されたキーワードが以下の二つ。

  • コミュニケーションは「誤配」が大事: あらかじめ決められた目的地ではなく偶然が生み出す過程から新しいものが生まれる

  • コミュニティには「観光客」が必要: 物見遊山的にユルく参加する人がコミュニティを育てる

わたしたちABCの活動も、いろいろな偶然が触媒となって新たな発見が生まれる、リアルなコミュニケーションならではのものだな、と思いながら筆者(O)は話を聞いてました。

Yさんの一冊
マルクス=ガブリエル[著]『わかりあえない他者と生きる 差異と分断を乗り越える哲学』

著者は、NHKのEテレにも出てくるドイツの哲学者です。そう聞くとなんか難しそうな本ですよね。でも通底するアイデアは意外にも「相手の身になって考える」という話だそうです。それだけ聞くと「そりゃそうだろ」とツッコミたくなる人もいると思うのですが、それをこの本では

  • タリバンとわかりあうことはできないが、話し合うことはできる

と言うところまで突き詰めてます。
「わかりあえない相手」を非難するのは簡単ですが、それでは状況は変わらないのだということを、最近のニュースなどを振り返りながら筆者(O)は改めて思いました。

Sさんの二冊
岸見 一郎[著] 古賀 史健[著] 『嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教え』
サン=テグジュペリ[著]『星の王子さま』

この組み合わせは...? そうでした。この二冊はどちらも対話形式なのですね。そしてもう一つの共通点がこれ。

  • 答は書かれておらず自分で導き出す

おぉ。そうでした。どちらの本も有名ですが、筆者(O)は思いつきませんでした。こういった切り口でそれぞれ本を持ち寄るのがこのABCの面白いところです。『星の王子さま』久しぶりに読みたくなりました。

筆者(O)の一冊
大竹 文雄[著] 平井 啓[著]『医療現場の行動経済学 ―すれ違う医者と患者』

専門家でない人(患者)が課題(病気)を抱えている状況で、専門家(医療者)がどのように対話し働きかければ、最良と思える行動に誘導できるか、と言う本です。極端な例を挙げると、末期がんで余命3ヶ月・治療の余地がない、という状況で「つらい治療を受けるのはもうやめましょう。あとは好きなことをして、時間を有意義に使ってください」と医者が言う。でも患者としては「ここまでやってきたのだから、まだあと少し」と考える状況で、

  • 医者からすれば、患者がなぜ合理的な選択をしてくれないのか理解できない

  • 患者からすると、どうして医者は統計的な数字を上げるばかりで意思決定を迫ってくるのか理解できない

このようなすれ違いがなぜ起こるのか、どのように解消するのが良いか、医療者自身も気付かぬバイアスに囚われていないか、といった内容です。他の3名の方が紹介してくれた本と比べると、心に響く要素は(たぶん)それほど多くなくて、スキル向上のための知識獲得の本だと思います。

対話についての対話

本の紹介のあと、Mさんの「日本にデモクラシーはあるか?」という投げかけから意見交換が始まりました。デモクラシー = 民主主義 = 多数決のようなイメージを持つ人が多いが、対話のない多数決は分断を生むだけであり、それは本来のデモクラシーではないのではないか、という話です。そもそも「デモクラシー」を「民主主義」と訳したのは実は誤訳でキャピタリズム(資本主義)やコミュニズム(共産主義)のような「主義」(-ism)ではないのですよね。王政や共和政と同じく制度・システムを表す概念なので、本来なら民主政(あるいは民主制)と訳すのが正しかった、そのシステムを機能させるためには対話が必要、と言う話なのだと筆者(O)は受け止めました。さらにYさんからは、お仕事でパワハラ事案などの相談を受ける立場からのコメントとして、色々ある中で深刻な事案は少数で、ほとんどが当事者同士のコミュニケーション不足によるもの、答えがなくて良い「対話」・対案を積み上げる「議論」どちらもないので、組織のパワハラが生まれると言う話がありました。いやーそうだよな、大丈夫かニッポン。と思っていたら、中学生のお子さんがいるSさんから、今の中学生は修学旅行を自分たちで計画するという話を伺い、軽い驚きを覚えました。わたしたちの頃とは教育現場も変わってきていて、いまの中学生が大人になる頃には、みんな遥かに対話や議論が上手になっているのかもしれません。「ドーハの悲劇」から「三笘の1ミリ」まで30年(正確には29年だけど)かかりましたものね。と期待しながら、意見交換を終えたのでした。

(本稿執筆者: Oこと帽子のおじさん)

AFTER BOOK CLUBとは?

神奈川県立図書館主催の「After5ゼミ」第1期生がはじめたブッククラブ。
本好きの人もそうでない人も、楽しく月1回集まって読書会をしています。

このnoteでは、読書会の記録やイベント情報、また本や横浜にまつわるお話を公開しています。