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「デジタル原始人」は、どんな2100年を夢見るのか?

「あなたが2100年にいるとして、2023年以降に起こった最も大きなデジタルにおける変化は何だと思いますか?」
 
こんにちは。アドビ未来デジタルラボの永瀧(えいたき)です。
様々な業界で活躍する有識者と、ラボの学生研究員とで”ワクワクするデジタル社会の未来”について議論をするアドビ未来デジタルラボのゲストセッションを行いました。この記事ではここで議論した内容についてご紹介します。
 
今回のゲストセッションは、『WIRED』日本版 編集長の松島 倫明さんにお越しいただきました。ご存じの通り、『WIRED』は、テクノロジーによって生活、社会、文化など「未来がどうなるか」について示唆に富む発信をし続けているメディアです。その編集長である松島さんと「ワクワクするデジタル社会の未来」はどんな社会なのかについて議論しました。


1)デジタル原始人なわたしたちは、複数形の未来を考えられるか

松島さんは最初に、現在起こっている「デジタル」の急速な普及は、人類が「火の発見」をしたことに比肩するほどの大きな社会変革であるとお話されました。私たちはそのような大きなターニングポイントにいて、すでに数十年間にわたってデジタルの大きな変化が起こっているように感じています。しかし、未来の人類から見れば「新型コロナウイルスのパンデミックによって、ようやくデジタルを使い始めた」というように、人類が火の使い方を学んだ最初の瞬間と同じように捉えられる可能性が高いかもしれません。この視点を聞いたとき、未来の人類にとっては現代に生きる私たちはデジタルを使い始めた「デジタル原始人」として扱われるのではないかと、悲しいような、可笑(おか)しいような気持ちになりました。

そして未来について考える手法の一つとして、松島さんはニーチェの「過去が現在に影響を与えるように、未来も現在に影響を与える」という言葉を引用し、一方的に決めるひとつの未来「Future」ではなくて、どれだけの複数形の未来「Futures」を描くことができるかが、ワクワクするデジタル社会の未来を考えるうえで重要な視点であると話されました。
 
たしかに私たちは、現在を起点に未来を考えてしまうため、目先の「ありえそうな未来」ばかりを想像してしまい、飛躍した未来を描くことが難しいことが多々あります。しかし、未来から現在を見るという視点で考えることで、「複数形の未来」を想像することが可能となり、アドビ未来デジタルラボでディスカッションするべき様々なデジタル社会の未来像を考えることができると感じました。

2)未来人になった学生研究員が考える2023年以降のデジタル社会の変化

「未来から現在を考える」という思考方法をもとに、学生たちから2100年から過去を振り返った時の最も大きなデジタルの変化は何か、という問いに対しては下記の考えが上がりました。
 
・人体にテクノロジーを組み込んだポストヒューマンが生まれる
・人間と大差のないAI人類が生まれて、人間と同じように生活している
・人格や記憶の転写が可能になり、死生観が変化する
・空間の拡張によって、場所や存在することの定義が変わっている
etc
 
一方で変化しないものとしては下記のような意見が出ました。
・創作活動など、「つくる」ことへの意欲
・他人を想う気持ち
・戦争
・人間同士が闘うスポーツは存在し続ける
・探求心
etc
 
デジタルテクノロジーの進化によって、人間と同等以上の知性を持ったAIの社会進出や、生命や存在の拡張など、大きな社会変化を創造する一方で、人間の本質的な欲望は変化しないという声が多く上がりました。

3)未来のデジタル社会でAIに人権を与えるべきか否か

そんな中、意見が分かれたのが「AIがより高度に進化し、人間と同様かそれ以上の知性をもったポストヒューマンが誕生したときに、そのAIに人権を認めるのか、認めないのか」という点でした。学生たちには「人権を与えるべき」「人権を与えるべきではない」の2つのグループに分かれてもらい、そうしたとき、どんな社会になるかを議論してもらいました。
 
「人権を与えるべき」のグループからは、人類とポストヒューマンによる争いなど、ディストピアな未来になるという意見が多く上がった一方で、「人権を与えるべきではない」のグループからは比較的ユートピアな未来予想が多く出ました。

AIに人間と同様の権利を与えると争いや問題が発生してしまうと考えてしまうのは、人類が奴隷問題などで歩んできた歴史があるからかもしれません。とはいえ、急速なAIの進化を見ていると、人間を超越する知性を獲得するAIが誕生するのは時間の問題で、人類がAIによる支配を受けることに対する潜在的な恐怖を感じて、ディストピアな未来図を描いてしまうのは無理からぬことのように感じます。
 
それでは、「AIに人権を与えてもユートピアになる」というビジョンは成立するのでしょうか?
その問いに対しては、「リストラや裁判など意思決定に精神的に負荷がかかる仕事」など、感情による曖昧さを排する必要があるもの、高度な正確性が要求されるものについてはAIに任せることで、人間にとっては生活しやすくなる可能性が高いのではないかという意見が上がりました。さらに、多くの仕事がAIに代替されることによって、人間は人間という種をより広げていくための宇宙進出など、人間の欲求の根底にある好奇心や探検心をより大きくしていくのではないかという意見が上がりました。

私たちには複数形の未来があり、どんな未来も選択することは可能です。未来を描いてから現在を見てみることで、私たちが求める”ワクワクする未来のデジタル社会”を想像することができ、その理想像に向かって、今をよりよくしていくことが可能になると思います。
 
アドビ未来デジタルラボでは、複数形の未来を洗い出し、議論し続けることで、よりよいデジタル社会の未来を作っていくことにつなげていければと思っています。有識者や学生研究員の意見だけではなく、この記事を読んでくださった皆様からのご意見も伺えればと思っています。デジタル社会の未来についてあなたの意見もこの記事のコメントで教えてください。
 
今後もゲストと学生研究員とで行った議論については紹介していきますので、お楽しみに!

ゲスト:松島 倫明 氏
『WIRED』日本版編集長。内閣府ムーンショットアンバサダー。NHK出版学芸図書編集部編集長を経て2018年より現職。21_21 DESIGN SIGHT企画展「2121年 Futures In-Sight」展示ディレクター。訳書に『ノヴァセン』(ジェームズ・ラヴロック)がある。東京出身、鎌倉在住。
執筆者:永瀧 一樹(えいたき かずき)
ソーシャルメディアマネージャー 大学院でグラフィックデザインや映画制作を学び、以来、Adobe Creative Cloudのヘビーユーザー。子どものころの夢は学校の先生で、教員免許まで取得したけど、今はなぜかアドビでソーシャルメディアを担当している。学生や若者が活躍するデジタル世界を作ることに心を熱くしている。

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