精緻なターゲティング広告と「在庫/リーチ」のトレードオフ問題

「デジタルマーケティングでは精緻なターゲティングができる」と言われるが、これは半分正しくて半分は重要なことを敢えて言及しないポジショントークでもある。企業の広告・プロモーション担当者が気にすべき「在庫」や「リーチ」の視点を加えたときに、精緻なターゲティング広告類で起きがちな課題にについて、いくつか列挙したい。

マスリーチはテレビとYoutube

LINEやメルカリ或いは各種アプリゲームは、最初はテクノロジー企業として口コミやiメディア広告に頼るのだが、マスマーケットに手を広げるタイミングで必ず大量のテレビCMを投下している。メディア接触時間でテレビの消費時間が減ったとはいえ、民放の放送局数が各エリアで2-6チャンネル程度しかないのと比べて、WEB/アプリメディアは大量の媒体が存在し消費時間は分散しているためだ。

もしWEB広告でテレビ広告を越えようと思うと、民放テレビ1局に消費する時間と同等まで消費時間を集める有力メディアが育つのを待つか、国民全員のユニークIDを獲得してその個人情報を元にターゲティングするか、いずれかが必要である。現時点では前者に最も近い位置にいるのがYoutubeで、その次が各種SNSサービスとなるが、それでも現時点では10-30代へのリーチの補完としてテレビ広告100%に対して12~15%程度の予算を割く程度にしか意味がない。

精緻なDSPターゲティングより荒削りなGDN

昨今は、企業のIPアドレス、名刺管理サービスや転職サイトの職種情報などアクチュアルなデータを活用したDSPターゲティングが可能だ。

しかし、IPアドレスターゲティングの場合は、固定IPアドレスを採用している大企業にしか使えない。職種ターゲティングも確実ではあるが、全ての人が特定の名刺管理サービスに登録しているわけでもなければ転職サイトに登録しているわけでもない。精緻なターゲティングができることは確かなのだが、配信できる在庫が足りなくなる。

結局、ある程度の量を投下して誘導をかけたい場合は、在庫量の多いGDNに対して、カスタムオーディエンス・アフィニティなどを駆使して「近しいが荒削りなターゲティング」をした方が獲得効率が良かったりするものだ。

Google AdWordsで設定できるキーワードもYahoo!ヤフープロモーション広告で設定できないことがある

精緻なターゲティングの代表といえば検索連動型広告だが、ここにも限界がある。一定の検索ボリュームがあるワードでなければ配信されない。特に、国内では検索マーケットをGoogleとYahooが二分していると言われているがGoogle とYahooでも差があり、Google で登録できたワードがYahooでは検索ボリュームが足りずに登録できないということがある。

GoogleにせよYahooにせよ、検索連動型広告においても、ビッグワードを許容しないと殆どインプレッションが出ない。

自社のメルマガより媒体社メルマガ

最後にB2Bの事例も挙げる。

精緻なターゲティングな文脈で、パーソナライズされた顧客体験として、「自社サイトのコンテンツを充実させ、サイト閲覧状況に併せてマーケティングオートメーションでシナリオを作って商談に繋がりそうな顧客に的確なメールマガジンを配信する」というストーリーをベンダーから提案されることもあるだろう。

しかし、自社でコンテンツを充実させることは容易ではない。数年でコンテンツは古くなる。

更に、B2CのAmazonのレコメンデーションのように大量に併売するような場合であれば、購買状況に応じてセグメントを切ることができるのだが、B2Bの場合、オウンドメディアで様々なページを見てくれる人が圧倒的に少ない。殆どは一見さんであり、強制的にリードに対して育成のメルマガを送っても大半は閲覧して貰えない。「リードに対して商談成功率につながるような閲覧行動の違いの情報が蓄積しない」という現象が起きる。

従って、オウンドメディアを充実させることに頭を悩ませるよりも、さっさとB2B系のメールアドレスを大量に保有しているWEB媒体社に対して、購買意欲のアンケート付きのリード獲得メルマガ・WP施策を行ったり、媒体社のリード獲得施策で取得したリードに意向確認電話をひたすらかける、という乱暴な施策の方が意味があったりすることもある。