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ボツワナ民主主義の希望、58年後の政権交代

南部アフリカの内陸国ボツワナでも、この11月で新大統領が誕生した。

独立以来初めての政権交代は、ボツワナにとって紛れもなく歴史的であり重大な出来事だ。
2024年10月30日に実施された選挙により、野党Umbrella for Democratic Change (UDC)が国民議会の61議席中36議席を獲得し、ドゥマ・ギデオン・ボコ(Duma Gideon Boko)氏が新大統領となった。

英国保護領ベチュアナランドがボツワナ共和国となり、いわゆる伝統的首長(チーフ)の一族であるセレツェ・カーマ(Seretse Khama)氏が初代大統領に就任したのが1966年。

以降、58年に亘りボツワナ民主党(BDP)は与党であり続けた。公正な選挙によって選出されているものの、昔からの王族であるチーフの一族をそもそもの支持基盤とするBDPがボツワナ政治を長年率い、野党はBDPを打ち負かすことができなかったのである。

しかしついに今年、UDCがそれを果たすことになる。ボコ氏にとっては三度目の挑戦での逆転だったようだ。

南アフリカの北に隣接する内陸国のボツワナは、1960年代まで貧しい国であった。
だが、独立直後のダイヤモンド鉱脈の発見により、大きく経済は成長。一気に豊かな国になった。
政情の安定した民主主義国として世界から注目され、汚職が少なく経済も成長し続けた。

前大統領のモクウィツィ・マシシ(Mokgweetsi Eric Keabetswe Masisi)氏の政権下で、経済状況に陰りが見え、非常に安定していた治安も悪化。政府に対する国民の不満は募っていた。

ダイヤモンドを中心とした鉱物資源の輸出が90%を占めるという、モノカルチャー経済からの脱却はボツワナの最重要課題であったが、政府は長年重要なダイヤモンド取引の担い手であったデビアス(De Beers)社ではなく、2023年にはHB Antewarp社との取引を発表した。ダイヤモンド価格の下落による影響はあるものの、国家として非常に重要なデビアス社との関係性を脅かす危険性に、大統領に対する厳しい批判の声があがった。

(これは、わたしも2023年のボツワナ滞在中にタクシーの運転手やセロウェの宿泊先で出会ったデビアス社の人から聞いた)

ダイヤモンドの失政と汚職の疑いで責任を問われたことで立場を危うくしていた前大統領だが、さらに前々大統領のイアン・カーマ氏との対立も、BDPの支持基盤を失う決定打の一つだったのだろう。
初代大統領の息子であるイアン・カーマ氏は、王族カーマ家の出身だ。彼との対立は、マシシ前大統領にとっては非常に不利に働いたはずである。

約250万人と人口も少ないボツワナだが、この経済の悪化で失業率は27%、若年層失業率は45%に上るという。(数値は世銀


作家ベッシー・ヘッドが南アフリカからボツワナに亡命したのは独立前の1964年のこと。
1968年に発表された最初の長編小説When Rain Clouds Gather(雨雲のあつまるとき(仮題))では、アフリカ各国が次々と独立を果たした1960年代、英国保護領からの独立へ移行しつつあるボツワナにおけるチーフ派と反チーフ派の対立、パンアフリカ主義のレトリックを振りかざす政治家が現れる様子が描かれている。

ベッシー・ヘッドというひとは、政党政治や政治的レトリックに翻弄されず、地に足の着いた民主主義や若者の力を信じていたのだろう。小説にはその様子がうかがえる。

では、ボコ新大統領はどのような政治手腕を見せてくれるだろう。

弁護士であり人権活動家でもある優秀な人物であろう彼は、これまでのボツワナを一新してくれるだろうか。

モノカルチャー経済からの脱却、経済の立て直し、失業対策・雇用促進。課題は山積みである。

ベッシー・ヘッドが描いた民主主義は、どんなものだったのか。実現したのだろうか。
小説を何度も読みながら、そんなことを思うのである。


*写真はBamangwato Development Associationによる1960年代農村開発プロジェクトの跡地。この村をモデルにベッシー・ヘッドはWhen Rain Clouds Gatherという農村開発を舞台にした作品を書いた。

*こちらはその訪問の様子です。

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