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短編小説:元彼とセックスと冥福と

元彼が死んだと、なぜか元彼の嫁からインスタでメッセージが届いたのは、私は旦那に正常位で突かれているときだった。

 旦那は私が他のことをしているときに挿入するのが興奮するらしい。もう随分と私はセックスをSmartNewsやアマプラを見ながらやるようになった。旦那は私が感じると嫌がる。素っ気なくされるのが興奮するらしい。私も旦那とのセックスは大して気持ち良くもないので、助かるっちゃ助かる。「感じたいのだけれど、感じてないふり」をしなくてはならないので若干面倒くさいけれども。結局は感じないのでふりをするふり、つまり素のままでいいということだ。ようわからんけど。

 元彼とは別れて10年が経つけれど、時々やりとりをしてまた会いたいだの、会えたらいいねだのそんなことをダラダラしていた。インスタからメッセージが送られると言うことは、これまでのやりとりも嫁に読まれている可能性が高い。めんどくせえなアカウント入れないようにしとけよ、と思わず舌打ちする。

 その舌打ちに旦那は興奮したのかまた激しく突き出す。違う違うそういうことじゃないんだけどなあ、と感じたいのを我慢しているような顔をしてまたスマホの画面に向かう。

 これって慰謝料とか請求されるパターン?でも実際に会って不貞行為があったわけじゃない。元彼とは結局一度も会うことはなかった。インスタでお互いの存在を知ってそこからやりとりしてるだけだから、結局は何にもないのと同じではある。ていうか旦那のインスタから元カノに連絡する時点で若干サイコさんじゃん。怖え。

 元彼とは中学の時、ほんの一か月付き合っただけだった。

 片思い期間は長かったけど、いざ付き合うと何をどうしていいかお互いわからず結局手も繋がずに終わった。付き合おうは盛り上がったけれど、別れようの言葉もなく、自然に終結した。まああの頃の恋愛なんてそんなもんか。

 その後私は着々と性体験を積み、新卒で入った会社の3年上の先輩と結婚することになった。それが今のよくわからない性癖を持つ旦那だった。社内でも出世頭だったので、いいのをつかまえたとは思う。この性癖も慣れてしまえばなんてことはない。ぜんっぜん気持ちよくないけどな。

 元彼とは大学を卒業した頃にインスタ経由で連絡がきて何気ないやりとりをしているうちになんとなく盛り上がってメッセージだけのイチャイチャモード的な感じで。まあ確かに健全ではないけど、不倫っていうのとは違うと思う。別に心で繋がれてるわけじゃなく、中学時代の延長のささやかな交流だったのだから。まあリアルトキメモみたいなもんか。知らんけど。

 というか、そっか、死んだのか。

 今更ながら元彼嫁から届いた内容を読み返す。

 先月末に病気で亡くなりました。

 最後にやりとりしたのが一ヶ月前くらいだったから、その時にはもう病気だったのかもしれない。不治の病?なんの病気がはっきり言わないところが「私しか知らないんで」という嫁のマウントなのだろう。「なんの病気ですか?」と聞いてやった方が嫁も溜飲が下がるのだろうなあ。まあ送らんけどね。元彼はメッセージ上では元気な自分を演出的な感じで中学時代の淡い恋愛に想いを馳せていたのだろう。結構めんどくさいやつだったんだな。

 でも、そうか。

 死んだのか。

 人の死なんて3年前にひいじいちゃんが死んだ時くらいしか経験がない。

 こんな若くても死ぬんだな。

 あ、やばいちょっとうるっときてしまった。

 泣きそうになったので旦那とのまぐあいに意識を戻す。意識を戻したところで気持ち良くなさには変わらない。それでも出たり入ったりするあれの感触は紛らわせてくれるだろう。

 正常位で突きつづける旦那とふと目が合う。

 普段目が合うことなんてないのに。

 必死で腰を振っていたのは、旦那ではなく元彼だった。

 元彼がいじらしい顔で私の目を見てくる。

 じんわりと股が濡れてくるのがわかった。

 意識しても止められず、やがて私は喘ぎ声を出していた。

 元彼が激しく私を突く。

 私は絶叫する。

 ことが終わると、旦那は不満そうに、だから感じるなっつったろと捨て台詞を吐いた。自分のテクに我慢できなくなったしょうがねえ女だと言わんばかりに。おめえで感じたんじゃねえんだよ、この仮性包茎が!とはもちろん言わない。ごめんね感じちゃってと愛くるしい顔で旦那を風呂場へ見送る。

 元彼が気持ちよさそうにしている顔が目に焼き付いている。

 そっか、君は死んでまでも私とヤリたかったのか。

 インスタのメッセージを削除してついでにアカウントも削除した。

 慎まずご冥福を祈るよ。バイバイ。

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