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#019 死んだ世界を作ることに貢献することなく、新しい世界だけを作ることができますように|ベッシー・ヘッドの言葉|Novel

The dawn came. The soft shifts and changes of light stirred with a slow wonder over the vast expanse of the African sky. A small bird in a tree outside awoke and trilled loudly. The soft, cool air, so fresh and full of the perfume of the bush, swirled around her face and form as she stood watching the sun thrust one powerful, majestic, golden arm above the horizon.
'Oh God,' she said, softly. 'May I never contribute to creating dead worlds, only new worlds.'
A Question of Power, 1974
夜明けを迎えた。柔らかな光の変化が、アフリカの広大な空にゆっくりとした感嘆を与える。外の木にいる小鳥が目を覚まし、大きな声で鳴いた。地平線上に力強く堂々とした金色の腕を伸ばす太陽を見ながら、彼女の顔と体の周りには、新鮮でブッシュの香りに満ちた柔らかい冷気が渦巻いていた。「ああ、神様」と彼女はそっと言った。「死んだ世界を作ることに貢献することなく、新しい世界だけを作ることができますように」

A Question of Powerという小説は、ベッシー・ヘッドの代表作ともいえるであろう重要な作品だが、非常に難解で評価は大きく分かれる。それもそのはず、統合失調症に苦しみ、日々真夜中のベッドルームに現れる魑魅魍魎に殺されかけた「リアルな記録」だからだ。
この作品は、精神病院で一気に書き上げたと聞く。

作中には、セロとダンという善と悪、神と悪魔を兼ね添えたような男の人物とメデューサという恐ろしい女の人物が中心となり、主人公エリザベスを責め立て、時に殺そうとし、精神をズタボロにしていく。
ベッシー・ヘッドの本人の自伝的小説であるこの小説は、主人公のエリザベスもまたベッシー本人と同じ南アフリカの「カラード」で身寄りがなく、所属する土地もなく、孤独に生きている。

アパルトヘイト下に書かれたこのボツワナの村の物語は、ほとんどがエリザベスとこの謎の登場人物たちだ。もちろん、消えたり現れたり巨大になったり小さくなったり、謎の人たちを連れてきたり、などなどだ。
そして、エリザベスに対して、アフリカ社会の善、悪、人種主義、差別、セクシュアリティ、アイデンティティ、様々な「力」の問題を突きつけていくのだ。

読むのも一苦労、のはずなのだが、なぜか恐ろしく引き込まれる作品。
そして、読むたびに姿を変える恐ろしい作品だ。この作家がどれほどモンスター級の天才なのかがよくわかる。

引用の箇所は、前半の最後のパラグラフ。
悪夢から覚めて、生き延びたことを実感するが、悪夢から覚めた朝のベッドルームにもまだ謎の恐ろしい人物がいたりするので侮れない。

後半のさらなる展開に続く前、エリザベスが祈りを捧げる印象的なシーンである。

作家ベッシー・ヘッドについてはこちらのマガジンをご参照

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