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【青春18きっぷ旅行記】中学2年生、世界の広さを知った初めての鉄道旅。

旅をするのが好きだ。
知らない街、知らない人、知らない食べ物――。
些細なことでも、心が躍る。
いつもと違う自分になれる。
もっとたくさん、知りたいと思う。
だから、私は今日も新しい旅に出る。


はじめに

2022年8月。
当時中学2年生だった私は、初めての鉄道旅をした。
あれから、ずいぶんと時間が経った。
いろんな場所に行った。
人生が変わるような出会いをした。
だけど、やっぱり原点はこの時だと思うから、今、ここに書き残しておきたい。

8月14日 

夏休みとはいえ、朝は涼しい。
Tシャツの上からウィンドブレーカーを羽織って、始発の列車を待った。
地方のローカル線、しかもお盆ということもあり、乗客は一つの車両に2、3人だけだった。
景色がよく見える方を選び、窓から外を眺める。
田んぼに朝日が反射してきらきらと光っていた。

いくつかの列車を乗り継ぎ、松本駅に到着した。
ここで日焼け止めを家に忘れてきたことを思い出したが、途中のコンビニで買おうと思い、そのまま乗り換えた。
ここからは大糸線で糸魚川に向かう。白馬まで行ったことはあるが、その先は初めてだ。
一人でワクワクしている私を乗せて、列車は走り出した。

途中、安曇追分駅で下車。
青春18きっぷのポスターになったという駅舎を見てみたかったからだ。
ホームから見える山並みは、普段自分が見ているそれとは全く違った。
今朝、ついさっきまで家にいたのに、一人で、こんなところまで来たのだ。
周りには誰もいなくて、世界が大きく見えた。
空が青かった。

世界は静かで、そして大きかった。
だけど、その中にも確かに人々の日々の営みがあった。
信濃大町駅で下車し、どこに行くか考える。
出発の数カ月前からスケジュールを練ってきたが、泊まる街や長時間滞在する街以外のことは調べていなかった。
観光案内所でパンフレットをもらい、その中でも気になった大町山岳博物館に向かうことにした。

急な坂を登りきり、後ろを振り返ると、そこには驚くような景色が広がっていた。
遠くに連なる北アルプス。眼下に広がる街。
人々は私が見ていることなど気付きもせず、それぞれの人生を送っている。
理由は分からないけれど、それがすごく嬉しくて、しばらくその場でぼんやりと眺めていた。

駅に戻ると、すでに次の電車がホームに停車していた。
決して速くないけれど、少しずつでも前へと進んでいく大糸線が好きだ。
南小谷駅まで来ると、景色がかなり変わっている。線路のすぐ近くを川が流れていた。
ここからはJR西日本だ。

気動車特有の匂い。音。
まとわりつくような暑さ。空気。
人々の話し声。
どれもこれも、実際に来てみなければ感じられないものだ。

海が近付いてきた。
奥にあった山がなくなって、深い青色が見える。
海なし県に住む者の性か、「海だー!」と叫びそうになった。
終点、糸魚川。
地名を聞いているだけでなんだかワクワクする。

ここからはえちごトキメキ鉄道に乗る。
青春18きっぷでは乗れないから、別に料金を払わなければならない。
北陸本線だった頃に乗ってみたかったなぁ……。

車窓からは日本海が見える。
天気はあまりよくなかったけれど、「日本海側は曇りの日が多い」というのは本当なんだなあと、それすらも感動してしまった。
学ぶ→実際に体験する→気になってまた学ぶ、のサイクルが楽しすぎる。

途中であいの風とやま鉄道に乗り換えた。
もともと乗り換えの時間が短かった上に、電車が遅延していたので、間に合うか不安だったけれど、なんとか間に合った。
買えていなかった切符も車内で買うことができて、安心した。
あんまり行程を詰めすぎるのは良くないなぁ……と、少し反省した。

富山駅は、県庁所在地というだけあって大きかった。
飲食店やバスターミナル、ショッピングモールなどもある。
少し駅前を散策した後、食べていなかった昼食を食べるために、駅の中にあるチェーンの居酒屋に入った。
昼間なのに飲んでいる人がたくさんいたり、お通しがやたら高くて驚いたりしたけど、いい経験になった。

ここからは高山本線に乗る。
岐阜にはあまり行ったことがない。
いつも車や電車で通過するだけだったから、初めての場所にかなりワクワクしていた。
ホームから見えた北陸新幹線は、写真で見るより100倍かっこよかった。

山の中を一時間ほど走ると、猪谷という駅に着いた。
周りは360度山で、さっきまで海の近くにいたのは嘘なんじゃないか、と思うほどだった。
小さな駅舎には駅ノートが置いてあった。
「この駅が大好きです。」といった、駅への愛を綴ったものから、
「乗り過ごした。さいあくだ。帰りたい。何もない。」などの悲しみを綴ったものまで、様々な書き込みがあった。
すでに何冊にもなっていて、書き込みの一つ一つに、この駅を訪れた人々の人生が詰まっているようで、とても素敵だった。
猪谷駅が好きな個人の方によって置かれているというそのノート。
インターネットが発達した今だからこそ、手書きの文字の温かみや、ノートの手触りがより心に響く。
乗り過ごした人も、山奥の誰もいないこの駅で、ノートを読んで少し救われていたのかもしれない。
自分でも書き込んで、ホームに戻った。

列車はいくつものトンネルを抜けながら、南へと進んでいく。
思わず息をのむほど美しい森や活気あふれる温泉街を見ていると、つい眠くなってきて、しばらく寝てしまった。
目を覚ますと、辺りはすっかり暗くなっていた。
高山。
今日はここに泊まる。

スマホの充電はとっくの昔に切れてしまっていたため、駅前の交番で宿泊先までの行き方を教えてもらった。
それでもかなり迷ったから、目的地が見えたときには本当にほっとした。
そこは家族経営のゲストハウスで、ラウンジでは旅行者の方が交流できるようになっていた。

ドミトリーや設備の説明を受けたあと、ラウンジで夜ご飯を食べた。
他の旅行者の方と話したり、アイスを分けてもらったりして、楽しい時間だった。中学生だと話すととても驚かれたけど、「旅は楽しいよ」と言ってくれた。
明日の予定を確認して、アラームを3つ設定してから寝た。

8月15日

朝4時。
同じ部屋の人を起こさないよう、静かに着替え、お礼のメモをラウンジに置いて、ゲストハウスを出た。
街はまだ目覚めていないけれど、駅の中には意外と人がいた。
大きなキャリーケースを持っている人。スーツ姿の人。ジャージを着た学生。
新しい一日が始まる。

車内は人もまばらで、余裕を持って座ることができた。
朝日を受けて輝く緑が眩しい。
寝たり起きたりを繰り返しているうちに、列車は岐阜に到着した。

金華山ロープウェイに乗って岐阜城へ。
ロープウェイからは岐阜市が一望できて、とても綺麗だった。
時間の都合で岐阜城の中には入れなかったけど、間近で見ることができて大満足だ。
帰り、有名な「板垣死すとも自由は死せず」の現場を通り、ちょうど歴史の話をしていたこともあって、テンション爆上がりだった。
時間はあっという間に過ぎて、岐阜駅に戻る。

岐阜からは新快速に乗り、大阪を目指す。
途中で12時になり、電車の中でひとり黙祷した。
80年近く前、人々はどんな気持ちで放送を聞いたのだろうか。
空は、ただ青かった。

大阪に着いた。
聞こえてくる言葉、店先の看板、気温、全てが別世界だった。
驚きと興奮が収まらない中、あべのハルカスに向かった。
衝撃だった。
どこまでも広い大地。密集して建っている建物は地平線まで続いていて、終わりが見えない。
お金がなくて一番上までは行けなかったものの、大阪平野の広さを実感した。

その後、夕方までどう過ごそうかと考えて、甲子園に行ってみることにした。
JRとバスを乗り継いで、兵庫県へ。
途中、阪神模様のローソンがあって、思わず笑ってしまった。
本当に遠くまで来たのだと思った。

駅に着くと、高架の向こうに甲子園が見えた。
ずっとテレビで見ていた甲子園。蔦の絡んだ大きな球場。「阪神甲子園球場」の文字。
それが今、目の前にある。
感動で涙が出そうになった。

その日の分の席は既に売り切れていて、入ることはできなかったけれど、歓声と熱気が外まで伝わってきた。
グッズショップで甲子園の手拭いを買って、梅田に戻った。

夜ご飯は串カツを食べた。
大阪に行ったことのある友達から、「串カツがすごく美味しかった!」と聞いていたから。
カウンター席に座ると、隣に座っていた男性が私の持っている袋を見て「甲子園行ったの?」と話しかけてくれた。
しばらく野球の話で盛り上がって、とても楽しい夕食になった。

食べ終わると、辺りは薄暗くなっていた。
今日は京都に泊まるので、新快速に乗る。
ここで私は、自らの大失態に気がついた。
宿泊するゲストハウスの最寄り駅を覚えていなかったのだ。
スマホの充電はとっくに切れていて、検索することもできない。
今思い出すと笑ってしまうような失敗だけれど、当時の私はそのことに気がつき、とても焦った。
とりあえず京都駅から、「こんな感じのところだったはず!」というレベルのおぼろげな記憶を頼りにJRと地下鉄に乗った。
そして降りるとすぐに交番を探し、道を聞いた。
若いお巡りさんは、長野県から一人で来たという中学生に驚きながらも(というか家出を疑いつつも)、メモに地図を書いて、ていねいに説明をしてくれた。
どうやら私は地下鉄で数駅離れた駅で降りてしまったようで、そこから1時間ほど歩いたけれど、無事着くことができた。
部屋に入った時は本当にほっとした。

シャワーを浴びて、荷物を整理すると、もう時間は23時近くになっていた。
明日はどうしようか。窓の外を眺めながら考える。
やっぱり、甲子園に行きたい。野球が観たい。強くそう思った。
クレジットカードは使えないから、チケット売り場が開く時間に行くことにして、寝た。

8月17日

朝4時。
着替えて荷物をまとめ、外に出ると、生ぬるい空気が全身を包んだ。
朝からこの暑さということは、昼間はもっとキツそうだ。暑いのは得意ではないけれど、それ以上にワクワクが大きくて、飲み物を買おうという発想には至らなかった。
この時にちゃんと対策をしておけば、後は楽だったはずなのに……。
電車を乗り継いで甲子園まで行くと、朝の光に包まれた甲子園が見えた。
チケットを買ってから、近くのお店で朝ごはんをテイクアウトして、甲子園に入った。

通路沿いにはいくつものお店が並んでいて、朝から何も食べていない私の胃袋に直接訴えかけてくる。
それらを振り切って角を曲がると、すぐ外に出た。
圧巻の光景だった。
スタンドを埋め尽くすほどの観客。容赦なく照りつける太陽。そして、眩しいほどの芝生と真っ黒なグラウンド。
甲子園だった。

自分の席に座ると、想像していたよりグラウンドは近くに見えた。
選手の息遣いまでがこちらまで伝わってくるかのようだ。
本当に暑い日だったけれど、青い空の下、真っ白なボールを追いかける選手たちは本当に生き生きとしていて、甲子園を目指して努力し続ける高校球児の気持ちが、人々が野球を好きな理由が、分かった気がした。
こんなところでプレーできたらどんなに楽しいだろう……。
暑さで飲み物はすぐに無くなってしまったけれど、それも気にならないほどに、甲子園という場所に、野球というスポーツにワクワクした。
本当に楽しい時間だった。

帰りの電車の時間などの都合で、後ろ髪を引かれる思いで甲子園を出た。
この後も何度か甲子園に行ったけれど、初めて行ったこの時の興奮が更新されることは当分ないと思う。

帰りの新快速に揺られながら、短いようで長かった三日間を思い出す。
自分一人で、本当に遠いところまで行った。
失敗もたくさんしたけど、それすらも楽しくて、ワクワクが止まらない三日間だった。
出会った人、もの、景色……全てに感謝だ。

家に帰って、久しぶりに自分の部屋でぐっすり寝た。
旅は楽しかったけれど、山のある地元の風景も私は大好きだ。

おわりに

とにかく濃かった二泊三日。
たくさんの人に助けられながら、さまざまな場所を巡った。
あの夏の思い出は、今でも私の心の中に色褪せずに残っている。

旅が好きだ。
あの時から。
旅に出る朝の、少しの不安と緊張と、その何倍ものワクワクは、一回味わってしまうと忘れられない。

実際に行ってみないと分からない、等身大の街、「素」の街を知りたくて、私はいつも旅に出る。
これまでも、これからも。
新しい景色を見るために、私は今日も次の旅の予定を立てている。


最後まで読んでくださり、ありがとうございました!
その時に撮った写真はカメラの関係で転送できず……文字だけになってしまい申し訳ないです。
これからも旅行記を投稿する予定なので、その時は載せられるようにします!










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