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#036『その恋は夏に始まった』|ベッシー・ヘッドの言葉 | Short Story

The love affair began in the summer. The love affair began in those dim dark days when young men and women did not have love affairs. It was one of those summers when it rained in torrents. Almost every afternoon towards sunset the lowhanging, rain-filled clouds would sweep across the sky in packed masses and suddenly, with barely a warning, the rain would pour down in blinding sheets.

The Lovers, Tales of Tenderness and Power (1989)

その恋は夏に始まった。若い男女が恋愛をすることはなかった薄暗い時代に、その恋は始まった。 豪雨に見舞われた夏だった。毎日のように、午後の日没になると低く垂れ込めた雨雲が空を覆い尽くし、前触れもないままに突然まばゆいばかりの雨が降り注いだ。

ベッシーの描いた短編「The Lovers(恋人たち)」は、ボツワナに古くから伝わる恋人たちの伝説を彼女なりに解釈してうつくしく描き出したものである。
ハボロネからほどちかいオツェにある小高い丘「Otse Hill」は通称「Lentswe la Baratani」(Lovers' Hill=恋人たちの丘)と呼ばれる。その昔、若者は親の決めた相手と結婚せねばならず、自由恋愛などご法度中のご法度だった時代、偶然に出会って恋に落ちた二人が、村での家族や立場を捨てて駆け落ちし、丘が二人を飲み込んだという伝説がある。
ベッシーのバージョンでは、最後ふたりが不思議と消えてしまい、丘に飲み込まれたというところまでは描いていないところに特徴がある。伝説は伝説なのだ。
とはいえ、現在でもこの丘は神聖な場所とされているそうだ。そして恋人たちの物語は、アートや演劇などのモチーフにもなっている。

2023年にボツワナのセロウェにあるカーマ3世メモリアルミュージアムでのアーカイブ調査中に、タイプライターで書かれたこの短編集の原稿を読みふけってしまい、このLoversもすべて読んでしまった。引き込まれる物語である。


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